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安直勇者 ~俺はなんでも安直に解決できる勇者様~  作者: 差肥塚 祝


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竜人族の国へ

 昨日の夕食と同じ部屋で、試食が始まる。昨日と同じメンバーに、試食と言うこともあってか、宮廷料理長のアンドレが加わっていた。

 召使が皿を運んでくる。

 「この緑色のがジェノベーゼ、こちらがペペロンチーノ、あとこちらのチーズがかかったものがマカロニグラタンです」

 「昨日は、スパゲティとかパスタとかおっしゃっていませんでしたか? 」

 「パスタと言うのは、小麦から作った生地を成型してゆでたりしたものの総称です。そのうち、この細長いものをスパゲティと言います。ちなみに、このチーズの中には、マカロニと言う形のパスタが入っています。」

 「この細長い……パスタでしたか、どうやって食べるのでしょうか? 」

 「このように、フォークに巻き付けて食べるんです。こうやって、左手でスプーンを添えてやってもよろしいかと」

 「なるほど。それではいただいてみましょう」

 ユウヤは食べ始めた4人の様子をうかがいながら、自分も食べ始める。

 4人それぞれが「ほう」とか「うむ」などと言いつつ、時折うなずいたりしながら食べ進めていく。反応は悪くなさそうだ。

 程なくして、皿は全て空になった。

 「これは、良いですわね。面白い食感です。ソースもエルフ好みですね」

 「とても美味しかったよ、ユウヤ」

 まずまず好評のようだ。

 「今日の料理も美味しかったが、このパスタとか言うもの、それ自体に余り味がない事を考えると、逆に、他にもいろいろなレシピがあるのではないのかね」

 アルマン王配が興味深げな表情で聞いてくる。

 「それはもう、パスタを使った料理は無数にありますよ」

 「是非色々と食べてみたいところだが……ユウヤ殿にそんな時間はない、か。残念だな。エルフに伝わるいろいろなソースに合わせるのも面白そうだ。しかし、このパスタ、存外腹にたまるものだな」

 「パスタの材料は小麦から作りますので、それなりに腹持ちするものです。パスタ料理一品のみで、食事とすることも普通にありますね」

 「成程。ちなみにパスタを作るのは、難しいものなのかね? 」

 アンドレが答える。

 「私は横で見ておりましたが、パンと比べて難しいといったことはないようです。生地を熟成させたり、焼かなくてよいことを考えると、寧ろパンより手間はかからないでしょう。それこそ、庶民が家で作るのも可能かと」

 「ちなみに、高温で1日ほど乾燥させれば、3か月程度は保存ができます。食べるときに湯で戻す必要がありますが」

 「ほう……ちょっとした保存食にもなりそうだな」

 話を聞いていた女王が、顔をほころばせて申し出てきた。

 「ユウヤ殿、この3品、それとパスタそのもののレシピを売っていただくことはできますか? 」

 「かまいませんよ」

 「では……そうですね、全てまとめて、金貨500枚でよろしいですか? 」

 皆がぎょっとした顔で女王を見る。ユウヤも驚いて、

 「……金貨20枚ほどがレシピの相場と聞いていますが? 」

 「そうですわね。これは条件付きの金額です」

 「どんな条件でしょう」

 「このレシピを王家から一般に公開することです。このパスタというものは、料理というよりも、パンとは違う新しい小麦の食し方です。様々なソース等を合わせることで、無限に近い数の新たな料理を生み出すことも可能ですわね。ある程度保存ができると言うのも素晴らしいですわ。そういったものを広めることにより、我が国の食文化に革新をもたらすことができる、それほどのものというのが妾の評価です。」

 「それでよろしいのでしたら、喜んで」

 こうしてユウヤは予想外の大金が懐に入ることになったのであった。もっとも少なくとも今のところ、ユウヤに大金を使う機会はないのであるが……。




 次の日。特に予定もなかったユウヤは、考えたユウヤは、王都ドルーの教会に行くことにした。神への報告にかこつけて、アーティファクトの性能を知っておきたかったからだ。

 教会は、エルフらしく木造であった。ただし、曲がりくねったとてつもない巨木数本を柱に、丸太を半分に割ったものを巧みに配することで、うまく一つの建物に纏め上げている。

 カレドニア王国の神殿ほどの荘厳な威容はないが、絶妙に配置された周りの草花や木々と合わせて、何とも言えない一種の神秘的な雰囲気が醸し出されていた。

 一番大きな窓にステンドグラスが嵌っているのはカレドニア王国と同じだが、こちらは黄色を基調としており、デザインされているのは女性の姿だ。風の神ニンリルなのであろう。

 神殿の中に入ると、木そのものの美しさを押し出した建物の外側とは一転して、壁一面に緻密で美しい組木細工が配されている。照明はそこまで多くないものの、窓が大きく配置されていることもあり、自然な明るさで内部全体が美しく照らし出されていた。

