転生
人間族の国、カレドニア王国の王都、デルフォード城の一室。
王族らしき衣装をまとった者が一名、その後ろに貴族らしき者が10名ほど控えている。
その前では、20人ほどの神官が巨大な魔法陣を取り囲み、何やら祝詞のようなものを唱えながら、礼拝のような所作を繰り返している。
その儀式はだんだんと熱を帯びていき……突然耳を劈く音と、目を開けていられないほどの激しい閃光が発生した。
……そして音と光が消えた後には、一人の男が立っていた。全裸で。
その場にいた全員がしばらく呆然としていたが、貴族の一人が男に怒声を上げる。
「な……な……無礼者! 王の御膳であるぞ! 裸とは何事か! 」
言われた男……勇也は言われて自分を見ると、一糸まとわぬ裸であった。
(げっ!? 素っ裸じゃねーか! えーっと、謝っとくか? いや……ここはハッタリの一つもかまさないとナメられるよな? )
内心とても動揺していたのだが、そのことはおくびにも出さず言い返す。
「……無礼はどちらだ」
「なに!? 」
「そちらの召喚に応じて、神から遣わされた者にいきなり文句をつけるのは無礼じゃないのか? 」
「う……」
怒声を上げた貴族は言葉に詰まる。
と、王らしき衣装をまとった初老の男が勇也に近寄ってきた。
「その通りじゃな。この者の発言は詫びよう。……まずは服を用意する必要があるな」
と言いながら、羽織っていたマントを勇也にかけると、近侍に
「この者に服を持て。着替えた後、謁見の間にて会見を行う」
と声をかけ、貴族とともに部屋を退出していった。
用意された服を着ると、謁見の間に通される。
王はすでに玉座に着座しており、その前の両側に貴族が大勢控えていた。
「この世界にようこそ。余はカレドニア王国48代国王、ウィリアムじゃ。其方の名は? 」
「……ユウヤ、とお呼びください」
「ではユウヤ、我らが其方を召喚した理由は承知しておるか」
「悪しき存在と、その召喚する魔界の眷属の打倒と聞いております。まずは1年の間に、『試練の迷宮』でアーティファクトを集めながら、6王国の力を結集しろと。それ以上のことは召喚先で聞け、とのことでした」
「うむ。それでは少し説明しておこう。悪しき存在とは、ドゥナマ・ダッバレミと言う者じゃ。元々我が国の隣国、魔族の国であるカネム・ボルム王国の宮廷魔導士であった。不世出とも謳われた有能な魔導士であったのじゃが、この者が突如魔王を名乗り、召喚した魔界の眷属を従えて反乱を起こしたのじゃ。現在は首都オグボモショを含むカネム・ボルム王国の南半分を実効支配しておる。それだけならまだしも、かの国には膨大な魔力が滞留しておる場所があってな、そこで魔界の眷属の軍団を召喚し、その力をもって大陸を支配しようとしておるのじゃ」
「なるほど」
「この大陸には我が国を含めて6つの王国があるのじゃが、各国ともこの事態を憂慮し、共同で神託を求めることにした。そしてその結果は、一人の人物を召喚にて遣わす故、その人物と6王国の力を結集し、魔王と召喚される魔界の眷属の軍団を討てと言うものだったのじゃ。使命は重大かつ困難を極めるであろうが、くれぐれもよろしく頼む。まずは準備が必要であろう。可能な限り支援するが、まず其方の希望を聞こう」
「まず、装備一式が必要をいただきたい。次に、『試練の迷宮』の探索と、魔界の眷属との戦いへの他国の協力をお願いしたいと存じます。あと、この肉体は新たに与えられたもので、順応するための時間と環境が必要と神から伺いました。そのため、訓練の環境を整えていただければと。前世では戦った経験もありませんし、魔法と言うものもなかったので」
「わかった。其方のための装備一式は既に手配中じゃ。一か月程度で揃うじゃろう。『試練の迷宮』探索と魔界の眷属との戦いへの協力は、この国では無論のこと問題ない。他の国についても、使節を立てるゆえ、それに同行するがよい。添え状も用意するゆえな。訓練については、オリバー」
「はっ」
その場に控えていた貴族らしき中から、大柄でいかにも武人といった風采の男が返事をし、進み出た。
「ユウヤを頼む。この世界とは全く違う世界から来た者ゆえ、訓練のみならず、この世界についても色々教えてやってくれ」
「御意」
