9:ジョンの凸
怖い怖い怖い。
ジョンソン家でも持て余す三男坊が突然やってきた。
適当な名前をつけるからヘンテコな仕上がりになってしまったんじゃなかろうか。
危険を回避する未来視があるから今回の訪問は危険ではないはず。
シャーロットは心底嫌そうな顔をしながら玄関ホールに向かった。
「どうしてプレゼントを受け取らないんだ?」
「ジョン・ジョンソン、まずは挨拶をしなさいよ。こんにちは!はい、言いなさい。」
「あ、こ、こんにちは。」
「挨拶が自然にできるようになったら話を聞こうって気になるんだけど。」
攻撃的なシャーロットを諌めるようにやってきたのはマーサの母のサラだ。
母は仕事でいないので対応してくれるのだろう。
「シャーロット、こちらは?」
「ジョン・ジョンソンさんです。ジョン、こちらはランカスター伯爵夫人のサラ様です。お祖父様の奥方なの。失礼の無いようにね。くれぐれも。」
「初めまして、ジョン・ジョンソンと申します。三男ですがジョンソン商会の会長の息子です。お見知り置きを。」
「あぁ、先日からお花を寄越している方ね。それで?シャーロットからはお断りをしたと聞いておりますが。」
愛人といえどもさすが伯爵夫人だ、黒髪も相まって威厳がすごい。
母やシャーロットはどうしてもふんわりした見た目なので舐められがちなのだ。
ジョン・ジョンソンもビビっているのがわかる。
「お話を伺いましょうか。あなたがしつこく食い下がるその理由をね。」
シャーロットと母のマーガレットは小さな離れが気に入って生活の拠点をそこに移していたがサラが思いの外常識人で優しい人だと知り母屋に戻った。
威圧的で香ばしい娘のマーサは女学園で友人も出来、ホワイトパーティーで隣同士になった優しい令嬢とも交流するようになり淑女のように振る舞っている。
がさつなシャーロットにも細かく言ってくるのでうるさいのだが前ほど嫌ではなくなった。
この親子が何しにやってきたのか知らないがうちは失って困るようなものもないし伯爵家と言っても平民に毛の生えたようなものだと思っている。
「あら、お母様、お客様?」
タイミングよく学校から帰ってきたマーサは機嫌よく母に笑いかけた。
「ええ、お茶をお願いしてきてちょうだい。」
「わかったわ。私もご一緒した方がいいかしら?」
どう考えてもご一緒しなくてもいいのだがこの親子は暇なのだ。
マーサは学校があるけれどサラ様はこんな生活退屈に違いない。
あの変な男の対処でもすれば気がまぎれるだろう。
何なら丸投げしてすぐにでジュリエットの屋敷に行きたい。
(ダンスの練習しなくちゃ)
「先ほどの方は伯爵夫人のお嬢様ですか?」
「ええ、娘のマーサよ。」
「とても美しい方ですね。お母様からのギフトでしょうか。」
「うふふ、ありがとう。」
(なんだ、この会話。ジョン・ジョンソンはマーサが好みなのか?)
「サラ様、私はもうこの方とお話しすることはありませんの。あとはお願いしてもよろしいですか?」
「ええ、いいわ。私から言って差し上げるから。」
「ジョン・ジョンソン、もう花も贈り物も手紙も送ってこないでよね。今度届いたら呪の壺をあんたの家の前に埋めるわよ。」
「おおーこわ。もう贈らないから安心しろ、お前にはな。」
(意外と厳しいサラ様にうーんと怒られればいい。その言葉遣いをな!)
シャーロットはジョン・ジョンソンにお前の父さんに電話しとくからなと言いその場を去った。
彼は青ざめたがそれよりも制服から可憐なワンピースに着替えたマーサに夢中でシャーロットのことなどすっかり忘れてしまった。
そしてその日からまた屋敷には花が届くようになった。
メッセージカードにはマーサ・ランカスター伯爵令嬢、愛を込めてあなたのジョンと書かれている。
シャーロットは心から気持ち悪いと思ったがマーサはそうでもなかったようだ。
恋の駆け引きを楽しむように御礼の手紙を書いている。
女学園は貴族の娘も多いが裕福な家庭のお嬢様も多い。お年頃の彼女達は恋人がいるのかもしれない。
(そう言えばお祖父様も濃い顔だもんなぁ。マーサはファザコンなのかな。本人が気に入ればいっか。)
肩の荷の降りたシャーロットは夜会のためにダンスの練習を欠かさなかった。




