16:根拠のない自信
ラスティだけでなくダニエルもまた母親に対して、何も言わない父親に対して憤りを感じていた。
母親の実家に何かしら不備がないだろうかと調べ上げたがこれと言って出てこない。
シャーロットが嫁いだパウエル氏も問題にするほどの悪事もなく二人は行き詰まっていた。
「叔父上も男だから今まで浮いた噂の一つもあればと思っていたがまさか一つもないとはな。」
「あの歳で清らかだとは思えないが女の影が全くないなんて。」
「母上が綺麗に片付けた可能性もあるけれど。」
二人はだらしなくソファにもたれて大きな溜息を吐くしかない。
今回王妃が組んだ縁談で喜んだのはノエルとジュリエットだけだろう。
ラスティもダニエルも挨拶程度しか認識のない令嬢を婚約者として迎えるしかなかった。
お相手の家門は手放しに喜んでいるらしいがこちらの気持ちは地獄そのものだ。
「顔合わせがあるんだってさ。その前に誰かの結婚式にも出席せねばならん。」
「ああ、シャーロットが学生のうちに嫁いだから他も見習って早急に式を挙げるそうだな。男はそのまま学園に通うらしいが女は家で家門のマナーを習うだけさ。アホらしい。」
ラスティはずっと腑が煮え繰り返ったままだ。
いっそのこと母親を殺めてしまおうとすら考えた。
だがシャーロットと同じく何も出来ない自分に殴りたい気分なのも確かだった。
「何になればシャーロットを奪える?俺が陛下の座を奪えばシャーロットが戻ってくる?」
「・・・無力だな。俺たちみんな無力だ。」
ダニエルもまた恋心を抱く相手がいた。
彼女は未亡人で一歳になる子供がいる。夫は浮気相手と心中してしまい有耶無耶なまま離縁して実家に戻ってきていた。
「・・・叔父上が死なねえかな・・・。」
ラスティの虚しい独り言が夜風に消えていった頃シャーロットも自室で引きこもりになっていた。
順風万歩に生きてきた(つもりの)十六年。
最高貴族の公爵家の娘ジュリエットの親友として自分も同じような立場でいたかも知れない。
ピンクや黄色の淡いドレスの令嬢たちと同じようなお喋りが上手く出来ずに線を引いたのはいつだったか。
自分は他の子とは違うのよと主張するかのように黒い服ばかり選んで着ていた。
少女の体から大人になりかけた今思うのは自分がいかに幼稚だということ。
街で見かける彼女たちはさらりと流行りのスタイルを着こなしそれでいて主張はなくとても優美に見えた。
ジュリエットもそうだ。
彼女の母親のセンスの良さを受け継いで大胆なドレスも着こなしていた。
(女としての完成度の素晴らしさよ。)
恥ずかしい。
尖っていた自分をぶちのめしたい気分になる。
何の根拠もない自信はどこからきていたのだろうか。
(女っぷりを上げてやる!女が嫌いならムチムチバイーンになってこちらから迫ってやる!)
そして嫌われよう。
そんな稚拙な事しか考えられなかったが今のままで泣いているより後悔はしないだろう。
そう思ったシャーロットはレイチェルを呼んだ。
「この手紙を直接届けてちょうだい。こっちはお母様に。」
その手紙には簡潔にこう綴られていた。
『戦闘服を』
シャーロットは離縁に向けて動き出した。




