4:息抜き
全ての授業が終わると時々帰る前に空き教室に集まることがある。
王子なので専用の応接室があるのだが王妃様の耳に筒抜けなのでラスティが嫌がる。
双子の王子と友人のアンディとノエル、ジュリエットとシャーロットは暇があれば放課後ここへやってくる。
全員揃う時もあれば今日のようにラスティとシャーロットが二人きりの時もあった。
「おう。」
「みんなは?」
そんな時はラスティも昔のように砕けた口調で話してくれる。
「さあ?先に帰ったよ。」
「ふうん。パーティーの準備でもあるのかな。」
「さあな、いつも一緒にいる訳じゃないしあいつらも用事があるんだろ。」
「そうだね、そういえばさあ、聞いてよ。私お手紙もらっちゃった。」
「誰にだよ。」
「前に話した事あると思うけれどお父様の取引先の息子だよ。貴族じゃないけれどお金持ち自慢の、」
「あぁ、ジョンな。父が金持ち自慢のやつだろ?そいつがお前に何の手紙を寄越したんだよ。」
「それがね、デートしようだってさ。私がジュリエットとよく行くカフェの話を聞いたらしくて自分も個室をキープできるからどうかって。」
大して親しくもないシャーロットを個室に連れ込んで何をしたいんだか。
情報通のアンディが話していた成金息子が貴族と縁続きになりたがっているのはシャーロットの事だったか。
「お前面白がってるだろ?」
「わかる?お父様のこともあるから無碍にもできないけれど会おうかな。」
シャーロットがそんな男と会うことを決めたのは害がないことがわかっているからだ。
「面白そうな未来でも見えたのか?」
「まあね、私がカフェに行く事によってあの人貴族の娘と結婚できそうなんだよね。あ、相手は私じゃないよ?」
「そうか、それなら心から応援してやらないと。」
「そ、誰と結婚するのか気になるんだもん。どうせ変装してでも見にくるんでしょ?」
「気が向いたら行くよ。最近監視が酷くて抜け出すのにも苦労する。」
ラスティは頬杖をつきながらシャーロットの長い髪を指で弄んでいる。
これはいつもの事で自分の髪がラスティの長くて綺麗な指に巻き付くのはなぜかいい気分だと思っていた。
珍しい緑色の瞳で見つめられるのも悪くなく温かい気持ちになる。
「本当に綺麗な瞳ね。美しい王妃様に似ているわ。」
「シャーロットがそう思うなら嬉しいよ。でも母上の過干渉にはうんざりする。」
自由気ままなシャーロットに比べて王子という立場は全く自由がないのだろう。
おそらく結婚相手も自由には選べないはずだ。
お互いに気楽な相手ではあるが婚約者が決まればこの時間もなくなるだろう。
「王太子殿下はお元気?」
「兄上は婚約が決まってから前よりも忙しそうだ。お前の兄上とも中々会えないと言っていたぞ。」
もう少しだけこの時間が続いたらいいと思っているのはシャーロットだけではないと思いたい。
「送っていってやりたいが母上に知られたらうるさいからな、すまん。」
「いいの。先に行って。明日のパーティーでね。」
「おう。」
ラスティは視線だけ向けるとゆっくりと部屋を出ていった。