55.孤児院にて(3)
その後は物置き部屋にも同じような穴があったのを確認し、一旦外へ行くことに。
裏の方でワイワイと賑やかな声が聞こえるのは子供達だろうか。
「とまあ、こんな感じで所々穴が開いてるとこがあるから、子供達と遊ぶ際は気を付けてあげてね。一応この村の大工さんに補修のお願いをしてるからすぐに来てくれるとは思うんだけど」
「分かりました。それで、俺達はもう子供の所に行けばいいんですか?」
「そうねぇ、じゃあそうしましょうか。来て、子供達を紹介するわ」
室内には入らず家の外から回っていくようだ。
だんだんと賑やかな声が近づいてくる。
「二人は子供の相手をするのは好きかしら? 若いから大丈夫とは思うけど、元気な子達だから結構体力とかいるわよ〜」
「任せてください! 昔は妹の面倒を見てた事もあるんで大丈夫ですよ。どんと来いです!」
「私も!」
「あらそう、なら安心して任せられるわね〜」
クエストを受けた以上は当然子供相手だろうと真面目に仕事をさせてもらう。
真道幸輝だって年齢で言えばまだ子供の部類でめちゃくちゃ若いのだ。むしろ体力でいえば子供達よりあると言っても過言ではない。
ご飯も食べて体の調子が良い今なら子供も数十人いようが負ける気がしないのである。
駆けっこでもかくれんぼでもいくらでも付き合ってあげようじゃないか。
と、内心意気込んでいたらボリュアが家の角辺りで制止してきた。
一旦ここで待機の合図っぽい。
「はいみんな〜、さっき言ってた冒険者の人が来てくれたわよ〜。思いっきり遊んでもらいましょうね〜」
それだけで子供達の声が一気に騒がしくなる。
まるで転校初日のクラスで挨拶をする時のような気分だ。転校した覚えは一切ないが。
「それじゃあ出てきてちょうだーい」
呼ばれたので幸輝が先に出ることに。
相手は小学生や幼稚園にいるような年齢の子達だ。できるだけ優しく、笑顔で元気な挨拶でもすれば懐いてくれるだろう。
なのでとりあえず真道幸輝は笑顔を作ってひょっこりと体を出した。
テレビで昔見たうたのお兄さん的な感覚で。
「やっほー、ラーノから来た冒険者のお兄さ」
そして、まず視界に入ったのはたくさんの子供達……ではなくすぐ目の前に迫ってきていた頭頂部であった。
「んぶごふぅぅぅぅぅぅぅぅッ!?」
「幸輝ぃぃぃいいいいいいいいっ!!」
簡単に言えば子供がラグビーのタックルのように飛び掛かってきて幸輝の腹のど真ん中へ直撃した。
そのまま冒険者の少年は後方へ飛ばされ後頭部打撃。普通に大ダメージであった。
「の、ノゥぁぁああぁぁあぁあぁああッ……!?」
腹と後頭部へのダメージでもはや謎の悲鳴さえ出てくる始末。
両手で頭を押さえながら悶絶していると、見事幸輝をノックダウンさせた子供が顔を上げる。
「早く遊ぼうぜ冒険者の人ー!」
何とも無邪気な笑顔で見下ろしてくる男の子。
なるほど、早く遊びたくてウズウズしていたようだ。どうやら冒険者の幸輝達が来たのを見て我慢できなかったらしい。
通常ならばここで「ははは、子供ってのは元気だな〜」と軽く小突きながらみんなでワイワイ楽しい鬼ごっこでも始めるところなのだが……。
如何せんこちとら遊ぶ前から既に負傷者なのだ。何なら後頭部にちょっとたんこぶすらできている。
子供は元気なのがいい、それは分かる。
しかし子供だからと全てを甘やかして許すのは歳上としてちょっと違うかなと思う。
なのでみんなのお兄さん真道幸輝はまず教育と称して叱るところから始める事にした。
相手が子供? 幼稚園児や小学生と同じ歳? 知るか、何でもかんでも子供だから許されると思ったら大間違いだ。
