8:ラスティの好きなところ
ヘンテコなジョン・ジョンソンと会ってからシャーロットは今まで考えたことがなかった自分の将来について考えるようになった。
あの男とは決して結婚する事はないだろう。
母に話したら笑っていたし安心していいわと言っていたからだ。
父には電話で話したがジョンソン家でも暴走気味のドラ息子らしいので押し付けられることはないはずだ。
毎日のように手紙や花が届くけれど受け取り拒否で返送しているからそのうち気付くと思う。
(未来の旦那様がわかればいいのに。)
「俺もあんな風にお前と会話がしたい。あ、お前と呼ばれるのは好きじゃないんだったな。」
「好きじゃないんだけれどラスティから呼ばれるのは嫌じゃないわ。お前って呼んでもいいよ。」
「俺のことは?」
「流石に国の王子様にお前とは呼ばないから安心して。」
シャーロットはケラケラと笑った。
「でもあんな言葉遣いをしていてうっかり陛下や王妃様の前で使ってしまったら大変でしょう?油断すると出てしまうんじゃない?」
「気をつけているよ。母上はうるさいからな。」
「ラスティが気をつけていてもダニエルがうっかりしたら同じじゃない。」
「ダニーは要領がいいから大丈夫だ。俺と違って顔に出ないし産まれながらの王子気質だからな。」
シャーロットは常々思っていた事がある。
アンディやノエルとは普通に会っているのにジュリエットやシャーロットに会うときはお忍びなのだ。
変に噂になるのが困るからだと思っていたがこの前のホワイトパーティーで腑に落ちた。
王妃様はジュリエットとシャーロットが王子と仲良くするのを歓迎していない。
王子から一番離れたあの席はそういう事なのだろう。
(私何かしたのかな。ほとんど茶会にも出た事がないから失態なんてないけれど。)
答えを知るのは何となく怖かったし今は答えを知りたくない。
ラスティはいつものようにシャーロットの髪を指先に巻いて遊んでいる。
「何にもついていない?」
「ん?あぁ、うんこ?」
「ぷふふっ、王子がうんこって言った。」
「お前の前でだけだよ。」
「やっぱりあのカフェにいたのね。個室じゃなくてテラス席だったから上から見ているかなって思っていたの。」
「そりゃあ見に行くだろう。」
この気恥ずかしいようなこそばゆい会話がものすごく心地よい。
「初めてのプロポーズがあんなんで泣きたくなったわ。」
「あれはプロポーズとは言えないから安心しろ。ノーカウントだ。」
「でもこの前お花と一緒に指輪っぽい箱も届いたの。中身は確認せずに返したけれど。」
「油断も隙もないな。指輪なら俺が買ってやろうか?」
「・・・ガチのやつ?」
「・・・ガチって何だよ。また新しい言葉か。」
この時はラスティが指輪を買ってくれる意味など考えもしなかった。
シャーロットは元々母の影響でアクセサリーが好きだし安価な指輪をいくつも重ねたりもすることがあるから。
「シャーロットのデビュタントのダンスは俺と踊ろうな。」
「何、突然。いいの?王妃様がお相手を決めるんじゃないの?」
「いいんだよ。シャーロット以外とは踊れないよ。元々ダンスなんて好きじゃないし下手だからシャーロットなら許してくれそう。」
「ラスティなら足を踏んでも許せそうよ。来週からジュリエットとダンスの練習があるの。コソ練して上手くなっておくね。」
「何だよ、コソ練って。お前貴族のお嬢様なのにどこでそんな言葉覚えるんだ?」
「お母様の工房で働いているのは平民の女の子達だもん。いろんな事を教えてくれるの。」
ラスティは拗ねたように俺にも教えろと言って小さなノートを渡してきた。
これにメモれということだ。
可愛いやつめ!
彼のこういう素直なところが好ましいと思った。