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安直勇者 ~俺はなんでも安直に解決できる勇者様~  作者: 差肥塚 祝


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パスタ料理

 あくる日の朝、少し遅い時間にユウヤは目覚めた。

 女王が城内に用意してくれた部屋なだけあって、ベッドの寝心地は最高であったが、何の気なく体を起こすと、

 「痛っ!! 」

 腕と腹筋に激痛が走る。少し体を動かしてみたが、全身が痛い。

 (これは……筋肉痛、だな。かなりひどいな……こっちの世界に来て筋肉痛なんてなったことがないんだけどな。……あ、これ、『加速』の後遺症だろうな。さすがに10倍以上のスピードで動き続けると、こうなるわけか。今後は少し加減を考えないとな)

 一日寝ていたくなったユウヤであったが、今日は『試練の迷宮』の突破を女王に報告することになっていたのでそういうわけにもいかず、痛む体をぎこちなく動かし、身支度を整えるのであった。




 謁見の間には、アデライード女王と大勢の貴族が待っていた。女王の隣には、ドレスを身にまとったジュスティーヌ王女も控えている。

 (前の謁見の時は男っぽい服装をしてたけどな)

 いぶかしげなに思うユウヤに、なぜか妙にニコニコとした女王が声をかける。

 「ユウヤ殿、お見事でした。なんでも目にもとまらぬ素早さを誇る敵を、それを上回る恐ろしいほどのスピードで倒したとか。ジュスティーヌに何度も聞かされました。この娘が殿方のことをあれだけ話すのは、初めてですのよ」

 「……ちょ!? 母上? 」

 真っ赤になるジュスティーヌ王女をよそに、女王は話し続ける。

 「ジュスティーヌの話を聞いて安心しました。それほどの力を持つユウヤ殿なら、この大陸に平和をもたらすために大きな力になることでしょう。」

 「微力を尽くします」

 「次は竜神族の国、シェンノン王国に向かっていただくことになりますが、こちらの準備が整うまで、しばしの休息をとられるとよいでしょう。昨日用意した部屋は引き続き使っていただいて結構ですので。それと、ユウヤ殿の慰労ということで、本日は夕食に招待したいと思うのですが、いかがでしょうか」

ユウヤとしては、王族の出席する肩の凝りそうな食事会は遠慮したいと思わないでもなかったが、それ以上に、料理人を目指していた身として、王族の食事への興味が上回った。

 「お招きありがとうございます。ぜひ参加させていただきます」




 その日の夜。

 案内された部屋は豪勢であったがさほど広くはなく、待っていたのは女王と王配のコンデ公アルマン、ジュスティーヌ王女の3人だけであった。

 「貴族の方々も参加する大規模な食事会かと思ってました」

 「貴族達からもそういう希望はありました。ただ、そうするとあの『試練の迷宮』を突破した英雄であるユウヤ殿は当然引っ張りだこになるでしょうから、慰労どころかますます疲れるでしょう? ひどい筋肉痛になっていると伺いましたよ。そういうわけで、我々のみで、ということにいたしました。本当は私の家族、つまりジュスティーヌの兄弟姉妹くらいは呼びたかったのですが、みな公務で他行中でしたので」

 「お心遣い、感謝します」

 「ではそろそろ始めましょう」

 女王が傍らに置いてあったベルを鳴らすと、召使たちが野菜やキノコの類、肉や魚からチーズに至るまで、たくさんの皿を運んでくる。カレドニア王国でもそうだったので、この大陸には料理を一皿ずつ順番に運んでくる、前世でいうロシア式サービスといったものはないのだろう。

 ユウヤは食べ始める。

 エルフの料理は人間族のものと比べて、淡い味付けであった。とは言っても、決して単に味が薄いということではない。厳選されたのであろう様々な瑞々しい素材本来の味を前面に押し出し、それを活かすために、ぎりぎり最低限の量を見計らって調味料やソースが使われている。魚や肉も、優しい酸味のある、ただし複雑なソースでさっぱりと仕上げられており、いくらでも口に入るような逸品であった。

 添えられるのは白ワインだ。通常肉には赤ワインを合わせるものであるが、脂が少なく、あくまでもさっぱりとしたこの肉にこの淡い上品な味付けには、この端麗な白ワインこそが一番であろう。

 食べることに集中しているユウヤに、ちょっと心配そうな顔をしたジュスティーヌ王女が話しかけてくる。

 「食事はどうかな? エルフは野菜やキノコが好きでね。後、あまり濃い味とか、脂っこいは得意じゃないんだ。ユウヤの好みとは合わないかもしれないけど……」

 「そんなことはありませんよ。確かにカレドニア王国の料理も大変美味しかったのですが、これだけ淡い味付けで、ここまで満足させられるとは驚きました。実に上品で繊細です。これはこれで一つの頂点かと」

 「それはよかった。ところで、明日からも暫く城に滞在してもらうことになるわけだけど、何かリクエストはあるかな? 」

 「そうですね……スパゲティというか、パスタが食べたいですね。カレドニア王国では食べる機会がなかったので」

 ユウヤが答えると、3人は怪訝な顔をする。

 「……スパゲティ? パスタ? 何だいそれは? 聞いたことがないな。父上、母上、ご存じですか? 」

 二人とも首を振る。

 「……え? ひょっとして名前が違うんですかね? 小麦を水で練って、いろいろな形に成型したものなんですが」

 色々と聞いてみたユウヤだったが、どうもアクィタニア王国にはパスタというものが存在しないらしい。

 (デルフォード王国でも出てこなかったよな? ってことは……この世界自体にパスタってものがないのかもしれないな)

