13:新しい家
大きくも小さくもない日当たりが良いわけでも悪いわけでもない可もなく不可もない部屋でシャーロットは一人で目を覚ました。
可愛らしい装飾品など一つもないこの部屋はひたすら清掃だけがされたようで消毒みたいな匂いがした。
臭いよりは清潔だしピンとしたシーツは新品のようだし、カーテンも床の毛足の長い敷物も昔ながらの屋敷にあるようなものではなくモダンな感じがする。
(屋敷も外見と違って内装が新しいわ。改装したのね。)
部屋の扉がノックされ年配のメイドが朝食を運んでくれる。
「ありがとう。昼食も夕食も運んでくれる?一人で食べることにするわ。問題ないわよね?」
「はい、奥様。そう旦那様にお伝えします。」
新婚初日から一人で過ごさせるなら今後会わなくても問題ないだろう。
その間に一日でも早く離婚できるように何か策を考えなくては。
シャーロットはそう決意した。
「あなたが私のお世話をしてくださるの?」
「はい。レイチェルとお呼びください。」
「レイチェル、あなたには色々と質問することがあると思うわ。答えられる範囲で良いから教えてちょうだい。まずジョージにひっつき回っていたあの男は誰なの?」
「・・・。」
「・・・色々と隠し事が多そうね。まあ良いわ。あなたには迷惑をかけないから。」
「奥様、」
「奥様って言わないで。シャーロットって呼んでくれる?所詮仮面夫婦なんでしょうし。」
「はい、シャーロット様。」
言い方はきついかも知れないがシャーロットは持ち前の鈴のような声で話し微笑んだ。
レイチェルはその笑顔にホッと胸を撫で下ろし安堵を見せた。
朝食を食べ終えたシャーロットは何を着ようか迷ったが新しい服など用意されてはいないので持ってきたいつもの黒いワンピースに着替えた。
そして何食わぬ顔をして屋敷中をみて回ることにしたのだ。
奥様なのだから歩き回っても問題ないだろう。
一階は大きなホールと小さな個室がいくつもあり大きなキッチンと食料部屋がある。
これはパーティーの為だけに特化したような作りだと思った。
階段は真ん中ではなく右側にあり二階に上がるとティールームや応接室、何部屋かのゲストルームで他には何もない。
図書室でもあればと思ったのだがなさそうだ。
シャーロットの部屋は三階にある。
ジョージの寝室や今も同じ三階にあるのだが彼の部屋は角部屋でとても広いとレイチェルが言っていた。
(あれは誰かしら?)
明るいティールームのソファで外を眺めているとガッチリとした男が犬と戯れているのが見えた。
薄いシャツの上からでもムキムキさがわかる。
身体に対して顔が小さいのか少々アンバランスに見える。
窓を開けて凝視していたらシャーロットに気づいたようだ。
「mdんそsjldkhwf@?」
(声ちっさ・・・何言ってるの?他国の方なのかな?)
「ティールームにいるわ。上がってきて。」
誰かはわからないがこの家の奥様なのだから命令口調でも問題ないだろう。
男はにこりともせず頷いた。
「あなたが奥様なのですね。僕はトーマスです。」
「そう、貴方はここに住んでいるの?夫との関係は?」
トーマスはニヤッと笑った。近くで見た彼はニキビが潰れたような痕が頬にいくつもあり垢抜けない印象だ。
「夫ね、結婚式もあげていないのにさらっと夫って言えるんだ。すごいね。愛情なんてないだろうに。」
「愛情がなくても肩書きは夫だもの。貴方は何者なの?」
「ふうん。声も顔も可愛いって本当だね。まだこんなに子供なのに可哀想に。僕が誰か知りたいなら今夜君の部屋のバルコニーにいるといいよ。」
可哀想と思うなら家に帰してくれと思ったがこの男にそんな力などなさそうだ。
「わかったわ。バルコニーにいればわかるのね。」
「そ、語らずともわかるよ。僕もいつまでこの屋敷に居られるかわからないけどそれまでは仲良くしようよ。ジョージはああ見えて仕事もあるし僕たちは屋敷で暇なんだからさ。」
(ああ見えて。)
この男も何らかの理由でこの屋敷に囲われているのだ。
ジョージに対してあまりよく思っていなさそうだし身なりは整えているが貴族には見えない。
船乗りか軍人のような身体だなと思った。
そしてその晩シャーロットは衝撃の事実を知ることになった。
バルコニーに大きな椅子を持ち出して待機していると獣の鳴き声のような唸り声のようなそれでいて艶っぽい声が聞こえてきたのだ。
見つからないようにそっと見てみると夫とトーマスが交尾をしている。
交尾以外の言い方が見つからない。
春と秋の盛りのついた犬のように。
シャーロットは呆然と立ち尽くした。




