3:双子の王子
シャーロットはマーサ親子が屋敷に来た翌日、学園でジュリエットに興奮気味で話をしていた。
中庭で日除の庇があるのはそのベンチだけで天気のいい昼休憩はいつもそこで楽しくおしゃべりをして過ごす。
「ランカスター伯爵の愛人ねぇ。しかも第三婦人ってことは第二婦人もいるのよね。」
「そうみたい。マーサは来週から女学園に通うのよ。十八だから一年もないのにね。」
「学園を卒業した経歴があれば結婚に有利なのよ。だからじゃないかしら?」
「あー、なるほど。結婚したそうだったもの。お相手を探したいから茶会に連れて行けって言い出したんだったわ。」
ジュリエットはまたシャーロットの悪い癖が出たなと思った。
そんな面倒な相手は放っておけばいいのに興味津々で首を突っ込みがちだ。
「おじさまもよく許したわね。要は面倒を見ろってことでしょう?」
「部屋は貸すけれど自分のことは自分でやれって言われてたわ。メイドも自分で雇えって。」
「あぁ、おばさまとシャーロットはほとんど離れで生活しているものね。」
「そうなの。広い屋敷はお掃除も大変だし光熱費もかかるから離れで丁度いいって。お母様も日中はお仕事であんまりいないしお父様は週末しか帰ってこないからね。」
屋敷から奥まった場所にある小さな離れは庭の細い小道を抜けたところにある。
マーガレットとシャーロットは通いのメイドがいるのだがわざわざあの親子に言う必要もない。
「聞こえたぞ、シャーロット。」
ベンチの後ろ側の窓から顔を出したのは第三王子のラスティだ。
太陽の光を浴びた彼のプラチナブロンドの髪は真っ白に輝いている。
悪戯な笑みを称えた緑色の瞳は王妃様そっくりだ。
「お祖父様がやらかしました。香ばしい性格の娘ですのでいつか王子殿下にも火の粉が飛ぶかもしれません。」
「大丈夫だろう。この学園に来なければ問題ない。」
確かにその通りだ。
王太子殿下と兄のいた時は男爵家の娘が殿下に懸想して最終的に学力不足という名目で転校させられたと聞く。
「茶会へ行く気満々ですのでよそのお宅でご迷惑をかけるかもしれません。」
「ははっ。やらかしを期待してしまうじゃないか。愛人の子供を高慢な子息や息女が受け入れるわけがないからな。」
「でも中々の美人さんですよ。黒髪黒目の。」
「黒髪か、それは珍しいな。」
そう言ったのはラスティ王子の双子の片割れである第二王子のダニエルだ。
二人の容姿は見分けがつかないほどそっくりだが話すと違いがわかる。
落ち着いたダニエルに対しラスティは少しおどけたところがある。
ジュリエットからするとシャーロットとラスティはよく似ているらしい。
「あ、そうだ。王宮の茶会に招待してやろう。母上が婚約者のいない子供たちを招待してホワイトパーティーを開こうかと言っていた。」
「ホワイトパーティー?」
ジュリエットも怪訝な顔をしている。
「そう。誰もが白い服でくればその中で際立つものがいるだろうってね。その中で婚約者探しをしろってことさ。」
「まあ!胸にソースなんてこぼしたら生き地獄だわね。」
「あぁ、それもいいな。飛び散りそうなソースをメインで食事を用意するとしよう。上手に食べてこその一流の貴族だ。」
「それでマーサも招待するんですか?」
「何か問題か?」
「いえ、喜ぶと思います。大いに。」
王妃様は大切な息子の王子が自分のお眼鏡にかなった娘以外と仲良くするのをよく思っていない。
ジュリエットは従兄弟なので何も言われないがシャーロットのことはとにかく気に入らないようだ。
理由はシャーロットの母親とジュリエットの母親が昔から気に食わないかららしい。
小さい頃は長兄の王太子殿下、ジュリエットの兄とシャーロットの兄が仲が良くその流れで双子の王子とも何度も遊んだことがある。
けれど王妃の耳に入ると一切付き合いは無くなった。
学園で久しぶりに再開したのだが幼い頃に天真爛漫だったラスティはその影を潜め思慮深く落ち着いた人になっていた。
王子教育の賜物なのかもしれないが少し寂しく感じる。
こうやって密かに話すのも学園の昼休みだけなのだ。
サラもマーサもあまり衣装を持っていない。
翌日には届くと思っていたがお祖父様からも伯爵家からも何も届かなかった。
詳しいことは聞いていないがもしかしたらあまり愛情をかけられていないのかもしれない。
茶会に行くならドレスが必要になってくるだろう。
クリスマスシーズンの夜会にも行くのならばそのドレスやコートも用意しなくては。
(茶会はパートナーがいらないけれど夜会のお相手はそれまでに見つかるかしら。)
「もちろん二人にも招待状が届くだろう。白いドレスを着た君たちを楽しみにしているよ。」
「君たちの母上なら張り切ってくれるんじゃないか?」
確かにその通りだ。
ジュリエットのアシュフォードの家業は繊維を全般に扱っている。
アレクシア様は自分でデザインしたドレスを扱う工房も持っていてそのサロンはお金持ちのご婦人で予約がいっぱいだ。
シャーロットの母のマーガレットは父の事業とは全く別業種だが靴の工房を経営している。
最近では靴だけにとどまらずバッグや装飾品なども輸入しているらしい。
だから二人は切っても切れない仲なのだ。
「私がドレスを贈ろうか?」
「いえ、特別扱いは変な誤解を生みかねません。」
「それもそうだが、まあ今回は諦めるか。」
「はい、そうしてくださると助かります。」
ラスティはシャーロットの着る白い服が楽しみで仕方がない。
なぜなら彼女は制服を着ていない時には黒か紺色の服しか着ないからだ。
せっかくの可愛らしい容姿なのだから華やかな色合いの服を着れば良いのにとも思うが腰まで届く金色の髪に映えて黒い服も可愛い。
どちらにしても彼はシャーロットに夢中になっているのは間違いない。
王妃をどうにかしない事にはシャーロットの社交界デビューの相手にもなれない。
束縛の激しい母親に少々うんざり気味のラスティは大きな溜息を吐くと深く椅子に腰掛けて目を閉じた。