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終章.初級冒険者(2)

 

 次に目が覚めたのはガラガラ、時にはガタンッという音が幾度も聞こえる中での何とも寝心地の悪い目覚めだった。

 うっすら目を開けると、


「こ、こは……?」


「あ、幸輝起きた? おはよっ、ここはラーノに帰ってる途中の馬車の中だよ」


「また随分と寝てたわね〜」


 目の前にリゼがいた。ついでに向かいの椅子にはセレナが座っている。

 というかだ。寝返りもできない狭い椅子に自分は寝転がってる体勢になっていて、まさかまさかのリゼに膝枕をされている状態であった。


 の割にはあまりドキドキしていない自分に驚きを隠せない思春期男子高校生である。

 美少女の膝枕という男子なら一度は夢見るシチュエーションよりも、色々と気になる事が多くてそれどころではなかったからだ。


「手は……治ってる」


 左手を見てみると、貫きはしなかったものの相当深手を負っていた手のひらが完治している。

 全身の痛みもちゃんと消えているという事は、幸輝が気を失っている間もリゼがまたずっと回復魔法をかけていてくれたのであろう。


「ありがとな、リゼ」


「うん! あ、でもまだ一応安静にしててね。ラーノに着くのはもうすぐだけど、着くまではこのままでもいいからっ」


 感覚的にはもう問題はなさそうなのだが、治療してくれたリゼが言うなら聞いた通りにしておこうと素直にしておく。

 しかし相変わらず馬車の中は走ってる道が悪いのかガタンガタンと騒がしい。なるほど、これは行きにリゼが寝たくても寝れなかった訳だ。


 むしろ途中まで気絶していたとはいえよく眠っていたな自分、という気分である。

 せっかく目が覚めたのだからと、幸輝は聞きたい事を聞く事にした。


「なあ、そういやあれからどうなったんだ? 俺が寝てる間に何かあったか?」


「ん〜何から言えばいいかな〜……」


「リゼは回復するのに付きっきりだったからよく分からないでしょ? それについては私から説明するわ」


 向かいに座ってるセレナが助け舟を出してくれるようだ。


「まず盗賊達は問題なく連行されたわ。私達が拠点に行ってる間に村長さん達がラーノに連絡してたみたいでね、街から衛兵が来てくれたからそのまま先に全員連れてってもらったわ。これでもうナラタ村を襲うような輩はいないでしょうね」


「そっか……じゃあもう安心だな」


「ええ。それと村の人達、アンタに凄く感謝してたわよ。村を守ってくれた挙句、黒幕の魔物もやっつけてくれたってね。ボロボロになったアンタを見てそれはもうみんな慌ててたくらいなんだから。そんな感じで今回犠牲になった人は一人もいない。結末としては綺麗な終わり方ね」


「ははっ……」


 何はともあれ村の人達に活気が戻ったのならそれで良かった。

 これでまた平和なナラタ村に元通りだ。


(黒幕の魔物、か)


 確かにジュレオンは黒幕だった。

 盗賊すらも利用し、ナラタ村の人達を利用した果てに殺そうとしていたくらいには悪だった。


 しかし、その根源には仲間を殺された人間への強い復讐心があった。

 だからああいう事情を知って、果たしてこの争いに魔物側だけが完全に悪いのだろうかという、そんな疑問を持ってしまったのだ。


「なあ、セレナ」


「ん?」


 この世界に元々住んでいる少女へ聞いてみる。


「お前は色んな魔物とも戦ってきたんだろ。それこそ言葉を話す魔物なんかも。それでちょっと気になったんだ。魔物でも何かが憎いとか、仲間のために戦ったりとか、そういうのを考えたりすんのかなって……」


 幸輝の質問に上級冒険者の少女は一瞬目を見開いてから、少し考える素振りを見せる。


「……私が戦ってきた魔物はみんなどうしようもないようなヤツらだったから一概には言えないけど、まあ、中にはそういうのがいてもおかしくはないかもね。言葉を話せる知能を持ってるなら、そういう心を持ってたとしても不思議ではないって感じかしら」


 意外にも否定が先に出てくる事はなかった。


「けど、何でいきなりそんな事を?」


「……ジュレオンと戦ってる時に聞いたんだ。あいつは元々森の奥で仲間とただ住んでただけなのに、そこにいきなり人間が来て仲間を皆殺しにしたって。何かの依頼だったのかは分からないけど、その後ジュレオンが住んでたとこは木々が伐採されて、馬車とか行商人とかが通るための道になってたらしいんだ」


「……」


「人間側の勝手な都合で仲間をみんな殺された。だからあいつは復讐として人間を狙ってたらしい。住処を襲ってきたヤツらを見つけるまで、無関係な人達をも無差別に……」


 あの叫びは、決して嘘ではなかった。

 だから少年の心にも強く残ってしまったのだ。


「セレナ、俺は止めたよ、命からがらジュレオンを。でも、だけど……だからこそ思っちまうんだ。あいつは本当にどうしようもないヤツだったのか? そりゃ過去に人間側の被害者もいたから全部を擁護するつもりはないけど……ジュレオンが、仲間のために復讐の道を選んじまった魔物側が一〇〇パーセント完全に悪いって決め付けていいものなのか?」