 ユウヤは司祭の素に行き、跪いて祈った。

 司祭が祝詞を唱える。

 ……と、ユウヤは例の部屋で神々たちと対峙していた。

 マルドゥク神が話し始める。

 「ユウヤ、『俊敏性の試練』はどうじゃったかの? 」

 「……死ぬかと思いました。神々からいただいた肉体でなければ突破できなかったと思います。この世界の者も『試練の迷宮』に入る可能性があると聞いたはずですが……」

 ここで黄色い服をまとった女性が口をはさむ。衣の色からすると、風の神ニンリルなのだろう。

 「『知の試練』で色々言ってたから、ユウヤ用に迷宮をいじっといたのよ」

 「いくら何でも難易度を上げすぎなのでは? 」

 「それはあなたが『加速』と『思考加速』をなかなか使わなかったからじゃない。この二つの魔法をセットで使うのは常識よ、常識」

 「常識とおっしゃられても……そもそも第6階梯の『思考加速』なんて使える者はほとんどいないと聞いておりますが」

 「あ……。ま、まぁいいじゃないの、使い方を覚えられたんだし。これは神のし、試練なんだから」

 見かねた様子のマルドゥク神が、

 「まぁ、あまり言うな。結果的に『加速』と『思考加速』を組み合わせる方法は身につけられたんじゃし。そうそう、アーティファクトについてじゃがな、あの靴の銘は「パーシヴァル」、風属性に対して強力な耐性がある。また特殊効果じゃが、装着した者が足場とした場所が、滑ったり沈んだりということがなくなり、しっかりと踏ん張ることができるというものじゃ」

 「……なんか地味、ですね」

 「まあ確かに地味と言えば地味じゃが、戦いの中で泥濘に足をとられたり、足を滑らせたりしてて不覚を取った者など、意外と多いものじゃ。これは魔法でも防ぐことはできぬ。足場を確認しながら戦わねばならんが、この「パーシヴァル」ならその限りではない。きっと汝の役に立つであろう……と、そろそろ祝詞も終わるころじゃな。また会おう。今後も勤めるようにな」

 気が付くと、ユウヤは教会の中に戻っていたのであった。




 それから数日後、出立の準備が整ったとの連絡があり、女王に謁見する。

 「長くお待たせしましたね。こちらの準備も済みましたので、これより竜人族の国、シェンノンに向かっていただきます。ダニエル」

 「はっ」

 居並ぶ貴族たちの列から一人の男が立ち上がり、ユウヤの隣で女王に向かって片膝をつく。

 (エルフ……だよな? )

 耳が長いのでエルフには違いないのだろうが、比較的小柄で細身な者が多いエルフ族の中にあって、ユウヤより頭一つほど背が高い。服の上からでも筋骨隆々な、鍛え上げた体躯をしていることがわかる。つるつるに剃り上げたスキンヘッドに乱雑な髭も、そのエルフらしくなさを強調していた。

 「こちらはユウヤ殿に同行する我が国のシェンノン大使、ダニエル・モンテスです」

 「ダニエルだ。よろしく、ユウヤ殿」

 握手を求めてきたその手は大きく、鍛えこんだ武人のようにごつごつとしていた。

 女王が続ける。

 「ユウヤ殿、ご武運をお祈りしております。大陸に平和を取り戻した暁には、またご来訪いただくことを心から希望いたします。……パスタのレシピも気になりますしね」

 「はい」

 女王の傍らに立つジュスティーヌ王女が声をかけてくる。何故か顔が少し赤い。

 「ユウヤ、また会おう。約束だよ」

 「必ずや」

 こうして、ユウヤはシェンノンに向かうのであった。




 ユウヤとダニエルは一つの馬車に揺られる。ダニエルは武人っぽくはあるが科目と言うことはなく、ユウヤとの間の話は弾んでいた。

 「……ところでユウヤ殿、女王陛下が俺が紹介された時、少し怪訝な顔をしていただろう」

 「そうだったかな」

 ダニエルはニヤリとしながら、

 「いや隠さんでもいい。外交官、というか文官に見えんと思ったのだろう? 」

 「……正直に言うと、文官どころかエルフに見えなかったんだけどな。アクィタニアの兵士よりいいガタイをしてるし」

 「ワハハハハ。それは酷い……実際俺は、本来武人でな」

 「なんで武人が外交官になってるんだ? 」

 「今向かっているシェンノンは竜人族の国なんだが、竜人族は6種族でも一番体がデカいし、力もずば抜けている」

 「それで? 」

 「そのせいか、彼らにとって戦い、特に剣闘は何より重視されててな。強そうな者を見ると、すぐに模擬戦だなんだっていうことになる。で、勝った者はもちろんのこと、負けても勇敢に戦った者にはそれなりの敬意が払われるんだ」

 「何だそりゃ。そんなので治安とか、大丈夫なのか? 」

 「それがうまくできていてな。強い者、勇敢な者は確かに尊重されるんだが、一方で、強者が力で弱者を無理やり意のままにするってのは、誇り高い竜人族にとって最大の恥とされてるんだ。そんな奴は周りから爪弾きにされたり、より強い者から制裁を受ける。最も、そんな奴はほとんどいないがな」

 「一番強い奴が掟を守らなかったらどうなるんだよ」

 「その一番強いのが王様だから、うまくまとまってるのさ」

 「え? 王本人が戦うのか、っていうか、戦えるのか? 」

 「ああ、いい年をした爺さんなんだがな。未だに大陸全体でも最強の戦士って言われてる。なんとか対抗馬になれそうなのは、カレドニア王国のオリバー大将軍くらいってのは誰でも知ってる話だ。ちなみに俺も王と模擬戦をやったことがあるぞ……手も足も出なかったがな。何度負けても根を上げないで挑み続けたってことで、王から気に入られたんだ。そんなわけでシェンノンに限っては、俺みたいな武弁の方が外交官に向いてるってことだ」

 (なんだそりゃ……しかしオリバーって、やっぱ強かったんだな)

 「竜人族はあまりとっつきやすい連中じゃないんだが……ユウヤ殿は強いんだろう? シェンノンで戦いを挑まれたり、難癖つけられることがあったら容赦なくぶっ飛ばしてやれ。竜人族とうまくやってくには、それが一番早い」

 「……そうさせてもらうよ」

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