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56.孤児院にて(4)

 

 数十分後。


「見事にやられてるね〜」


「ばうぅ……」


 ボロボロの冒険者サマが無様に横たわっていた。


「なんであいつら無限に走り回ってられるんだ……体力無限かよ……。しかも普通に全力で蹴ってくるし……」


「子供って力加減とか分からないもんねぇ。相手が冒険者だからってのもあるだろうけど」


 そのせいで脛や腹にパンチと蹴りを集中的にされたのか。

 子供は視点が低いから攻撃の照準が自然と幸輝の下半身に集中してしまうのだ。


 時には男の大事な魂にまで本気の頭突きをされた時には冗談抜きで死ぬかと思った。

 おそらくジュレオン戦よりも死を彷徨ったかもしれない。どうか急所攻撃だけはやめていただきたい。


 おかげで子供達との英雄ごっこ終わりにリゼから回復魔法をかけてもらってる始末だ。

 何とも情けない姿である。ちなみに子供達はひと通り遊び終わると、ボリュアに呼ばれみんな孤児院の中に入っていった。


 早々に回復を終え立ち上がる。

 多分こういう遊びが今後も続くのは確定だろう。その度にリゼから回復魔法をかけてもらう必要がありそうなのが怖いけど。


「ま、あいつらも楽しんでたから良しとするか……」


「おかげで大分仲良くなってたみたいだしいいじゃん。みんな中に入ったから私達もそろそろ室内行こ」


「そういやどこ行ったんだ?」


「教室よ」


「ボリュアさん」


 ドアの方からボリュアが出てきた。


「教室ってことはここは学校も担ってるの?」


「ええ、ここの子達と村の子供を迎えて一緒にね。将来のためにもある程度は教養も必要でしょ? だから私が先生として勉学を教えてるの」


「(……この世界にも学校ってあるんだな)」


「(幸輝が知らないだけでこの世界は結構馴染みのあるモノ多かったりするよ)」


 だってそういうの教えてもらってないから分からないでしょうが、という文句は口に出さない。

 一々全部教えてもらってたら多分それだけで日が暮れる。こういうのは必要になった時にまた聞けばいい。


「それに孤児院をやっていくのにもお金が必要でね〜。こういうところで教師もやりつつ何とか経営してるのが現状ってとこかしら」


「やっぱりこういう仕事って大変なんですか?」


「まあね〜。でも、あの子達を放っておける訳もないし……何より私も子供達の笑顔に元気を貰ってるからね。なるべく不自由なく過ごしてほしいって思ってるわ」


「……ですね」


 純粋に優しい人なんだなと思う。

 見知らぬ孤児達の面倒を見るのが全然苦になっていないような柔らかい表情だ。


「あ、今から授業始まるけどあなた達はどうする? 暇なら授業の様子でも見ていく?」


「私見たいかも!」


 そういえばリゼは意外と勉強熱心だったか。

 幸輝自身は勉強自体嫌いではないが、別に好きかどうかと聞かれたら好きでもない。


 異世界の授業とやらに多少の興味はあるけれど、身近に勉強好きな見習い女神がいるのならそっちに全部任せよう。

 退屈な授業は元の世界でもう飽き飽きなのだ。


「俺はもう少し中や周辺を見ておきたいんで、それが終わってまだやってたら覗きに行こうかと」


「分かったわ。大体一時間くらいで終わる予定だから、自由にしててちょうだい」


「はい」


「じゃあ私達は行きましょうかリゼちゃん。村の子供達もそろそろ来ると思うわ」


「はーい!」


 子供達と変わらない無邪気な返事をした女神の少女を適当に見送る。

 さっきまで賑わっていた場所は一瞬で静かになった。


「さて、ゆっくり探索でもしますかねー」


 緩やかな風が草むらを優しく揺らす音しかない中で独り言を呟く。

 せっかく外にいるんだし、まずは孤児院の周辺から見て回る事にした。


 先ほどざっと中を見た感じではこの孤児院は基本平屋スタイルで、それが一軒一軒繋がったような形をしているらしい。

 食堂や寝室、教室など、人数が多い孤児院でも一棟ごとに役割が分けられるから、その分ほんの少しの移動だけで済むし暮らしやすさはあるのかもしれない。


「お、室内で遊ぶための部屋か?」


 外の窓から覗いてみると積み木だったりサッカーボールより少し小さめのボールなどがあった。

 おそらく外が雨だった時のための部屋だろう。


 今は中で授業をしているからか、何となく小学生の頃の雨の日を思い出した。

 自分の場合は教室でトランプをしたり廊下を走り回っていたりしたか。


(子供の時はむしろ雨の日にテンション上がってたっけ)


 友人と外に出てわざとどしゃ降りの雨に打たれ先生に怒られた過去もあったのを思い出すと、自然と笑みが溢れた。

 それは懐かしさや楽しかったという思い出から来る笑みなのか。


(もう戻れないんだよな……)