 人間と魔物。

 この世界にとってお互いが相容れない存在だという事はジュレオンから聞いて分かってるつもりではいる。


 だから聞いておきたいのだ。

 この世界の人間側の言葉も。


「……正直、そういう事を言われたのは初めてだから、上手く言えるかは分からないわ」


「それでもいい」


「そう……じゃああくまで私個人としての意見だけど……ジュレオンって魔物が言ってた事が本当なら、魔物だけが完全に悪いとは言いにくいかもね」


「っ」


 これもまた意外だった。

 セレナは上級冒険者だ。これまで幾度となく魔物と戦い、勝ち残ってきた。だから魔物は倒して当然だと言うのではないかと思っていたのに、返ってきたのは幸輝と同じようなものだった。


「突然現れた何かに大切な仲間を、家族を殺されて復讐に燃えない人なんて普通いないもの。なるほど……憎しみを抱くのは魔物も同じだったようね。今まで出会ったらすぐ戦いを始めてたから、そんなこと思いもしなかったわ……」


 セレナが受ける依頼は上級冒険者故に基本難しいものばかりだ。

 だから油断もできない状況であり、そうやって知能を持った魔物と戦う際も対話をする余裕も会話を試みようなんて事も考えもなかったのかもしれない。


「そっか……私、あの魔物を殺さずに済んでホッとしてるみたい」


「セレナ……」


「ジュレオンが縮んだ現象はよく分かんないけど、上級冒険者の勘だと対応措置はあれで間違ってないと思うの」


「ああ、俺もそう思う。何でかは上手く言えないけど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 金色の光が黒い靄を飲み込み消滅させた。

 細かい理屈は分からないが、多分黒い靄はジュレオンの悪意や憎しみを表したもので、それを金色の光が消滅させたと考えるのが妥当かもしれない。


 それが幸輝の持つ『覚醒』とどのような関係があるのかはまだ何も分からないが。


(金色だったしもしかしたら光魔法かもとも思ったけど……何も唱えずに出てきたし、そもそも魔法名も何も浮かんでこなかったもんなぁ……)


 結局は分からない所だらけである。

 発動条件が不明なので上手く使えるかどうかすら怪しい。

 そんな事を考えていると、


「それと、一応言っとくわ」


「?」


 セレナの顔つきが少し変わる。


「アンタから魔物側の事情を聞かされて何も思わなかった訳じゃない。復讐心を抱く気持ちも憎しみを持つ気持ちも痛い程分かるわ」


 それを踏まえて、次に彼女はこう言った。


「それでも……私は上級冒険者だから、依頼を受けたら対象の魔物を迷わず倒す」


 彼女の表情を見た幸輝は、どうしても変えられない意思があるようにさえ思えた。


「魔物から少なからず被害を受けた人達はたくさんいる。その中には家族や友人、仲間を殺された人だってね。自分達の力じゃどうしようもないから、冒険者協会にはそういう被害者からの依頼もいっぱい来るの。私達はただクエストを受けるだけじゃない。依頼主のそういう思いも背負ってクエストに挑まなくちゃいけない時もある」


「……」


 まるで覚悟が違った。

 これが別の世界から来た初級冒険者の真道幸輝と、元からこの異世界にいる上級冒険者のセレナ・グレイスとの違い。


 何も考えず魔物と戦う事への疑問を持つ事も決して間違いではないと思う。

 しかし、セレナ程の冒険者にはそれ以上に背負っているものがあるのだ。


 人の思いや人間そのものを守るための戦いがある。


「どうしたって私は人間だから、そっちを優先すべきだと思ってる。けどアンタの考えを否定するつもりもないわ。そういう思考を持つ人がいる事も、将来的には必要だからね。ただ気を付けなさいよ? そうやっていざ野生の魔物と出会ったら言葉が通じない分すぐに狙われるわよ」


「……ハハっ、肝に銘じます……」


 既にオオカミやイノシシ型の魔物と戦おうとして敵わず敗走していたのを思い出す。

 言葉が通じない野生動物は倒す倒さない以前にまず普通に勝てないのだ。


「あ、ラーノが見えてきたよ!」


 リゼの声を聞いてそろそろかと体を起こす事にした。

 外を見ると確かにラーノの街が見える。


「そういや俺とリゼってナラタ村に配達のクエストしに行っただけなんだよなぁ。それがまさか盗賊やら魔物やらの事件に巻き込まれるなんて……とほほ、安全なクエストのはずだったのにツイてねえや……」


「うん、そこはまあ同情するわ……私が言うのも何だけどよく生き残ってたわよねアンタ達」


「俺が一番不思議に思ってます」


 ともあれ、当初の目的通り全員生き残って無事ラーノに帰ってくる事ができた。

 それだけでも万々歳だろう。


「あ、そうそう、ナラタ村の村長がアンタに細やかながらのお礼って事で十人前くらいあるお肉と結構な量の野菜を貰ったんだけど」


「何ですとