淫紋師〜副業で淫紋刻んでます〜
淫紋師。そんな職業は存在しないというか、魔術刻印を身体に付与する刻印師の異端児的な存在である。普通の人はそんな刻印をしない為、需要と供給が釣り合わず、誰もやらない職業名称である。残念ながら自分は淫紋を刻印出来るものの、魔術具師を本業としていて、お声が掛かったらやる、と言うのが現状である。
「ヒロトの旦那、今晩から1人づつ2人に彫ってもらえないかい?」
「承知しました」
「旦那の淫紋はピンキリだからなー、悪いが本人とも話してB以上で掘ってくれると助かるぜ」
「わかりました」
昼にやってるマジックアーツ屋にちょこっと顔を出したのは風俗店の支配人。こちらで言うマフィアの構成員の1人だ。
マジックアーツ屋は俗に言う昼の仕事で、この世界で魔力はあるのに魔術を使うのに時間がかかる、無詠唱や魔法陣無しで発動できない人が利用する店である。
まぁ割と使う人がいるから昼の仕事も忙しいのだけれど、自分の店はあくまで個人店。大手に比べたら若干値が張るものの、品質はそれなりに良いのが自慢だ。
実際に売上も好調だし、なんなら金もいい感じで溜まっている。
嫁がいないという問題以外はおおよそ順調な生活が出来ている。
「すいません、この温水の魔法具ください」
「10万ベルリです」
「中々高いな……まぁ仕方ない。はいよ」
「ありがとうございます。何か説明は必要でしょうか?」
「いや、大体わかる。お前の所のは長く買っているからな」
「毎度ありがとうございます」
今は固定客にも恵まれて、本当に順調な生活をしているのだ。まぁ夜の淫紋師がイレギュラーなだけで。
............
「あの、こちらのお店で淫紋を入れる様にと言われてきたのですが」
「お待ちしておりました。奥へどうぞ」
尋ねてきたのは12歳くらいだろうか?毅然とした、と言うよりは感情が伺えない表情で薄暗い店に入ってきた。
こんな若さで淫紋を入れにくるのは大体口減しで売られた子だ。
そんな子がする顔をしている。
彼女を奥の作業部屋に案内する前に、いつも通りに店先の椅子に座ってもらい、リラックスの為にお茶を出し、自己紹介を始めた。
「初めまして。ヒロトと言います。いつもこのお店でマジックアーツ、魔道具を作ったり売っています。お名前は言う必要は無いので、安心してください」
「はい」
うーん、リアクション薄いね。よくあるパターンだけど。
「話は聞いていると思うけれど僕の施す淫紋にはランクがあるんだよ。
Dランクは魔力を込めると発情して濡れるようになる効果。
CランクはDランクの効果に加えて妊娠しなくなる効果。
BランクはCランクの効果に加えて身体の傷が癒えやすくなる効果。
AランクはBランクの効果に加えて膣や子宮、下半身に関連する病気を退ける効果。
SランクはAランクの効果に加えて、性行為がとても気持ち良くなる効果がある。
あとオプションで口でのご奉仕を前提に病気にならないお口用の淫紋もあるよ」
こんなにざっと説明されてもわからないだろうけれど、要するにさまざまなレベルの淫紋を施すことができるのだ。
「……値段は?費用は自分で払う事になっているとオーナーから聞きました」
「値段は各ランク、これぐらいだよ」
いつも説明用に使用する説明と料金の表を見せた。少女はその表を見ると少し眉を吊り上げて、その表を見るのをすぐにやめてしまった。
「……高いですね。学のない私でも高いことはわかります。オーナーは最低Bランクって私に言いましたが、どれもつけたくないです」
口減しに売られた娘なのかわからないけれど、金額の感覚はあるらしい。
淫紋を施すことができる人は少ない。故に一回あたりの値段が高いのだ。良く物好きな貴族が調達した性奴隷に施したりするのが他の人がたまにやる仕事で、逆に俺みたいに風俗嬢に施す人は物好きの部類だ。
「確かに僕の施す淫紋は高いよ。でも、君には悪いもの、と捉えないで、淫紋はお守りだと思って欲しいんだ」
「この、人に抱かれる為に入れる刻印がお守りだと言うんですか?」
「そうだよ」
少女が初めてこちらに質問をしてきた。お守りだなんて、何言っているんだと思っているみたいだ。
「たとえば、君が何も刻印せず帰り、客を取ったとしよう。君のお店だとね、君の体に異常がない限り、必ず妊娠するよ。そして、その頃には病気にかかっているかもしれない。そんな君を見て、店の人はどうすると思う?」
「……仕事をさせない、ですか?」
「違うよ。君のお腹の中まで魔術具を突っ込んで掻き回し中絶して、その衝動による出血、体調不良が無くなるまでは休ませてくれるけれど、その間に別の魔術師によって身体の治療をされるんだ。これはこれで一回あたり20万ベリルくらいかかるんだよ。そして君は長期働けなかったペナルティとして、収入はもちろん無く、その分のペナルティを払う事になる……というのが良くあるパターンだ」
「っ……そんな……」
他の劣悪な環境の店であり得る事をざっと紹介した。まぁ本当に怖いよねって話だけれど、これを防ぐことができるのだ。
「で、でも、私、本当にお金なんてなくて……」
