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2:マーサ

すぐに出ていくかと思われた愛人親子は屋敷に住み着いた。

慎ましい態度ならば多少の世話くらい焼いてやろうと思っていたのだが母親はともかく娘のマーサはなかなか香ばしい性格の持ち主だった。

愛人といえども伯爵家の血を引くのだからそれなりの教育は受けてきたはずなのだが口の利き方はまるでなっていない。


「あんたさ、王子様とも話したりする仲なんでしょう?私も紹介してちょうだい。王子が無理なら侯爵とかでもいいわ。茶会とかにも連れてってよね。」


こんな女と本当ならば口も聞きたくないのだがなぜ彼女はこんなに上から目線なのか。

作法も雑な上に化粧も濃い。大きな目は髪と同じように黒くエキゾチックで美しく興味が湧いてしまいとりあえず話は聞いている。

祖父は黒髪ではなく浅黒い肌に顔の作りがものすごく濃く整ってはいるが地味な父とは似ても似つかない。

どう見ても母親似のようだ。

服装もリボンが好きなようで必ず服のどこかに一つ二つはついていた。


「マーサは試験で落ちたから女学園に行くんでしょう?」

「気安くマーサって呼ばないでよ!お姉様って呼んだらどう?」

「でも姉ではないし。かろうじて血は繋がっているけれど。マーサとサラ様はお食事はどうしているの?」

「自分たちでやってるわよ!どうかしてるわ、この屋敷!それよりあんたの兄はどこにいるのよ?」

「お兄様?去年卒業したから大学に行っているわ。学校の寮に入っているの。」



何を話しても喧嘩腰のマーサはそもそも母方のウエッジウッド家を色濃く受け継いだシャーロットが気に入らない。

父から話を聞いていた通りの可愛らしい容姿に鈴のような声も華奢な手足も何もかも気に入らない。

一番気に入らないのは名前だ。

マーサももっと貴族的な長い名前が欲しかった。

母に文句を言った時は私よりは長いじゃないと言われてしまい余計に腹がたった。

だがシャーロットは暇があれば話しかけてくる。

子供のように大きな目を輝かせ鈴の声で質問して来たかと思えば羽のような声でとどめを刺してくる。


「ええっと、茶会の件なんだけれど。私茶会にはいかないの。それからジュリエット以外にお友達がいないから紹介はできないわ。マーサは伯爵の娘なんだしお祖父様が縁談を決めるんじゃないかしら。ガツガツしてるとみっともないわよ。もう十八だし。」


憎たらしいシャーロットの友達の名前にも腹が立つ。


「どうしてあんたは学園に入れたのよ!どうせ父親がお金でも積んだんでしょう?それとも公爵令嬢のおまけとして入れたのかしらね!」

「よく考えればわかるでしょう?勉強して試験に受かったからよ。小さな頃からジュリエットと一緒に家庭教師がいたから。」


マーサは学園なんて簡単に入れると思っていた。

王都の貴族の子息がほとんど通っていると聞くしお父様に勝手に婚約者を決められる前に自分で決めたいと思っている。

田舎の領地の父親はともかくシャーロットの父親との縁者なら引くて数多だろうと考えた。


「この屋敷で茶会を開けば良いじゃないの。私たちの歓迎のためにね。」

「誰が歓迎するの?愛人の妻と子供だけれど本妻から追い出されたから茶会を開いて慰めてって?悪いけれど誰も歓迎していないから無理ね。でも送別会もしないから安心して。そうだ!マーサ、貴方が好きそうな寝巻きをいくつかプレゼントするわ。夕方に届くからまたあとでね。マリア・ベルが持って来てくれるから。」


(マリアベル・・・誰よ・・・マリアで良いじゃない・・・二つも名前があるなんて・・・)




この日の夕方にシャーロットの幼少期に侍女だったマリア・ベルが届けてくれた数枚のこれでもかとリボンのついた寝巻きの入った包みを持ってシャーロットはマーサの部屋を訪ねた。

これなら気に入ってくれるだろうと半分優しさ、半分からかうつもりで用意したのだ。


「プライベート空間にお邪魔してごめんなさい。これどうぞ。寝巻きとガウンよ。ついでに普段着用のワンピースもいくつかあるわ。」

「あ、ありが、受け取っておくわ。」


最初は怪訝な顔をしていたが大きな包みが嬉しかったのかお礼の言えないマーサは少しだけ顔が綻んだように見えた。

厚塗りをした化粧を落としたマーサの素顔は清楚な、大人しい顔立ちだった。


(お祖父様の要素どこいった)


単調な生活が少し面白くなるような予感がしてシャーロットはウキウキと部屋に戻って行った。

今頃バカでかいリボンのついた寝巻きを見てさぞかし喜んでいることだろう。

女学園に通えば友人もできるに違いない。

女の園はあんな人達で溢れているらしいから。


(恋人もできそうね、顔はよくわからないけれど)




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