15:アンディ
異質なパーティーは夜が老ける頃から始まり日が明ける頃まで続いた。
続いたと言っても広間には酔い潰れた数人が転がっているだけで他の人たちはパートナーと個室に篭っている。
賑やかな音楽や話声でシャーロットは眠れずにそっと覗きにいったのだ。
誰にも見つからないように長い髪をフードに隠して見ていたのだが背後から声を掛けられて心臓が飛び出るほど驚いた。
「やあ、シャーロット。パウエル夫人と呼ばないといけないね。元気?」
そっと振り向くと久しぶりに会うアンディが立っていた。
普段と違う装いはこのパーティーの参加者なのか?疑問に思い声を出せないでいるとアンディはシャーロットをじっと見つめて笑いかけた。
その笑顔はシャーロットの知っているアンディではなく何か含みを持たせたような感じの悪いものだった。
「新婚の夫がまさかこんな趣味があるなんて驚いた?君なら早急に逃げ出すかと思ったけれど受け入れているなんてね。」
「・・・受け入れているわけではありません。」
「じゃあ耐えているの?」
「・・・何が言いたいの?」
「まさかラスティが助けに来てくれるとか思ってるんじゃないかと思ってさ。君割と他人任せなところあるでしょ?」
図星だった。
どう考えてもラスティは自分の事が好きだと思っていたし王妃の横暴な婚姻を覆してくれるのを待っていた。
「君の未来視で何が見えるのか知らないけどさ、王妃様もああ見えてちゃんと考えて相手を選んでいるんだよ。血が濃くなりすぎないようにってね。それでいて賢い子を選んでいる。君も女であの学園に入れたんだから賢いんだろうけれど勉強だけできても駄目なのわかってる?他の子は茶会に出たりして交流を欠かさないし君みたいにジュエットとしか会わないなんてありえないから。」
それの何が悪いのか。
悪いとしても同性愛者と知っていて嫁がせるなんて悪意しかない。
「君がパウエル氏が同性愛者だと訴えれば離縁は可能だろうね。でもそれを誰に言うの?ラスティに泣きつくの?泣きついて離縁できても君はもう傷物として扱われる。王子との婚姻は無理だ。それでもラスティに頼む?」
蔑むような目付きで時折憎しみを向けてくるアンディは彼もまた男しか愛せないのだろう。
きっとその相手はラスティだ。
「何も言えないんでしょ?図星だもんね。容姿だけの君はどちらにしてもラスティと結婚なんて出来なかったんじゃない?賢くても社交性がゼロじゃあね。得意なこともないんでしょ。大人しくパウエル夫人で生涯を過ごしたらどうかな。国を出るなら離縁に協力するよ。二度と戻ってこないと約束するならだけど。」
「あなたは私が嫌いなのね。ラスティが私だけを見ていたから?ラスティに愛される私が憎いの?」
「おめでたいね、君。愛されてるかも知れないけれどラスティの役に立てるの?隣に立って微笑んでればいいとか思ってない?」
もうこれ以上何も言わないでほしい。
そんな事言われなくても気づいていた。
何も取り柄がない自分に。
これから何を学ぼうと考え始めた矢先だったのだ。
まだ十六歳、ほんのりラスティに恋心が芽生え始めた時に自分も何かしなくてはと思い始めていた。
「何も出来ないんだから大人しくしていてね。じゃあまた。」
声色は優しいが目は笑っていない。
仲良く遊んできたあの日々は幻だったのではなかろうか。
少し幼さの残るアンディを弟のように思ったこともある。
シャーロットは鈍器で頭を殴られたように感じ、眼はもやがかかったように視界がぼやけた。
大人しく部屋に戻ったシャーロットはベッドに身体を投げ出し泥のように眠りたいと思った。




