10:暗
初めてのダンスは成功だったと思う。
一生懸命練習に励んだ成果が出たし初めてアップにした髪もあんなに肩を出したドレスも初めてだったけれど似合っていた。
何よりもラスティがこっそりくれた指輪のおかげで緊張がほぐれたおかげなのもある。
ラスティがにっこり微笑んで手を差し伸べてくれた瞬間から明るい未来が待っているような気がした。
踊っている時は完全に二人だけの世界に感じたしラスティも同じ気持ちでいてくれたように思う。
いつもふざけた彼がダンスが終わった時に頬にキスをしてくれたなんて今でも信じられない。
シャーロットは完全に舞い上がっている。
「あなた達はお互いに思い合っていたじゃない。気が付いていないのは本人達だけよ。だから最近は二人きりにしてあげていたでしょう?その間何をしていたのよ。」
「特に何も・・・。」
「このままダニエルとヴィクトリア様も婚約するでしょうね。シャーロット、あなたもお妃様よ!」
「ふぇぇ・・・」
まだ何も言われてもいないし決まってもいないけれど未来の自分を想像する時には必ずラスティが隣にいる。
「あなたの未来視で何か見えないの?」
「私の未来視の能力はとても小さいもの。ドンガラガッシャーンを防ぐくらいしかできないわ。」
「小さい頃は今より見えていたんでしょう?大人になると不思議な力は薄れるってほんとなのかもね。」
「でも不幸な未来が見えないってそれだけで嬉しい。」
「そうね、あなた達には幸せな未来が待っているわよ。クリスマスの夜会の事でも考えましょうよ。」
ジュリエットは近頃すごく大人っぽくなった気がする。
毎日のように会っているからシャーロットにはわかりにくいけれど久しぶりにあった父が驚いていた。
「ジュリエット、婚約おめでとう。相手はノエルで嬉しい?」
「ふふっ、ありがとう。お話があった時はノエルも私も驚いたけれど後継ではないから気が楽よ。私たちも仲良しだったしこれからもみんなと一緒にいられると思うと嬉しいわ。」
「私はまだ決まっていないから!王家からも何もお話がないの。だからあまり浮かれるのはよしておくわ。」
実はラスティのダンスの相手は別にいた。
王妃様が決めたお相手がいたのだ。
ラスティは直前に知り急遽アンディに頼んだ。
「俺はシャーロット以外と踊るつもりはない。母上が勝手に決めたんだ。頼む、アンディ。」
「いいよ。僕は今回踊るつもりはなかったから。一つ貸しだよ。」
アンディは笑ってラスティと拳を交わした。
「ありがとう。俺にできることがあれば何でも言ってくれ。」
「後から王妃様に大目玉を喰らっても弁明してくれよ。」
「わかっている。父上にも今から話をしてくるから、また後で。」
王族の結婚は本人の希望など無意味だ。
母上が望んだ相手に婚約者がいたとしても強引に妃にすることだって出来る。
長兄の時がそうだった。
もっとも家柄の良い娘は王太子の妻になるべきだと言って無理やり引き離し兄の妻にした。
兄も望んでいた令嬢がいたと後から聞いたがその時はまだ子供すぎてラスティには感情が湧かなかった。
今なら兄上の気持ちも妃殿下の気持ちも痛いほどわかる気がする。
結婚などに興味のない父は全て母上任せなのだ。
否定しておかないと母方の息のかかった娘と結婚させられてしまうだろう。
夜会後に見た母上の冷たい目線でラスティは悟った。
「・・・脅すか。」
「ダニー、実の母親を脅せるか?」
「うーん、将来に関わるなら脅せるよ。母上でも弱点の一つくらいあるだろう。」
「パウエル男爵一族を調べよう。」
双子は母親があまり好きではない。
自己中心的で気分屋なところも人の気持ちを考えないところも人として尊敬できない。
小さい頃からそう感じていたが兄上の結婚の時から距離を置いている。
だから母親の生家も好きではないしその図々しい家族も嫌いだ。
パウエル男爵は娘が王妃になった時から態度を変えて贅沢三昧の生活をするようになった。
「何でもいい。弱みを握るんだ。」
双子はその日から動き出した。
ラスティはシャーロットを手に入れるために。
ダニエルは・・・大嫌いな母親を嵌めるために。




