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57.孤児院にて(5)

 

 大工のおっちゃんが作業している横で周囲を観察してみる。

 この孤児院は村から少しだけ離れていて坂の上にある。


 とはいえ距離自体は近いからこうして村の子供達もボリュアの授業を受けるためにここまで来ている訳だ。

 坂の上にあるという事もあってか、景色もそれなりには良い。草木が風に揺らされている音もまた爽やかさがあり、心地良く思えてくる。


「……ん? あれは……」


 孤児院から三〇メートル程離れた所にもう一つ建物があった。

 幸輝達のいる平屋スタイルの家とはまた別の形をしており、どちらかというと教会のようにも見える。


「あの、あそこの建物って何か分かります?」


「ん? ああ、あれは教会だよ。つっても元だけどな。結構古くなっちまったからもう使われなくなったんだ。新しい教会は違うとこに建設されてるよ」


(使われてないって事は、今は廃墟みたいなもんなのか?)


 ここからではよく分からないが、少なからずボロボロで今にも崩れそうな感じの気配はない。

 精々使われなくなって数年というところか。


 元教会以外に周りに建物は見当たらないようだ。

 とりあえず空いている土地に新しい建物を考え無しに建てていくのがこの世界の常識なのかなと、その辺をよく分かっていない少年は適当に考えてみる。


 心地良い風と共に聞こえてくるのは相変わらずカンカンッと釘を打つ甲高い音だけだ。

 それに釣られてか幸輝の視線が下に向く。


 作業の邪魔をしないように近くにあった穴に近付いて屈む。

 これも暇つぶしの一種。ちょっとした興味本位だ。


「穴に躓くなよー」


「ちゃんと気を付けますよ」


 大工のおっちゃんからありがたい注意喚起をいただきながら穴を見る。

 さっき見たのと同じように四センチ程の穴が円の形を描いていた。


(物の投げ合いとかでこんな穴開くっけ?)


 幼稚園〜小学低学年レベルの非力な子供達しかいない場所でいくつも不自然な穴が開く。

 そんな事が起こり得るのかという疑問がまず先に来た。


 不可解な点がいくつかあるのだ。


(それにこの穴……やけに側面が綺麗なんだよな。仮に物で乱暴にこじ開けたとしても、もう少し無理矢理開けた拍子にできる荒さが出るはず。なのにそれが一切ない……?)


 木製にしろ土製にしろレンガ製にしろ、何かで無理矢理穴を開けたならその跡には必ず綻びのようなものがあるはずだ。

 例えば木製なら木の板を強引に割った時のような断面だったり、土製なら少しつつくだけで断面から土や砂がポロポロ落ちてきたり、そういったものがあるはずなのにそれがない。


 まるでそういう荒い断面ごと綺麗に削ったというか焼き切ったようにすら見える。

 到底子供のできる事ではない。物を投げてできる穴の範疇を超えている。


 ならどうしてこんな穴ができたのか。


(もしかして……魔法……?)


 もはや消去法に近いが、一番可能性が高いという点ではそう考えるのが妥当だろう。

 むしろそれ以外の可能性が見つからない。

 見つからないのだが……。


(ん〜、だとすれば誰がって話になるよなあ。子供はみんな小さいし、器用に魔法を使えるとは思えない。かといってボリュアさんの反応からして孤児院の人達って訳でもなさそうだし……)


 考えれば考えるほど頭の中がこんがらがってきた。

 別に真道幸輝は名探偵でもなければ特別頭が良い訳でもない。


 ただ子供達の授業中はやる事がないから暇つぶしに孤児院を散策して回っているだけに過ぎないのだ。

 壁や天井にできた穴ももしかしたら全く別の原因でこうなったという可能性も決してゼロではない。


 最近ようやく少しずつ馴染めてきたが、ここは異世界だ。

 幸輝の常識なんて簡単に超えてくるし、想像もできないような事象が起きても全然不思議じゃなかったりしちゃう訳である。


 故に。


(まあ、俺の推測なんて当たる訳ねえか)


