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1:お祖父様の愛人がやって来た

シャーロット・ランカスターはとても困惑していた。

隣の母親は困惑というよりも迷惑そうだ。

伯爵家の妻で貴族なのに思い切り顰めっ面をしている。


シャーロットの祖父はランカスター伯爵で父親はその息子で三兄弟の三男。

だから伯爵の孫にあたる。


母も由緒ある家系の出なのだが爵位はなく、王宮を取り囲むように建てられた8つの屋敷の中で最も王宮の入り口に近いところに敷地が与えられていることから重要な家門だった事が伺える。


私たち家族はその母方のウエッジウッドの屋敷で暮らしている。

父は婿養子ではないが母方の親類がほとんど国を出ていたので屋敷を空にしておく訳にもいかずそこに住む形となったと聞いている。


隣の屋敷は幼馴染のジュリエットの住むアシュフォード公爵家。

母親同志がとても仲が良くシャーロットとジュリエットも、それぞれの二人の兄も物心ついた頃から共に過ごし育った。


学園は貴族の子供しか入れない。

それも成績の優れた者しか入学を許されず多くの令嬢は女学園へ通うことにするか家庭教師を雇うかのどちらかが殆どで幼い頃から家庭教師がついていたシャーロットとジュリエットは学園に通っている。


学園に通い始めてしばらく経った頃シャーロットは数少ないお嬢様達から意地悪をされたり嫌なことを言われるようになった。

公爵家のジュリエットがいれば何事もなく過ごせるのだが四六時中一緒にいるわけにもいかない。


(まあお嬢の意地悪なんて痛くも痒くもないけどさ)


今にして思えば意地悪はあの方の指示だった気もする。


気の強いお嬢様よりもさらに気の強いシャーロットは何をされても顔色ひとつ変えずにやり過ごしていたがある日家に帰ると驚くべきことが待っていた。





「・・・・お母様?この方達はどなた?」

「あんたがシャーロットね。私はマーサ・ランカスターよ。ランカスター伯爵の娘なの。お母様は第三婦人なのよ。」


偉そうに腕を組み睨みつけてくる黒髪の親子はお祖父様の愛人とその子供らしい。

ご婦人は母と同年代だろう。祖父からしたらずいぶん若いお妾さんだ。


(・・・マーサ・・・お祖父様が恋焦がれた先代の王妃様の名前だわ。・・・お祖父様・・・なんて不敬な・・・。)


「それで伯爵の愛人がうちに何かご用かしら?」

「お母様は愛人ではないわ!第三婦人って言っているじゃないの!」

「あなたに聞いていないわ。あなたのお母様にお伺いしているの。子供は黙っていなさい。大人よりも先に口を開くなんて、もしかしたら教育を受けていないのかしら?可哀想に・・・。」


シャーロットの母であるマーガレットも気が強く口も達者で、そのせいか祖父はこの屋敷に近寄らない。


「サラ・ランカスターと申します。伯爵の妻ですの。貴方こそ口の利き方がなってないのではなくて?」


サラとマーガレットが互いに睨み合う。

伯爵の愛人とその娘、伯爵の息子の妻とその娘。


(どっち上よ・・・。)


シャーロットは少しの間ぽかーんと口を開けて親子を見ていた。


「それで私の所有するこの屋敷に何のご用かしら?」

「伯爵から聞いていませんこと?マーサが学園に通うのでこの屋敷に住むようにと言われて来ましたの。」


母は眉間に皺を寄せて考えたが手紙もなければ夫からも何も聞いていない。



「中に入れてちょうだい。とても疲れているの。お部屋を用意するようにメイドに言ってくださる?娘の部屋は隣にしてちょうだい。」

「衣装部屋もね。」


小さなトランクしか持っていないのに衣装部屋など必要か?と思いどうするべきか悩んでいると父が慌てて帰ってきた。

車から降りた父は手に手紙を握っている。


「君が愛人と娘か。」

「愛人ではないわ!第三婦人よ!」

「父上から何と言われたのか知らないが此処でどうやって生活するつもりなんだ?この屋敷には侍女もいなければメイドもいない。自分たちのことは自分でしなければならない。」

「え?」


今度は愛人親子が固まった。


「どういうことですの?だって伯爵家なんでしょう?」

「私は伯爵の息子だが後継でもない三男だ。屋敷は妻のもので伯爵家からの援助など何もない。だから君たちを養う義理もい。余裕があったとしても君たちの為に使う金はない。自分たちでできるならば部屋くらい貸してやろう。」

「嘘、だって息子はランカスター家で一番お金持ちだって・・・だから養ってもらえって・・・。」


確かにその通りだ。父は何の援助もして貰えなかったが自ら事業を立ち上げコツコツと努力をし会社を大きくしたのだ。今ではこの国で三本の指に入ると言っても過言ではない。

長兄しか可愛がらなかった父親から離れ学生時代は留学をしていた父は他国に友人や知り合いも多い。

がめつい父親が幾度となく金の無心をしてきたが断り続けている。

自分の父親がとにかく嫌いだった。



「断る。私の稼ぎは私の家族以外には使わない。自分たちのことは自分でやってくれ。メイドが必要なら自分で雇うんだな。」

「あ、あなた方はどうしているんですの?食事や掃除やお洗濯も。」

「必要な時に雇っている。」

「では私たちも一緒に。」

「断る。私たちの生活スタイルを邪魔しないでくれ。私は他人に乱されるのが一番嫌いなんだ。住みたいのならば君たちは二階の角部屋を使うと良い。キッチンも洗濯部屋も風呂も1階にある。」


シャーロットの父は冷たい声で愛人親子に告げると車で戻って行った。


「生活費はお祖父様にもらってちょうだいね。私たちは三階に部屋があるけれどプライベートは干渉しないようにしましょう。」


こんな扱いを受けるならばお祖父様の領地にすぐ帰るだろう。

シャーロット親子はそう思っていた。

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