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7/12

7:シャーロットのデート現場

「残念なお知らせがあるんですけれど、聞きたいですか?」


薄曇りの日差しの弱い涼しい午後に四人の見目麗しい青年と息を飲むような美しい女性がテーブルを囲み談笑していた時のことだった。

ホワイトパーティーの後色々と忙しくしていて集まったのは久しぶりだ。

ジュリエットがそう質問したのは四人の中の一人、第三王子殿下にだった。


「シャーロットが何かやらかしたのか?」

「いえ、そういうわけでは。」


ジュリエットはどう切り出そうか考えていたが率直に伝えることにした。


「簡単に言えばシャーロットが求婚されているという事ですね。」


第三王子殿下は固まった。

そして彼の緑色の瞳は誰を映すわけでもなく暫く放心していた。


「あーあ、まあいつかはこんな話があるとは思っていたけど、で?お相手は?」


こう言ったのはアンディだ。

もう一人の幼馴染のノエルはそっと溜息を吐いた。


「ラスティと私を差し置いて婚約はしないんじゃないか?」


もう一人の青年はラスティと同じ顔で他人事のようにそう言った。

彼の名はダニエル。ラスティの双子の片割れで第二王子だ。


今ここに居ない話題の中心人物のシャーロットは父親の仕事関係にある息子をどうかと前々からそのような話はあったらしい。



「どんな男だ。」

「貴族ではありませんがお金持ちと聞きました。」

「ジュリエットは会ったことがあるか?」

「いえ、ありません。」

「そんなにイライラするなよ、ラスティ。」

「まあ結婚まではいかないだろうからさ。シャーロットのあの性格だ、どうせ興味本位で顔だけ出すんだろう。」


ダニエルの言葉に誰もが頷いた。父親の紹介なら仕方があるまい。


「見学しに行きましょうか?あの個室のあるカフェだそうです。ホテルの横の。」

「は?個室だと?」


眉間に皺を寄せながらラスティは立ち上がった。

アンディもノエルもダニエルも面倒だと思いながらも多少のワクワク感は隠しきれていない。

ジュリエットも含めみんな好奇心旺盛なのだ。




一時間後に四人とジュリエットは街のカフェへこっそりやって来ていた。

新しくできたこのカフェに誘われたとシャーロットから聞いていたとおり彼女と男は個室ではなくなぜかテラス席で向かい合って話している。

個室は空いていないと急遽言われてしまったからだ。


店内はとても混雑しているのでシャーロット達は入って来たラスティ達に気が付かない。

彼氏の方は美しいジュリエットに一瞬視線を向けたがすぐにケーキが運ばれてきたので忘れたようだ。


「私たちは上の階へいきましょうか。」


その広い部屋は特別な使用料が必要で空いていた。

階下のテラスを見渡せるため向かい合って座る二人が見える。




「昔会ったことがあるんだけど覚えてる?」

「いいえ、ないわ。」

「何度か遊んだ事があるんだけどな。君はまだ小さかったから無理もないか。早速だけど結婚を視野に入れて付き合いたいんだよね。俺、三男なんだ。君は家柄もいいし学園にも通えるほど賢いし無事に卒業できれば学歴も申し分ない。俺と並ぶには少しばかり幼すぎるのがどうかなって思うけど化粧もあるしドレスも大人っぽくすれば何とかなるだろう。」


側から見ていてあまりの上から目線にジュリエットは眉を顰めた。

シャーロットはどう思ったのだろうか。


「ええと、ジョン・ジョンソン。あなたは街の学校に行っているのよね?私の方が高学歴になるけれどそれに関して女の癖にとか言わない?」

「い、言わねえよ。あとフルネームで呼ばないでくれ。」

「そう。私の容姿のことを言っていたけれど貴方の服のセンスはどうかと思う。私の母が服には厳しいの。だからきっと母も反対すると思う。」

「な、へ、変じゃねえよ!店員に選んで貰ったんだ。それに変だと思うならお前が買ってくればそれを着るよ。」

「ジョン・ジョンソン。貴方にお前とか呼ばれたくないの。親しくもなければ立場が上ってわけでもないし。」

「お、俺をフルネームで呼ぶなよ!ジョンでいいじゃないか。」

「親しくないからジョン・ジョンソンと呼んでいるの。私まだ十六だし婚約も結婚もしないわ。お断りします。」

「お、君のお父さんとは何度も会った事があるし自分では親しいと思っている。だから君とはこれから親しくなればいいじゃないか。」


シャーロットは上から目線の嫌な感じの男をまじまじと見た。

焦ると言葉遣いが少々悪くなるようだ。

好みではないが顔は悪くない。大きな顔は苦手だが目も鼻も口も大きいので仕方がないのかもしれない。

中肉中背の普通の男だ。

あまりにも極上の男達に囲まれて生きているので普通の感覚が薄れているのは自覚している。


「一応聞いておくわ。なぜ私を?」


ジョン・ジョンソンはよくぞ聞いてくれました風に身を乗り出すように座り直し話し出した。


「君の家の婿養子になってやるよ。」

「兄がおりますので婿は不要ですが。」

「最後まで聞けよ。兄さんは他国での仕事が多いだろう?だから女ばかりのあの家を俺が守ってやるからさ。お父さんはほとんど会社で過ごしているじゃないか。」

「で?貴方は結婚したら何の仕事に就いて養ってくれるの?」

「それはまあおいおいに・・・。」



シャーロットの父であるディビッド・ランカスター氏は若くして事業で功績を上げた時に伯爵家から距離を置いている。元々三男で爵位を継ぐことはない上に貴族の集まりも好きではない。

父の事業は兄が継ぐのも決まっているし住んでいる屋敷は母方のものだ。

決定権はランカスターにはない。



「結婚したら俺以外の男とあんま話すなよ?」

「結婚しないけれど一応聞くわ、どうして?」

「それは、俺だけの妻でいてほしいからだよ。」

「いや、知らんし。」


もう呆れてしまい言葉遣いもジョン・ジョンソンに合わせてやろうと思った。


「目立つんだよ。その髪とかさ、一般人は髪を腰まで伸ばすなんてありえないから。」

「いやいや、髪の長い子なんて腐るほどいるし。なんでありえないのか意味わからない。」

「まずシャンプー代がかかるだろ?それにトイレも大変そうじゃないか。」

「トイレ?私の髪の先にウンコでも付いてる?」

「えっと、ないけどさ、でも大人っぽく結ってほしいんだよね。」

「大人っぽい若い子がいいのか大人が好きなのかどっち?」

「え、どっちも、お前いちいち口答えすごいのな。結婚したら夫に尽くして大人しくしろよ?」

「お前と結婚なんてしないから安心して眠れ。」

「お前って、はーん、それが本性か。貴族のお嬢様も口がこんなに悪いなんてな。」

「安心しろ、お前だけにこの口調だ。」



上階から二人を見守る五人は初めて見るシャーロットの口調にとても驚いたがラスティは心から安堵した。

結婚する事はないだろうと。

それと同時に可愛いシャーロットの口からウンコというワードが飛び出したのも驚いた。

ダニエルだけでなくアンディもノエルも笑いを堪えてうっすら涙を浮かべているし二人の会話を楽しんでいるように見えた。



しばらくシャーロットを睨んでいたジョン・ジョンソンはティーカップを投げつけたかったが鼻息荒く心を落ち着かせ言い過ぎて悪かったと詫びた。


シャーロットの腰まで伸びた金色の髪は優しい日差しでうっすらピンクに輝いた。

ラスティの大好きな長い髪はテラス席を吹き抜ける爽やかな風に乗って揺らめいた。




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