 思考なんて簡単に放棄してしまう。

 これも結局はただの時間潰しに過ぎないから。


 異世界だし多分自分の想像できない偶然が起きてこうなった、という結論で少年の疑問は終わる。


 ──


「幸輝ーどこー? もうすぐ授業終わるよ〜!」


 リゼの声が下の方から聞こえてきた。

 どうやらまた子供達の面倒を見る時間がやってきたようだ。


「おーう、今行くー」


「うわっ、なんでそんなとこいるのっ?」


「大工のおっちゃんと喋ってたんだよ。おかげでゆっくり散策はできなかったけどな。じゃあおっちゃん、俺そろそろ行きますね」


「おうよ、俺ぁこっちの方が作業楽だからのんびりやらせてもらうとするぜぃ」


 おっちゃんと適当に別れを告げて屋根から下りる。

 あの調子だと一つの穴を補修するのに一時間はかけそうだ。一人だけこっちの仕事を引き受けたのは楽ができるというそういう魂胆もあるからだろう。


「授業はどうだったんだ?」


「普通に座学みたいな感じだったよ。計算の仕方とか魔法の簡単な解説とかだったかな」


「へえ、魔法の授業もあんのか」


「一応魔法の研究とか歴史を学べる魔法専門学校もこの世界にはあるからね。授業でやってたのは初歩中の初歩だったからボリュアさんでもできるんだと思う」


「魔法専門学校ね〜……俺にはとことん縁のない話だな」


 魔力がないのに学んだところでいったいどこで使う所があるのかという話になってきそうだ。

 もし一緒に授業を見ていたら小学低学年よりも理解力のない高校生という烙印をリゼから押されていたかもしれない。


「さて、次は何で遊ぶつもりなんだろうなあの子ら。できれば英雄ごっこ以外だといいんだけど……」


「室内にも遊ぶ部屋あるらしいしそこで何かするんじゃない?」


 さっき外から中を覗いた時にあった部屋の事か。

 室内ならまあそんなに危ない遊びはできないと思いたい。


 ──


「どこに隠れるべきか……」


 かくれんぼをする事になった。


 範囲は孤児院の中だけで外は含まれない。

 孤児院の棟は全部で七つあり、一つ一つが教室くらいの広さでそんなに大きくはなく全ての棟が繋がっている構造だ。


 始める前にボリュアから中の構造を粗方教えてもらったが、隠れられる場所もあまり多くないらしいので大人数でやるかくれんぼとしては割とちょうどいい規模かもしれない。

 先ほどの英雄ごっこでは散々な目に遭ったので、今回こそおチビ達には高校生の実力というものを見せてやる。


(教室……もダメだな。俺が入れそうな場所が一つもねえ)


 そう、実はかくれんぼが始まってからいくつか場所を見て回っているのだが、幸輝のサイズで隠れられそうな所が全然ないのだ。

 孤児院は基本的に数の少ない大人と数の多い子供達しかいない。


 つまりは大体の物が子供が利用できる小さめのサイズで作られているので、クローゼットの中やベッドの下に隠れようとしても入れないのである。

 しかも建物の造りが幸輝がいた世界とはまた異なるため、床下とか天井裏という案を思い付いても若干不安の方が勝って行くに行けない状態だ。


(やべっ、もうそろそろ二分経っちまう。この際どこでもいいから隠れないと!)


 鬼役の子供二人が動き出す前に身を隠さないといけない。

 咄嗟に近くにあった部屋の中に入った。


「あれ、ここって……」


 特に確認もせず入ったこの部屋は、ついさっきも見にきた物置き部屋だった。

 大きめのウッドラックが並べられ、そこには色んな物が置かれている。


 おそらく花壇用の腐葉土が入った袋とか壊れて使えない木製のおもちゃ、もう修復できないほど汚れて破けたぬいぐるみなど、そういった物も全部この部屋に詰め込まれているようだ。

 中を見渡してもちゃんと隠れられそうな所は見当たらないが、もう部屋を出て新しい場所を探す時間もない。


(とにかく一番奥に行かねえとっ)


 電気が点いていないため、少しだけ薄暗い中を仕方なく奥に進む。

 相手は子供だしいっそカーテンの裏にいればもしかしたら見つからないかもと思い、カーテンをめくる。


「あっ……」


「ん?」


 先客がいた。

 とにかく隠れる事を優先していたから気付かなかったのだろう。


 英雄ごっこの時に逃げ遅れていた一番年長の女の子が幸輝の対面にいる。

 お互いがカーテンの端と端にいる状態だ。距離は約二メートルほど。


 ちょっと気まずい時間がやってきた。

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