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安直勇者 ~俺はなんでも安直に解決できる勇者様~  作者: 差肥塚 祝


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エルフの国へ

 次の日、ユウヤはオリバー邸の厨房にいた。

 「異世界くんだりからからわざわざ来て、料理を作るんですかい? ボウルに泡立て器にふるい? こちらにありますぜ。好きに使ってくだせえ」

 と肩をすくめるのは、オリバー邸のお抱え料理人アーロンだ。


 「まずは生地からだな」

 ボウルに卵黄、砂糖を入れて、泡立て器で白っぽくなるまで混ぜる。

 別のボウルで、砂糖を入れながら卵白を泡立てる。

 両方のボウルの中身を合わせて、ひたすら泡立て、小麦粉をふるい入れながら混ぜ、

 溶かしたバターを混ぜていく。

 「あ、型作ってないや」

 武器屋で買ってきた剣をよく洗い、『造形』の魔法でケーキの型に変形させ、内側にバターを塗る。

 「後は窯に入れて……電気オーブンじゃないから、よく様子を見ないとな。後は代用生クリームだな」

 ボウルに入れた牛乳を温めて、ゼラチンを入れてしっかり溶かす。更に牛乳を入れて、

 「あ、冷やす方法がないな……よし、『氷柱』」

 魔法で発生した氷を砕き、ボウルの周りに敷き詰める。

 後ははひたすら混ぜる。ミキサーなんてものは当然ないので、『加速』の魔法を使い、ひたすら混ぜていくと、そのうち角が立つようになってきた。

 「こんなもんか。生地の方はどうかな」

 窯の中の生地に串を刺してみて、

 「こんなもんか」

 できた生地を型から取り出し、少し待って粗熱をとる。

 粗熱が大体取れたころ、アンジェラ王女が厨房に顔を出した。

 「……いい匂い……まだ時間はかかりますの? 」

 「もう少しです。客間でお待ちください」

 アーロンに紅茶を入れるように頼むと、生地を上下に割り、クリームを塗って薄く切ったイチゴを並べていく。

 上下を併せ、クリームとイチゴでデコレーションをしていき、

 「お待たせしました。イチゴのショートケーキです」

 ユウヤはケーキをテーブルに乗せる。

 「……いい香り。それに、ずいぶんとかわいらしいのですね」

 アンジェラとアーロンがしげしげと見つめる。

 そこに、オリバーが帰ってきた。

 「何だ? えらく甘い匂いがするな。これか? ユウヤが作った食いもんってのは」

 「ああ。今ちょうどできたところだ」

 ユウヤはケーキをそれぞれの皿に切り分ける。

 (さて、どうかな……自信はあるけど……って、聞くまでもないな)

 一口食べるなり、アンジェラ王女は動きが止まっていた。恍惚とした表情をしている。

 アーロンは鋭い目つきをして、一口一口をじっくりと味わっているようだ。

 オリバーは一口目をゆっくりと味わった……かと思うと、猛然とした勢いで食べ始め、あっという間に皿が空になった。

 「もう一つくれ」

 と言うと、二つ目もあっという間に平らげ、

 「もう一つだ」

 「いや8つしかないんだから、一人2つだろ」

 「おいアーロン、お前のをよこせ」

 「駄目ですな。新しい料理をしっかりと吟味するのは私らお抱え料理人の仕事です」

 「ぐっ……! 」

 程なくして、ケーキは全てなくなった。




 「こんな美味しい食べ物があるなんて、思いもしませんでしたわ」

 「全くだ……おいユウヤ、いくらだ? 」

 「いくらって何が? 」

 「レシピの代金だよ、レシピの」

 「……別に金をとる気はないけど? 」

 ユウヤがそういうと、オリバーは身を乗り出し、

 「それはいかん。いいかユウヤ、新しい料理のレシピってのはな、特にこれほどのものとなると、しかるべき対価でやり取りされる、価値あるもんなんだ」

 アンジェラもうなづく。

 「そうですわよ。もちろん王家にも売っていただけますよね? 」

 「別に売るのはいいんですが、相場がわからないしなぁ……」

 「む……そうだな、今までにない種類の食べ物ってことも考えると……アーロン、金貨20枚ってところじゃないか? 」

 聞かれたアーロンは難しい顔をして、

 「……いや、それじゃ足りませんぜ。この、ショートケーキ? でしたか……この白い部分と、土台になってるふわふわした部分はそれぞれ別の工夫なんで……それぞれ金貨20枚で、金貨40枚ってとこじゃないですかね」

 「ふむ……そうだな」

 「金貨40枚って、どれくらいの価値なんだ? 」

 ユウヤの発言に、3人が揃って呆れた顔をする。

 「貴公、狩った魔物を解体屋に売ってたじゃないか」

 「売ったことはあっても、買い物をしたのは昨日が初めてなんだよ。それも銅貨しか使ってないし」

 「あー……そうか。いいか、銅貨100枚で銀貨一枚、銀貨100枚で金貨一枚だ。これは覚えておけ」

 「……てことは、金貨40枚って結構な金額なんじゃないか? 」

 「中流階級の平民4人家族が、一年遊んで暮らせるくらいだな」

 ユウヤは頭をかく。

 「ずいぶんと高いんだな……。うーん、オリバーには食事から剣術まで世話になってるし……アンジェラ様も見届け人とか町の案内とかしてもらったし、材料を買うのにもつきあってもらってるしなぁ……そのお礼ってことでいいや」

