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58.孤児院にて(6)

 

 目の前にいる女の子は幸輝から目を逸らしつつも、時々こちらをチラリと見てくる。


(たしか最近孤児院に入ってきた子だよな……)


 英雄ごっこの時にもほんの少しだけ絡んだが、活発というよりかは大人しめな印象があった女の子だ。

 しかし英雄ごっこにもかくれんぼにも参加しているという事は、大人しめではあっても控えめではないという事か。郷に入っては郷に従えの精神をお持ちになっているのかもしれない。


「「……」」


 かくれんぼなので当然お互い沈黙しているのだが、如何せん対面にいてどちらも姿が見えている状態だからか若干の気まずさがある。

 一三歳というと大体中学生くらいの歳だったか。


 元いた世界ではちょうど思春期だか反抗期だかになる頃だろうが、この世界ではどうなんだろう。

 幸輝の妹である真道陽菜は思春期であっても反抗期ではなかったはずだ。何なら幸輝共に家族間の仲は基本良かったのを覚えている。


(どうせ鬼役は子供だし、見つかるにしても時間の猶予はありそうか)


 見つかるまでの時間(ちんもく)に耐えられないのなら、普通に話せばいい。

 高校生の少年は小さな子供相手にムキになる事をやめた。


 一応声のボリュームを落としながら、


「よっ、また会ったな」


「えっ……あっはい」


 淡い緑髪の少女は少し戸惑いつつも応えてくれた。


「さっきは自己紹介する前に遊びが始まったからちゃんと名乗ってなかったっけ。俺は……」


「マトウコウキさん、ですよね……? 授業中にリゼさんがみんなに教えてくれました」


 どうやら知らぬ間に自分の名前が孤児院に知れ渡ったらしい。

 いちいち名乗る必要がなくなったと思えば楽か。


「そっか。じゃあ俺の事は好きに呼んでくれ。えぇっと〜」


「す、すみませんっ、私はコリンっていいます……」


「おう、よろしくなコリン。共にかくれんぼの王者になってやろうぜ」


「足が丸見えなので来たらすぐ見つかっちゃうかと……」


 話し方は若干ぎこちないが意外と言うとこは言うっぽい。

 そして特に人見知りでもない真道幸輝は適当に質問をぶつけてみる事にした。


「そういやボリュアさんから聞いたけど、コリンってまだ孤児院に来てから一週間くらいなんだろ? 俺が言うのも何だけど、今の暮らしには慣れてきたのか?」


「そこそこ、です……。私が一番年上だからかは分からないですけど、みんな結構すぐに甘えてきてくれたりもするので、打ち解けるのは早かったかな……」


「確かにあんだけ元気な子ばっかだと関わらない方が難しいよなー」


 おかげで開幕腹部タックルを喰らわされた訳だが、それもすぐに打ち解ける要因になったのは確かだ。

 子供は純粋で無邪気故に感情が分かりやすい。基本低学年くらいの子供が多いので思った事は大体口に出しちゃうタイプばかりのようだ。


「ま、馴染めてるようで良かったよ」


「はい、みんな本当の家族のように接してくれるから、私も早くそういう風にできたらって思ってます……」


「ははっ、あの子ら見てるとそうなるのも時間の問題だろうな」


 こちらが遠慮しようとしても容赦なく壁をぶち破ってくるのが活発な子供というものだ。

 その点においては心配しなくていいだろう。


 コリンが内気な性格だったとしても、多分年下の子供達は無理矢理にでも遊びへ連れ出すはずだ。

 そして気付けば輪の中に入っている。こんな光景を簡単に想像できるのは、初対面の幸輝が実際すぐに馴染めたからだ。


 そんな時だった。

 部屋の外からドタドタと足音が近付いてきたのだ。


「(しーっ、誰か来たっぽいぞ)」


「っ」


 二人で顔を合わせながら人差し指を口に当てて沈黙を作る。

 カーテンに隠れつつも意識は扉の方へ向ける。子供達とのかくれんぼと言えど、何だかんだ見つかるか見つからないかのドキドキ感は面白い。


 足音的に近くにいるのは一人らしい。

 まあ鬼役が二人いるなら手分けして探すのは当然か。しかし子供なら早く見つけようともっと考えなしに足音を立てそうだが、妙にそういった焦りは感じられない。


 ふとコリンと目が合った。

 気付けば二人してかくれんぼに集中していたようで、何だかお互い笑みが溢れてしまった。


 これで緊張も解れたかなと幸輝が思っていると、幸輝達がいる部屋の扉が勢い良く開かれた。

 カーテンの下は思いっきり幸輝とコリンの足が見えてるので、この部屋に入られた時点でもう見つかったようなものだ。


 案の定、足音はすぐさまこちらに向かってくる。

 そして、カーテンが開かれた。


「わあ! 幸輝見ぃ〜つけた! それとこっちは〜コリンだったんだ? よっし、コリンも見ぃーつけた!」


「おい、いつの間に鬼役(そっち)につきやがったんだ裏切リゼ」


「なんか変に語感良い感じで呼ばれた!?」


 幸輝達を見つけたのは元々鬼役だった子供ではなく、まさかのリゼであった。

 おかしい、この見習い女神も最初は隠れる側だったはずなのに、いったい何をしている?