「大丈夫。僕は君のところのオーナーを良く知っているからね。フルオプションで組んでも、毎月払い8万ベリルで24ヶ月で支払うパックもあるよ。どうかな?オーナーからちゃんと出勤していたら、毎月50万ベリルの報酬は約束されていると思うし、お客さんがついたらすぐに支払うこともできるだろうし。あ、忘れていたけれど、半年に一度、メンテナンスがあって、それは各4万ベリル。2年間に3回で12万ベリルだからそんなに気にならないと思うよ」
ちゃんとメンテナンスまでつけているあたり、自分はかなり優しいと思う。まぁお金取っちゃうけれど。
「は、払えるってことなんですね……いや、それでもお給料に対して出費が……ええっと……とりあえずお金のことはわかりました。最後に淫紋って消せますか?」
「残念ながら、消せないかな」
「えっ……それじゃあ一生普通の人に戻れないってことですか?」
「まぁ、そう言う考え方の人もいるよね」
「そんな……」
刻印魔術は基本的に刻印してしまうと、魔力を流した際に光ってしまう。そして、人体刻印した場合、効果を消すことは出来るが、刻印の跡を消すのは至難の業なのだ。
「まぁ、全く出来ないわけではない。時間とお金がかなり掛かるんだよね」
「……おいくらですか?」
「約50日、毎日通ってもらって50万」
「えっ……」
驚愕の値段なのだろうな。でも、魔術刻印の対価完全除去は他所ではこの3倍は掛かる。自分の作った刻印だからこそ、責任を持って消しているのであって、逆に他所で体に刻印された人のを取り除こうとしたら、同様に3倍の価格を要求している。
「人によっては消さない人もいるし、それはお店やめた後考えれば良いことだから今は気にしないほうがいいと思うけれどね」
「……少し考えても良いですか?」
「どうぞ」
こうやって悩む女の子は多々いる。刻印は彼女たちにとって、ある種の首輪だ。決めると言うのはなんで残酷なことなんだろうと思いながら彼女を見ていた。
「……Aランクと……オプションでお口用の淫紋をお願いします」
「承りました。じゃあオプションついているし、6万ベリルを24ヶ月。毎月、月末までに払ってください。メンテナンスは時期が来たら教えるから、お願いします」
「……わかりました」
そして覚悟の決まった女の子に契約書にサインをさせて、店の奥の作業部屋の、さらに地下である秘密の作業部屋に彼女を連れて行った。
「……なんだか、怖いです」
「そうだね、薄暗いからね。じゃあ、そこの椅子に服を全て脱いで掛けてくれるかな」
「……わかりました」
座ってもらった椅子は特注品で、産科の先生が使うような椅子だ。
先に手足を固定して、しっかりと椅子に固定した。
暴れられると刻印をミスする原因になるからだ。
「じゃあ、早速だけれど、舌に刻印を施すから、舌を出してピッタリと付けて」
「痛いですか?」
「刻印される時にほのかに痛みが走りますが、泣き喚くほどではないですよ」
少し嫌そうな顔をしたが、有無を言わさず、刻印の入った紙を舌の上に置いて、刻印魔術を発動した。
「…………あつっ!!!」
「はい、終わりました。熱いと感じた頃には刻印は終わっているので成功です」
「せ、成功なんですか……ヒリヒリする……」
「そうです。感覚としては舌の火傷と同じ感覚ですね。それでは他の淫紋を刻印していきます」
固定台に四肢を固定しているので、彼女は抵抗することは全く出来ない。そんな状態で彼女の子宮、膣に対して表皮となる部分に、刻印を淡々と施していった。淫紋のデザインは人それぞれ異なる。魔術的に必要な避妊や無病の効果を施すと、身体に出てくる淫紋はその人の身体の性質、その人の人間性を反映した刻印として浮かび上がるのが刻印魔法だ。
浮かび上がる淫紋もさまざまで、小さなハート型の人もいれば、羽がついている人、何の絵かわからない人と、個性が出るのは面白い。
「あつつつつ!!!!!」
刻印された女の子は体をビクンと跳ねさせて、再度熱いと叫んだ。
それでも僕は手を緩めず、必要な淫紋を刻印するのだった。
「痛くありませんか?」
「ヒリヒリしますが……まだ大丈夫です」
「では続けます」
それからは何回か同様に彼女は軽い痛みを感じながら、淫紋が彫られていった。
★
「これで刻印はお終いです。お疲れ様でした」
「やっと終わった……」
思ったより時間がかかったと感じたのだろう。なんだか彼女は疲れており、椅子の上でグッタリしていた。
「それでは続けて、魔力を流してちゃんと動作するか確認します」
「えっ」
戸惑うように言う彼女は四肢を動かそうとするものの、固定されているので抵抗はできない。
刻印したら結果を確認するのは当然のこと。別にやましい気持ちがあるわけではない。
「じゃあ魔力を付与しますね」
「えっ……なんか、温かい?」
「最初はそんな感じですよ」
魔力を流され、下腹部に温もりを感じ始めたようだ。その時点で刻印としては機能していることが示唆される。
「発情するかについては……徐々になりますが、そうですね、体の拘束はもう不要なので解除しますね」
「は、はい」
四肢の拘束を解除して、患者の様子を見て見るのがいつものやり方だ。
大体この後は、発情し始めて自分を慰め始め、その様子を肴に酒を嗜む。
至福のひと時というわけだ。
「うん、ちゃんと上手くできててよかったよ」
これから男を取る女の子が、自らが女になって行く姿はとても淫だ。
彼女が一度果てるのを見届けてから先に施術室を出て、店先に出る。
綺麗な星空、店の奥から聴こえる嬌声。最高の仕事だなと再認識した。




