『器用さの試練』 3
地下5階。
「……大きい」
ファニー王女が扉を見上げる。
「『守護者』のいる部屋ですね。開けていただけたら、後はこちらの仕事です。ファニー様は見届けてください」
「……わかった」
ユウヤは部屋に入ると、奥にいた1体のゴーレムがゆっくりと動き始めた。
ゴーレムの身長は3m程度。人型をしているが、目も鼻もないのっぺらぼうである。ただし、体全体に点のようなものがある。よく見るとそれは点ではなく、埋め込まれた魔石であった。
近づくにつれ、ゴーレムは段々と動きが早くなる。
ユウヤが間合いに入った瞬間、迫力に富んだ正拳付きを繰り出してきた。
ユウヤは難なくかわすが、ゴーレムはその後も拳、蹴り、頭突き、体当たりなどバリエーションに富んだ連撃を繰り出してくる。巨体にも拘らずその動きは非常に俊敏で、隙がなかった。
(ゴーレムってもっと力任せの印象なんだけどな。こいつはの動きはまるで……拳法の達人みたいだ)
ユウヤは暫く攻撃を躱すことに専念し、ゴーレムの動きを観察する。その連撃は床や壁を破壊するほどの威力があるものの、飛び道具や特殊な攻撃はなく、純粋な物理攻撃しかしてこないようだ。
(様子見はこれくらいでいいか)
「『石弾』」
無数の石弾がゴーレムに命中する。表面がかなり損傷したが、致命的なダメージではないようで、少し動きが鈍った程度だ。しかも、ダメージを負った箇所がボコボコと盛り上がったかと思うと、ものの数秒で元通りに修復された。
続けてユウヤは様々な魔法をゴーレムに放つが、やはり一旦はそこそこのダメージを与えるものの、即修復される。
(物理攻撃はどうだ? )
ユウヤはゴーレムの連撃を躱しつつ、その隙をうかがい続ける。連撃の中で、ゴーレムが突然足を軸にして回転する。
(これだ)
ユウヤは軽くバックステップして間合いを取り、襲ってきた回し蹴りに剣をカウンターで合わせた。
ガシッという音とともに、ゴーレムの右足が切断されて床に落ちる。一瞬遅れてバランスを崩したゴーレム本体も地に倒れた。
しかし、倒れたゴーレムが切断された右足を掴み、その切断面を本体の切断面に合わせると、一瞬にして切断面が消え、ゴーレムは再度立ち上がった。
ゴーレムは何事もなかったかのように攻撃を再開する。
(駄目か……まぁ、普通に倒せるとは思ってなかったけどな。となると、さっきのアレが急所か何かか? )
剣で攻撃する一瞬前、ゴーレムが回転した瞬間、背中の一点が点滅しているのをユウヤの目はしっかりと捉えていた。
ユウヤはゴーレムの横薙ぎの攻撃を躱しざま背後に回り込むと、背中の光目掛けて突きを入れた。
突きが見事に命中した魔石はは点滅を止め、点灯しっぱなしになった。しかしゴーレムの動きは衰えるでもなく、連撃は続く。
(動きは……変化なしか。ただ、変化はあったな。他に変わったところは……あそこか)
見ると、ゴーレムの右手、肩と肘の中間の魔石が点滅している。
ユウヤはゴーレムの連撃の間隙を縫って、ゴーレムの右手の点滅する魔石を剣で突く。小さな点を正確に突くことはやはり難しかったが、4回目にしてようやく命中した。やはり魔石が点灯する。
(剣より拳の方がやりやすそうだな。あと、あれもそろそろ使うか)
ユウヤはアグラヴェインを『収納』で仕舞うと、『加速』『思考加速』を使う。最後の階層ということもあり、ある程度強めに魔力を込めた。
左足の付け根で点滅している魔石を直接貫手で突くと、果たして魔石が点灯する。
(やっぱりな。軽く突くだけでもよさそうだ)
それからもゴーレムの攻撃は一向に衰えず、鋭い連撃は続いたものの、『加速』を使ったユウヤに命中することはなく、点灯する魔石は次第に増えていく。
一度、標的の隣の魔石を着いてしまい、全ての魔石の光が消滅して一からやり直しになるというトラブルがあったものの、その後はミスもなく点灯する魔石のみを正確に突いていくユウヤ。
そして一時間が経とうというころ、胸の中央の魔石を突いた瞬間、全身の魔石から光が失われる。
(ん? ミスった……わけじゃないよな)
ゴーレムはその素早い動きを止めていた。音を立てて全身にヒビが入り、全身が粉々にっ崩れ落ちる。
「ふぅ。ファニー様、終わったようですよ」
と声をかけると、ファニー王女が走り寄ってくる。
二人で小部屋に入ると、祭壇あったのは一対の、漆黒の小手であった。
他の防具と同様の意匠が全体に施されており、美しさと風格を感じさせるがそれだけではなく、指などの関節部分も非常に精巧かつ繊細に細工されており、使い勝手にも非常に優れている逸品のようだ。
「……きれい」
「性能も期待できそうです。せっかく修繕していただいたばかりの小手が不要になるのはちょっと勿体ないというか、申し訳ないのですが……」
「……いい物を使うべき」
「そうですね。……では、帰りましょう」
こうして二人は、『器用さの試練』を突破したのであった。
次の日、目が覚めたユウヤはとりあえず自分の体調を確認する。
(少しだるさはあるか? 筋肉痛は……ないな。昨日くらいの身体強化なら、そこまで負担にはならないってことか……少し掴めてきたかな? )
着替えと朝食を済ませ、暫く待機したうえで、王に『試練の迷宮』突破を報告する。
「見事じゃった。ファニーは役に立ったかの? 」
「それはもちろん。ファニー様の弓のお腕前はもちろんのこと、魔物の知識についても非常に助けられました」
「それはよかった。それはそれとして……すまんが、見つかったアーティファクトを少し見せてはもらえんかの? 」
「はっ」
ユウヤが小手を侍従に渡すと、王は侍従が持ってくるのすら待ちきれないかのように玉座を立ち、小走りで駆け寄ってきた。王だけではなく、周りの貴族も揃って小手の周りに群がった。
「これは……素材は何なんじゃ? 」
「この細工の見事なことはどうじゃ」
「この親指の関節は……」
待機するユウヤをよそにドワーフ達は大いに盛り上がり、皆が満足するまで1時間近くはかかった。内心少しイラっとしたユウヤであったが、さすがに態度には出せない。
「……ああ、待たせてすまんかったの。余りにも素晴らしい逸品なもんじゃでな……いや眼福じゃった。礼を言うぞ」
「はっ」
「『試練の迷宮』を突破したことじゃし、休んでもらいたいと思うのじゃが、余りゆっくりとするわけにもいかんのじゃろう? 小手の修理で時間も取ったことじゃし……ユウヤはどうしたいのじゃ? 」
「良い酒もありますし、ゆっくりしたいのは山々なのですが……やはり、速やかに出立すべきかと」
「わかった。名残惜しくはあるが、止むを得まい。数日中に出立の準備を整えよう。剣の修繕は間に合わんが、アーティファクトの剣もあること、問題ないじゃろう」
「ありがとうございます」
次の日。朝食を持ってきてくれた召使に、外出する事を言っておく。
(教会で『試練の迷宮』の報告と、小手の能力を教えてもらわないといけないからな。シェンノンみたいに目立ったわけじゃないから、散歩がてら歩いていけばいいか)
外出の準備をしていると、ドアがノックされる。
部屋に入ってきたのは、簡素な服を着たファニー王女だった。
「どうされましたか? 」
王女は真ん丸の目でユウヤを見上げる。
「……教会の道案内」




