『力の試練』 1
飛んでいくのは、やはり馬車とはスピードが段違いである。それでも『試練の迷宮』まで3時間程かかった。
入口の扉は山の中腹にあった。脇に管理用であろう建物があるのは他国の『試練の迷宮』と同様だ。
建物で一泊し、準備を済ませた二人は、さっそく『試練の迷宮』に入ることにする。
クァンメィ王女が扉に軽く触れると扉が光を放ち、耳障りな軋み音を立てながらゆっくりと開いていった。
地下1階。
「とりあえず、竜型になれないか試してみます。はぁぁっ……」
クァンメィ王女が全身に力を込めたが、何も起こらない。
「……やはり無理なようです」
「竜型になった竜人族は強力ですから、試練の難易度を下げないためということなのでしょう。まぁ、わかっていたことですし、気を落とさずに行きましょう」
肩を落とすクァンメィ王女をユウヤが慰める。
地下1階は、随分と大きい部屋がひとつあるきりのようだが、魔物が10匹ほどいるようだ。
部屋に入ってみると、魔物は身長が10m程もある巨人だった。
くすんだオレンジ色の肌に、ボロボロになった毛皮らしきものを纏い、腕には巨大な棍棒を持っている、その顔には目がひとつと、黄ばんだ巨大な牙がのぞいている、赤く大きく裂けた口があるきりだ。
(サイクロプスってやつか。デカいな……。とりあえず魔法で)
「『火球』」
しかし、サイクロプスに火球が命中したかと思った瞬間、サイクロプスの前に光の壁が現れ、『火球』が跳ね返される。
「……っ! 『結界』! 」
反射された火球はユウヤがとっさに使った『結界』に命中し、爆発四散した。
(サイクロプスって魔法を反射できるのか……えっ? )
ユウヤの横から、不意にサイクロプスに向かって素早く飛び出す影。
影は誰あろう、クァンメィ王女だった。
飛び出したクァンメィ王女はあっという間に一番前にいたサイクロプスの懐に入り、足を斬りつける。
足を半ばまで切断されたサイクロプスが悲鳴を上げて膝をつくと、クァンメィ王女は見る間にサイクロプスの膝に飛び乗り、膝からさらに肩に飛び乗ると、今度はサイクロプスの首を斬りつけた。
深々と切り裂かれた首元から大量の血が噴き出し、そこからひゅうっと風のような音がしたかと思うと、サイクロプスは地響きをあげて倒れる。
しかし、倒れるサイクロプスから飛びのいて着地するクァンメィ王女を狙って、別のサイクロプスが巨大な棍棒を振り下ろしてきた。あっけにとられていたユウヤには、「『結界』」を張る暇もなかった。
「はっ! 」
鋭い気合一閃、なんとクァンメィ王女は片手を挙げ、サイクロプスの棍棒を難なく受け止めていた。
他のサイクロプスも一斉にクァンメィ王女に襲い掛かるが、クァンメィ王女は父親譲りなのであろう、流麗な動きですべての攻撃を危なげなく躱しつつ、サイクロプスに斬撃を浴びせていく。
(すげぇ……って、見とれてる場合じゃないな)
ユウヤもサイクロプスに突っ込んでいく。
二人はサイクロプスを切り刻んでいき、5分もしないうちにサイクロプスは切り分けられた肉塊と化していたのであった。
「……大したものですね。剣の腕前もですが、サイクロプスの一撃を片手で受け止めるとは」
「我は『剛力』を使えますので。これでも竜人族の端くれです、少しはお役に立ちませんと。それよりも、気になったことが」
「何でしょうか」
「サイクロプスが魔法を反射した、ということです。サイクロプスと戦ったことはございますが、そんな能力はなかったはずですが」
「……おそらくは『力の試練』ということで、能力が特別に付与されていたのではないでしょうか」
「そうなると、他の魔物も魔法が効かない可能性がありますね」
「お互い気を付けたほうがよさそうですね」
ともあれ、地下1階を突破した二人であった。
地下2階。
「地下1階は十字型の通路があるきりのようで、敵もいないようです」
二人が一本道を進んでいくと、十字路の交点に当たるところに扉があった。
扉を開けると、真正面には扉がある。左右の通路は直径5m程で丸い形をしており、どちらも急な上り坂になっているようだ。
二人が部屋に入ると、入ってきた扉が閉まると同時に、左右の通路から「カチッ」という音がした。それと同時に左右の通路の奥から、通路全体を塞ぐような大きさの金属性の球体が大きな音を立てて転がってきた!
「入ってきた扉が空きません! 」
クァンメィ王女が叫ぶ。
ユウヤは反対側の扉を開けようとしたが、こちらも開かない。
「『結界』! 」
ユウヤはとっさに、両方の球体の前に結界を張る。
球体は結界に激突し、大きな衝突音を立てて動きを止めた。
「押しつぶされるかと思いました。さすがにこの大きさの金属は支えられそうにありません」
とクァンメィ王女が胸をなでおろす。
「……止めたのはいいとして、問題は、地下2階への扉が開かないってことなんですよね」
「そうですね……ほかに仕掛けがあるようには見えませんし、ここが『力の試練』であることを考えると…この球を坂の上に戻さないといけないとか、そういったことでしょうか」
「とりあえず、その方向でやってみましょう」
ユウヤは結界を、球体を押すように動かそうとしたが、球体はピクリとも動かない。
(……動かないな。結界で重量物を押すってのは無理なのか? まぁ動かないのなら仕方がないか)
「『剛力』」
ユウヤは『剛力』を使った上で、片側の球体の結界を解除した。
ゆっくりと動き始めた球体を、ユウヤは両手で止める。
「……何とか動かせそうです」
ユウヤは球体を押し始める。急な上り坂ということもあり、『強化』を使っても相当に重いものであったが、ユウヤはゆっくりと進んでいく。
20m程進んだところで奥に突き当たった。
「これでよし、と」
しかしユウヤが手を離すと、また球体がゆっくり動き出した。慌ててユウヤは球体を支える。
「あれ? 球を通路の端まで押し上げたらいいのかと思ってたんだけどな」
「ひょっとして、両方の玉を押し上げないといけないのでは? 」
「と言っても、手を離すと、この玉また転がってくるんですよね」
「我が支えられないか、試してみましょう」
クァンメィ王女は『剛力』を使うと、球体に両手を当てる。
「ユウヤ様、手を放してみてください」
ユウヤはゆっくりと力を抜き、球体から手を放したが、球体は動かない。
「……動かないように支えるだけなら、何とか……あまり長くは持ちそうにありませんが」
「では、そのまま少しの間我慢していてください。もう一つの玉を押し上げてきます」
ユウヤは急いで坂の下に戻り、もう一つの球体を急いで押し上げ始める。
球体を端まで押し上げると、「カチッ」という音がした。恐る恐る手を放してみるが、球体はもう動かないようだ。
坂の下を見ると、地下2階への扉が光っている。ユウヤはクァンメィ王女のところに急いで戻ると、
「クァンメィ様、もう手を放しても大丈夫のようです」
クァンメィ王女は球体からゆっくりと手を放し、もう動かないことを確認すると、大きく息をついた。
「『剛力』を使っても、支えるのが精いっぱいでした。こんな重いものを押して坂を上がるなんて、さすがはユウヤ様です」
「まぁ一応、わざわざ召喚された身ですから。それより、先に行きましょう」