「ユウヤ、この者は我が国の大将軍、オリバー・アイアンサイドじゃ。見知りおけ。……そうじゃな、今のユウヤの強さも見たいので、これより城内の訓練場にて模擬戦を行うこととしたいが、よいか? 」
(おいおい、戦った経験はないって言ったよな? いきなり大将軍と模擬戦って……)
などと思ったユウヤであったが、いやとも言いづらかったので、動揺は隠して訓練場についていくことにした。
訓練場には、王と謁見の間にいた貴族たちだけでなく、大勢の騎士が集まっていた。
真ん中にはユウヤと大将軍、その間に進み出た、謁見の間で王の後ろに控えていた白髪の長髪と長いひげを蓄えた初老の男がユウヤと大将軍に木剣を渡すと、優雅に一揖する。
「私は審判を務めます、カレドニア王国宰相、スペンサー・コンプトンと申します。お見知りおきを。……それでは、これより模擬戦を行います。『治癒』の魔法は用意してありますが、相手に大怪我をさせぬように留意すること。では、始め! 」
ユウヤは開始の合図とともに、とりあえず一歩飛びのいた……つもりが、体が後ろに5メートルほど吹っ飛び、バランスを崩して転がる。
(え!? どうなってんだ? )
何とか態勢を立て直したと思いきや、すでに目の前に飛び込んできた大将軍が木剣を振り上げていた。
横っ飛びに躱し……たものの、今度は訓練場の端まで体が吹っ飛び転がる。
起き上がると、また目の前に大将軍が迫ってくる。
とにかく、体がまともに動かない……というか、ユウヤの意図の数倍の速さで動くため、全くコントロールが効かないのだ。
(慣らしが必要って、こういうことかよ! )
と思いながら、訓練場をめいいっぱい転げまわって、大将軍の攻撃を何とか躱し、躱し、躱しまくる。
10分もたっただろうか、段々観衆がざわつき始めた。
「逃げ回るだけじゃ模擬戦にならんぞ! 」
「手間暇をかけて召喚したのに、こんな様では……」
などとヤジが飛び始める。
それでも10分ほど凌いでいただろうか。体が徐々に慣れてきたのか、段々体が意図に反して吹っ飛ぶようなこともなくなり、少しは物を考えられるようになってきた。
(これだけ動いても息一つ切れないってのは、確かにすごい体だな……大将軍の攻撃も全く衰えないけど。けど、避け続けるだけじゃ確かに訓練にならないよな……そろそろ受け太刀も試してみるか)
次々に迫ってくる剣撃のうちから上段の振り下ろしに対し、木剣を合わせる。
ガシッ!! という音とともに、しっかりと振り下ろしを受けとめた。
それからは躱すだけでなく、受け太刀を織り交ぜ、少しずつ模擬戦の体をなしてきた。
とは言っても、ユウヤが一方的に受けているだけだが。
そしてまた10分位たったころ……大将軍の木剣がユウヤの木剣を手から弾き飛ばし、模擬戦は終了となった。
王が二人に近づき、まず大将軍に声をかける。
「ご苦労であった。ユウヤはどうであったか? 」
「……出鱈目でしたな」
「出鱈目、とは? 」
「まず、ユウヤ自身も申しておりましたが、戦った経験がある者の動きではありませんな。しかしながら……動きの速さ、反応速度、スタミナといった基礎能力の高さは、とんでもないものですな。全く加減をしなかったとは言わないにせよ、三十分戦ったにも関わらず、この私がとうとう一撃も入れられませんでした。それにごらんなさい、あれだけ撃ち合っても息一つ乱しておらんようです」
「うむ、確かに」
「人間というより、まるで素早い魔物と戦っているようでした。また、最初は逃げ回っていただけでしたが、途中からは拙いながら受け太刀も織り交ぜてくるようになったことから、適応力も高いかと存じます。鍛えれば短期間でものになるかと」
「うむ、そうであったな。ユウヤはどうじゃ? 」
「大将軍の技量に感服いたしました。そこでお願いしたいのですが、当面オリバー殿に師事することにしたいと存じます。できれば起居を共にし学びたいのですが」
「……よかろう。オリバー、其方の本来の職務については代理を立てるゆえ、しばらく其方の屋敷にてユウヤを鍛えてやってくれ」
「御意」
「ああ、魔法についても教師が必要であったな。急ぎ選出するので、そちらは暫く待つがよい」
「わかりました」
こうして、ユウヤは大将軍の居候となったのであった。