 もしくは二度と戻れない日常を憂いての表情か。


「……っと、いけねえいけねえ。今はこっちが現実なんだ。まずはこの世界で生き延びる事を最優先にしないとな」


 振り切るように頭を左右に振る。

 今はしんみりしている場合ではない。こちとら毎日どう生きていくかを考えるだけで大変なのだ。

 主に食事事情で。


 とりあえず今回は食事が出る泊まりのクエストなので大丈夫だが、このクエストが終わった後の事を考えなくてはならない。

 安全を取るならやはり採取クエストか。またリゼから苦情を言われそうだが、安全且つ確実にクリアできそうなのはこういうのしかないのだ。


(次のクエストは採取……あるいは今回みたいな感じで村とか町の中で収まる依頼ねえかなあ)


 孤児院の周りを見ながら歩きつつ、既に次のクエストの事を考えていると。


「……ん? 何だこの音」


 近くからカンッカンッ! という音が聞こえてきた。

 遠くではない、本当に近くから聞こえる。


 気になって音のする方へ歩いていくと、その正体はすぐに分かった。


「あー、そういやさっきボリュアさんが穴の補修に大工の人が来るって言ってたっけ」


 屋根の上で作業中であろう大工さんが釘を打ってる音だ。

 幸輝の声に気付いたのか、大工の人がこちらに振り向いた。


「あん? 何だ兄ちゃん、見慣れねえ格好してんな。冒険者かー?」


「え? ああ、そうです。子供達の面倒見てくれって依頼で来た初級冒険者でーす」


「へーそうかーい」


 カンカン釘を打ちながら話すものだから自然とお互い声のボリュームを上げる。

 魔法がありふれているこの異世界でも屋根の修理は結構普通らしい。


 地面に木の板や工具っぽい物が結構おざなりに置かれており、屋根に上るための梯子も掛けられていた。


(……え、会話終わり?)


 思ったよりバッサリ会話が途切れた。

 孤児院という領域内で偶然出会ったから何となく必要最低限のやり取りだけをしたような感じだ。


 まあお相手は今も絶賛仕事中だ。

 そっちに集中しなければならないならそうもなるか。


(邪魔しちゃ悪いもんな。とっとと離れるか)


 作業中にジロジロ見られるのもきっと居心地が悪いだろう。

 そう思い孤児院周りの散歩を再開しようとしていたら、


「なあ兄ちゃん」


 大工の人が呼び止めてきた。


「はい?」


「子供らは今授業中か?」


「そうですけど」


「じゃあ今は面倒見なくていいし仕事中って訳でもないんだな?」


「まあ……大きく解釈するならそうかもですね……」


 一応孤児院の周囲や中を把握しておきたいという目的もあるにはあるが、別に今じゃなければならないという事でもない。

 単純に学生の本分である授業をこの世界でまで受けたくなかったからだ。考えとしては普通に不良高校生である。


「ちょうどいいや。暇なら仕事手伝ってくれよ」


「えっ」


「なあに、別に作業自体をやらせるつもりはねえさ。ただ俺が言ったモンをそこの地面に置いてるやつから持ってきてくれりゃあいいだけだ」


「まあ、それくらいなら……」


 真道幸輝、ここに来て大工さんのお手伝いがクエストに追加された。

 多分報酬はない。


 といってもどうせ授業が終わるまでは暇だろうから、時間潰しついでに孤児院のために手伝うのも悪くはないか。

 さっそく大工のおっちゃんが言ってきた。


「じゃあまずは板を三個くらい持ってきてくれ。梯子から落ちねえように気を付けろよー」


「了解ですっと」


 肉体労働のお時間である。

 言われた物を手に取って梯子を上っていく。なんか若干グラついているのは気のせいか?


 バランスが不十分な事に不安を抱きつつも屋根へと上がる。

 屋根の上に立つ事は初めてだが案外丈夫そうで良かった。あとは滑り落ちないように気を付けておくべきか。


「これでいいんですよね?」


「おう、あんがとよ」


 木の板を受け取った大工さんが作業しているのを何となく覗きつつ、気になる事が一つあった。

 ただのいち学生なので家の補修作業に詳しい訳でもないが、こういうのって複数人でやるものじゃないのかと。


「あの、他の人とかっていないんですか? それとも状況的に一人で十分だったりとか?」


「いや、本来ならこれでも二人か三人でやるんだがよ、今はそれどころじゃなくてな」


「それどころじゃないって?」


「その様子だと兄ちゃんはラーノ方面から来たのか。実は村の向こうの方は大きな川があって、橋をかけてあってな。普段はそこからも商人や冒険者が来るんだが、数日前に何があったか分かんねえけどその橋が壊れちまってたんだよ。ちょっと前に雨風が強い日もあったからそれが原因かもってなって、今は村の大工ほぼ全員がそっちで橋の復旧作業に行ってるんだ」


「ふーん、そんな事がねえ」


 雨風が強い日……最近のラーノではそんな天気になった事はないが、もしかしたらよくある局地的なものだったのかもしれない。

 村の大事な流通ルートを復旧させるためにほとんどの人員を向こうに割いたのだろう。


 大きな川にある橋なら復旧にもそれだけ時間がかかってしまう。

 まあ人的被害がなかっただけでもまだ幸いだと考えるべきか。


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