5:ラスティの初恋
この国の歴史の中に7つの名前が出てくる。
その昔、魔物が当たり前のように出た時代に戦い国を守ってきた戦士の家門の名前だ。
7つの家門はそれぞれ火や水や光や雷の魔法を使い戦ってきたと記されている。
だが必ずしも強い魔法使いが産まれてくるとは限らなかったようで同じ種族の中で交配を重ねてきた。
その中で産まれた戦士はとても強く短命だったそうだ。
当時の王はその戦士を絵に残し今でもそれぞれの屋敷に飾られている。
同じ血が流れる者同士で繋がり合った結果描かれた戦士は異形で目や耳が極端に大きかったり肌の色が不自然だったり手足だけでなくどこかがおかしい。
骨も脆く一度の戦いで命を落としたと短い文章が絵の裏に添えられていた。
二度とそのような事が繰り返されないように戦士の絵を必ずエントランスに飾るように王命が下され今に至る。
この7つの家名は今もなお健在で王宮を取り囲むように邸は残っている。
だが王家から最も信頼を受け優遇されていたのは八つ目の家名だった。
それはシャーロットの母のウエッジウッド家なのだ。
未来を見通す不思議な目を持つ子供が時々産まれてくるウエッジウッドは七つの家名と共に王家だけでなく国全体を守って来た。
現在はどの家門にも魔法など使える者など誰一人として産まれていない。
ウエッジウッドも同じかと思われたがランカスター家との間に産まれたシャーロットの髪が屋敷に飾られた絵の男と同じだった為に密かに期待を持たれている。
シャーロットはまだ五歳になる前に突然ジュリエットを助けなくちゃと言い屋敷を飛び出した。
早く走れないマーガレットは侍女のマリア・ベルに追わせた。
一心不乱に転がるように街へ走っていくシャーロットは芦毛の馬と栗毛の馬の馬車、御者は緑の帽子、水路の方向とぶつぶつ呟きながら泣きそうな顔をしている。マリア・ベルは息も切れ切れでその馬車を見つけた。
「はぁ、はぁ、し、シャーロット様、あれがそうじゃないですか?」
シャーロットはその馬車を見つけると躊躇なく前に飛び出した。
速度はそれほど出ていなかったが急に飛び出してきた子供を避けようと馬車は横転してしまう。
その時に横転した馬車の中から口を塞がれ泣いている女の子が発見され誘拐が露見した。
「シャーロット!シャーロット!しっかりして!あなたが見つけてくれたんでしょう!」
馬車のそばでマリア・ベルに抱き抱えられたシャーロットはぐったりしている。
口に巻かれた布を取り払うと泣きながらシャーロットに駆け寄り声をかけ続けた。
マリア・ベルはもう片方の腕でジュリエットをしっかり抱き寄せると身なりの良さげな紳士にアシュフォード公爵家に連絡をと告げた。
貴族の中でも頂点に位置する公爵家のジュリエットの母はシャーロットの母とは幼馴染で今でも仲が良い。
あの誘拐事件からアシュフォード家はシャーロットに恩義を感じている。
だからジュリエットの家庭教師の時間に合わせてシャーロットも一緒に勉強するようになった。
「噂のシャーロットに会ったぞ。庭で昼寝をする姿はまさに妖精姫だな。」
そう言ったのは長兄だ。
シャーロットの兄を訪ねたときに庭のハンモックでパンツ丸見えで昼寝をしていたらしい。
寝相は相当悪いようだ。
腕を頭の上に伸ばし赤子のようにすやすやと眠るシャーロットがまさか自分の弟と同じ歳とは思わなかったそうだ。
シャーロットが噂になったのはジュリエット誘拐事件のあとからで、もしかしたら特有の不思議な目を持っているのかもしれないと囁かれるようになった。
その話を聞いて会ってみたくてジュリエットの邸に理由をつけては訪寝るようになり自然にアンディやノエルも交えて休日を過ごすようになり友人になった。
その日は晴れていた空が突然急激に暗くなったかと思ったらポツポツと雨が降り出しラスティを乗せた車はスピードを上げようとしていた。稲光とゴロゴロという雷鳴も鳴り出した。
そしてウエッジウッド邸に差し掛かった時にシャーロットが立っているのが見えた。
腰まで届く金色の髪、眉毛に合わせて整えたぱっつん前髪、好んで着ている黒いワンピース。
彼女は雨にもかかわらず傘も刺さずに車の前に飛び出してきた。
「雷が落ちます!早くこちらの建物の中に入ってください!その並木道から早く離れて!」
ラスティは慌てて車から腕を伸ばしシャーロットを車に乗せると目の前のランカスターの敷地に入るように運転手に指示をした。
そして一分もしないうちに大きな雷鳴と共に雷が落ちた。
「あぁ、よかった。間に合った。座席を濡らしてしまって申し訳ございません。タオルを持ってきます。雨が止むまで家で休んで行かれますか?」
「あぁ、助かった。あれに打たれていたら今頃焼けこげていたかもしれん。礼を言う。ありがとう。」
ラスティはじっとシャーロットを見て何となくだが雷が落ちるのがわかったのだなと思った。
これが噂の未来視かと考えたがあの雷鳴なので誰でも自然と予想できたとも思う。
この時からラスティは別の意味でシャーロットに興味を持ち始めたのだった。