「いやね、最初に見つかったのが私なんだけど、ずっと待ってるのも暇だし成り行きで鬼役になったんだよ」


「成り行きで敵に回るヤツがどこにいるんだこの野郎!」


「仕方ないじゃん暇なんだもん! どうせだったら私も見つける側やってみたかったしぃ!」


「だったら最初からそっち側立候補しときゃいいじゃん! 最初に見つかるくらい隠れるのが下手なら尚更な!」


「足丸見えで隠れてた幸輝に言われたくないんだけど!?」


 あらやだ、普通に反論できないわ、と幸輝は口を噤む事にした。

 というかそれだと一緒に隠れていたコリンにも刺さるのだがその辺どうなのだろう。


「……ふふっ」


「「?」」


 微かな笑い声に幸輝とリゼが同時に振り向く。

 当然視線の先にはコリンがいる。


「ただのかくれんぼで遠慮なく軽口を言い合えるなんて……二人共、仲が良いんですね」


「……リゼさんや、これって褒められてるのかね?」


「コリンが優しく笑ってるから多分褒められてると思う」


 自分より年下の少女に謎の褒められ方をしたせいで反応に困る。


「……」


 そんなコリンを見て、幸輝はある少女を思い出していた。

 真道陽菜。幸輝の妹であり、時折彼女もふざけ合う自分を見てあんな柔らかい笑みを浮かべていたか。


 今でも鮮明に家族の顔は思い出せる。

 もう帰る事のできない世界、家族に思いを馳せつつも、自分はこの世界で生きていかねばならないのだ。


 コリンに妹の面影を重ねるなんて、我ながら心のどこかでは家族が恋しいと思っていたのかとむしろ自嘲気味な笑みさえ出てくる。

 流れを断ち切ったのはコリンだ。


「っ? 幸輝さん、どうかしたんですか?」


「え? ああいや、別に何でもないよ。こいつと出会ってまだ一ヶ月も経ってないけど、そういやお互い遠慮も容赦もないなって思ってただけだ」


「幸輝はもっと私に敬意と気遣いを心掛けるべきだけどね」


「ならせめて家事の一つや二つくらい率先してやってくれませんかね」


「わあー! もう二人共見つかったんだからさっさと食堂に行くのっ!」


 ここで話題を逸らしたという事はこの女神、あくまで家事はしたくないって事か。

 何という自堕落な見習い女神だ。


 鬼役に見つかった人は収容所に設定された食堂に行かなければならない。

 リゼに急かされたコリンはそそくさと退室していった。


 対してもう見つかったんだし別に慌てる必要もないかと結論付けた真道幸輝は軽く伸びをしながらゆっくり扉の方へ向かう。

 しかしそこでリゼが付いてきていない事に気付き振り向くと、彼女は壁の方を凝視していた。


「どうしたんだよ?」


「うん……ちょっとね」


 数秒前まで喚いていた顔つきはどこへやら。

 真剣な顔つきでリゼは壁だけはなく天井にも目を向けている。


 正確にはさっき説明された壁や天井に開いている穴を。


「穴がどうかしたのか? それなら大工のおっちゃんが後で修理する予定だって言ってたぞ」


「幸輝」


 声色まで変わった。

 まるで流れが一気に切り替わるような緊張感さえあった。


「さっきは間近で見なかったから気付かなかったけど、今分かったよ」


「……何が?」


 そう問いかけたのはとぼけたからでも純粋に何も分からなかったからでもない。

 何かがあるとリゼの表情で分かってしまうから、警戒も含めて聞いたのだ。


「開いた穴のとこから微かに魔力を感じる……」


 孤児院にいる者は大人も含めてみんなただの一般人だったはず。

 だから冒険者の幸輝達を物珍しそうにしながら興味を持って積極的に関わってきたはずだ。


 先程屋根の上で考えていた推測が再び浮かび上がってくる。

 もはやそれは確信に変わっていく。

 女神の少女から決定的な言葉があった。


「この穴は魔法によって開けられたものだよ」



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