 そんなことをユウヤが考えていると、

 「そのスパゲティだかパスタっていうもの、一度食べてみたいな」

 とジュスティーヌ王女が目を輝かせる。

 「厨房をお借りできるのであれば、作りますよ。そんな御大層なもんじゃなくて、家庭料理の類なんですけど、いいんですか? 」

 「かまわないよ。厨房と材料はこちらで用意するから、お願いするよ」

 女王も口をはさんでくる。

 「もちろん、私達の分もお願いしますわね」




 次の日、大勢の料理人が動き回っている城の厨房の一角を借りて、さっそくパスタを作り始める。

 「宮廷料理長のアンドレです。今日はユウヤ様の手伝いをするよう言われています。必要なものは何でもおっしゃってください」

 「じゃあまず小麦粉、塩、水を頼む」

 (さて、何を作るか……エルフはあまり濃い味は好きじゃなさそうだから、とりあえずトマトソース系は避けて……マカロニグラタンはエルフには合わないかな……でも俺が食べたいんだよなぁ……とりあえず3種類くらい作っとけば一つぐらい好みのがあるだろ。ジェノベーゼ、ペペロンチーノ、マカロニグラタンの3種で行こう)

 アンドレが用意してくれた小麦に卵、塩、水などを合わせたものをよく混ぜ、混ぜたものをよく捏ねる。よく腰を出すために踏んでいく方法もあるが、ユウヤは『剛力』の魔法で強化した腕力を使って、よく捏ねていく。段々と生地がまとまってきた。

 (よし、これくらいでいいか。作るのは……スパゲティとマカロニにするか)

 まとまった生地を20分ほど休ませる。

 その間に、アンドレに他の材料をそろえるように頼む。マッシュルーム、玉ねぎ、牛乳、バジル、オリーブオイル、チーズ、松の実、パセリ、胡椒、唐辛子など……前世とは違う世界ではあるが、大体同じような食材はあるらしい。松の実はないらしいので、胡桃で代用することにした。

 アンドレはてきぱきと材料をそろえていく。

 「あと、麺棒がいるんだけど」

 「麺棒? 何ですかそれは? 」

 (あ、パスタがないのに麺棒があるわけないか)

 そこに、ジュスティーヌ王女がひょっこりと顔を出した。

 「やってるね。何か手伝えることはあるかい? 」

 「じゃあ、どっかから木を持ってきてもらえますか? 」

 「木? どんな形のものがいい? あと量は? 」

 「形は『造形』で作るから、何でもかまいません。量はこれくらいの棒と、もう少し細い棒が何本か作れるくらいで」

 「わかった。彫刻用の木材があるから、それを持ってくるよ」

 しばらくしてジュスティーヌ王女が持ってきた棒から、『造形』を使って麺棒を一本と、箸くらい太さの棒を3本作る。

 「他にも手伝ってほしいことはあるんだけど、ちょっと待っててください」

 ユウヤは麺棒で生地を伸ばしていく。

 ある程度薄く広がった生地を二つに切り分けると、ジュスティーヌ王女とアンドレに、

 「まずこの生地を、これくらいの大きさに切り分けてください。全部終わったら、このように棒に巻き付けてこう伸ばして、こんな感じで管のようにしてください」

 と、実際にやってみせ、マカロニ作りを手伝ってもらう。料理人のアンドレは当然としても、ジュスティーヌ王女も中々要領がいい。

 ユウヤは残った生地をさらに薄くのばしていき、限界まで薄く広がった生地を折りたたみ、包丁で切っていく。

 (パスタマシンがあればよかったんだけどな。いつか作ってみるか)

 それでも神から与えられた肉体は随分と器用であり、さして時間もかからずに極細のスパゲティができた。

 (パスタそのものはこれで良しと。次は……焼く時間もいるし、マカロニグラタンからだな)

 マッシュルーム、玉ねぎ、鶏肉などの具材を切っていく。

 お湯で一旦マカロニを茹でる。

 フライパンに具材を火の通りにくいものから順番に入れて炒めていく。マカロニは一番最後だ。

 別のフライパンにバターと小麦粉を入れて火にかける。小麦粉がなじんできたら、牛乳を注いで混ぜていき、とろみがついてきたら、具材とマカロニに合わせる。

 後は皿に盛って、チーズを大量に乗せ、窯に投入する。

 (次に、ジェノベーゼだな)

 胡桃を細かく砕き、少し炒める。ニンニクから芯を取る。

 「バジルと胡桃とニンニクを、石臼で挽いてもらえますか? ドロドロにしたいので、二人で交代しながらお願いします」

 「わかった」

 (最後はペペロンチーノだな)

 ニンニクから芯を取り、赤唐辛子を輪切りにする。

 オリーブオイルとニンニクを、うっすら色がつくまでフライパンで火にかけ、少し休ませてから赤唐辛子を入れてもう一度火にかける。

 並行してジェノベーゼの分も含め、さっき作ったパスタを茹でる。

 茹で汁を火にかけたフライパンに注ぎ、とろっとするまで混ぜていく。

 (後は胡椒をかけて、パセリを散らす……と。これで良し。他のはどうかな……マカロニグラタンもよさそうだ。と言うか、少し焼きすぎたかも)

 二人に頼んだバジルのすり潰しも仕上がったようだ。

 「いい感じですね。じゃあ、オリーブオイルを加えて、パスタによく和える……と、出来上がりです。お手伝いありがとうございました」

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