相手に怪我をさせたら叱る。そして謝罪させる。それが普通なのだから。
ということで真道幸輝、バチギレであった。
「遊ぶ前に謝らんかいこのガキャぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああッ!!」
一斉に子供達が沸く。
みんなキャーキャー言いながら幸輝から逃げ出した。
しかもその顔にはむしろ笑顔すらあった。誰も幸輝を怖がる素振りすら見せない。
喧騒の中から聞き取れた言葉はこれだ。
「逃げろー! 英雄ごっこの始まりだー!」
「誰があの魔物冒険者を倒せるかの度胸試しだぞー!」
どうやら子供達と顔合わせをした瞬間から魔物役に抜擢されたらしい。
誠に遺憾ではあるが、小さな子供とごっこ遊びで遊ぶ時は大抵歳上やら大人が悪役を務めるのが常だ。
孤児院には大人の女性はいるが男性はいない。
子供達にとっては自分達よりでかい男がいるのが既に珍しいのだろう。確かに若い男子相手、しかも冒険者なら遠慮なくぶつかっても大丈夫と思われたって仕方ないかもしれない。
何よりみんな初対面なのに怖がる事もなく笑いながら一斉に逃げ出したのだ。
心なぞハナから許してくれていると思っていいだろう。
ならこちらも遠慮はなしだ。
魔物という大役を大いに果たしてやろうではないか。
「はーはっはっはっ! さあさあ誰から食っちまおうかなあーッ!!」
「打ち解けるの早いな〜幸輝。悪役顔似合ってるじゃん」
「会って早々この感じなら心配する必要はなさそうね〜」
聞き捨てならない言葉がリゼの方から聞こえたが今は流しておく。
二〇人近くの子供を捕まえるならそれなりに体力も必要になってくる。しかも鬼ごっこではなく英雄ごっこという事は、おそらく子供達からもさっきのような攻撃が来ると考えていた方がよさそうだ。
周囲を警戒しつつ適当に唸り声を出しながら歩いていると、
「……」
「……」
一人の少女がポツンと立っていた。
淡い緑色の髪は肩甲骨辺りまであるセミロング、服は他の子供達がベージュのチュニックのような服と同じ色のズボンで統一されているのに対し、少女は一人だけ灰青色のシャツとズボンを着用しており、左の胸元には他の子同様名前が書かれている布バッジがあった。
さっきまで集まっていた子供達の中心に少女はいる。
逃げ遅れたというよりかは、次にどう動けばいいのか分からない状態でいるというのが正しいか。
他の子供よりも顔付きや身長が成長しているように見えるのは、おそらくボリュアが先程言っていた新しく孤児院に入ってきた一三歳の女の子だからなのだろう。
幸輝と目が合うも視線は泳いでいる。
魔物役の少年は優しく問いかけてみる事にした。
「えぇっと……逃げねえの?」
「……へっ? ……あ、えっと……はい、に、逃げますっ……」
「どうぞ〜」
ご丁寧に宣言してからそそくさと去っていく少女を見送る。
(まああのお年頃だとこういうのは恥ずかしいって思っちまうよなー、特に女の子だと)
中学生くらいの年齢だと男子より女子の方がまだ精神面で大人なことが多かったりする。
ちなみに男子の場合は大体数人集まればバカなことをするのが当たり前だ。それは真道幸輝も例外ではなかった。
(あの子が逃げた方向は行かない方がいいよな)
ということで英雄ごっこ再開。
(相手は所詮子供だ。適当に捕まえて脇でもくすぐってやりゃ笑ってすぐにダウンすんだろ。特に最初に俺の腹に突撃してきたヤツは入念に可愛がってやる……)
この手順で一人ずつ脱落させる。
まさかの真道幸輝、悪役を請け負いはしたが負けるつもりはさらさらないのであった。
大人気ない高校生と無邪気な子供達の無限追いかけっこが始まる。