 「んなわけあるか。大体俺が貴公の世話をしたのも、アンジェラ様が見届け人をやったのも公務の内だ。それに貴公、これからどうなるかわからんが、魔王を討ち果たしたとしても、その後の人生もあるだろう? 悪いことは言わんから、受け取っておけ」

 「……まぁ、そういうことなら」

 「しかし貴公、どこからこんな料理を思いついたんだ? 」

 「この世界に召喚される前は、料理人を目指してたんだよ」

 ユウヤの答えに、他の3人が目を輝かせる。

 「と、言うことは……他にも新しい料理が……!? 」

 「あるだろうな。この世界の料理をあまり知らないし、どれが新しい料理になるかわからないけど」

 こうして思わぬ臨時収入を得たユウヤだった。もっとも本人に自覚がないだけで、今まで解体屋に魔物を売りさばいた収入で、既にかなりの財産を持っていたのだが。




 つかの間の休日は過ぎていき、エルフの国、アクィタニア王国へ出立する日がやってきた。

 ユウヤは国王に謁見している。国王の傍らには、白いドレスに身を包んだアンジェラ王女が控えている。

 「ユウヤよ、待たせたな。疲れは残っておらぬか」

 「おかげ様で体調は万全です」

 「うむ。では、紹介しておこう。ダニエル」

 「はっ」

 「ユウヤ、この者は我が国の外務卿、ダニエル・パルトニーじゃ。アクィタニア王国への正使で、ユウヤはダニエルに同行する形になる。見知りおけ」

 「はい」

 「魔導士どもの観測によると、カネム・ボルム王国にある魔力の歪みが飽和するまで、一年余りということらしい。よって、それまでには『試練の迷宮』を全て踏破して戻ってくるじゃ」

 「はっ」

 「なるべく早く戻って来い。あのショートケーキとかいう食べ物、大変に美味であった。他の料理も……いや、何でもない」

 (王様も食いしん坊かよ)

 「では、行くがよい。武運を祈っておるぞ」

 傍らのアンジェラ王女は少し顔を紅潮させ、微笑んで

 「無事にお戻りになると信じてお待ちしておりますわ」

 と優雅に礼をする。

 こうしてユウヤ一行はデルフォード王国を出立したのであった。




 外交使節というだけあって物々しい一行。ユウヤは馬車に乗せられているだけで特にやることもながったが、同乗しているパルトニー卿は、外務卿という職務柄だろうか話がうまく、色々と話が弾んでいた。

 「…ところで、エルフやエルフの国について教えてほしいんだが」

 「そうですな、まず見た目としては、細身で耳が長く、整った容貌をした者が多いですな。自然を愛する朴訥な民で、農業や木工では右に出る種族はおりません。特に、名のある者が手がけるワインや家具などは、各国の王侯貴族の垂涎の的になっております。森の中に集落をなして狩猟や野草の採取をして暮らす民もおります。大きな町や集落はさすがに森の中ということはありませんが、それでも草花や木はかなり多く、建物などにも木をふんだんに使っておりまして、我々のそれとはかなり違った印象を受けますね。なかなか美しいものですよ。能力的には、素早さに長ける者が多いため、細身の剣や徒手格闘に長ける者が多い印象です。また、風の神ニンリル様が守護神だけあって、一般的には風魔法を得意としております」

 そういった話をしながらも一行は旅を続け、特にトラブルもなく、10日後にはアクィタニア王国の首都ドルーに到着したのであった。

 「おお」

 カレドニア王国の首都デルフォードには一歩譲るようだが、それでもかなりの賑わいを見せる大都市のようだ。

 ただ大都市にも拘らず、それまで通過したいくつかの都市同様、街路樹はもちろん、植え込みには色とりどりの花々が咲いており、建物の仕切りには茨の生垣、建物自体もログハウスや、石造りの建物でも木々に埋め込まれたように建っていたりと、これでもかというほど草や木が多用されており、一種独特の美しさを備えていた。

 「ユウヤ殿、どうです? なかなかの見物でしょう? 」

 「確かにこれはすごいな。でも、これだけ木や草が多いと、火事とかは大丈夫なのか? 」

 「燃えにくい木を使ったり、土属性の『硬化』の魔法を利用して対応しておるようです。もっとも、エルフは土属性の魔法を使える者が比較的少ないので、結構な費用が掛かるようですが…建物にどれだけ美しく草木を配置するかは、エルフにとって大事なステータスなのですよ」

 「成程ねぇ…」

 馬車の窓からの風景に見とれているうちに、いくつもの通りを抜け、一行は王城にたどり着いたのであった。

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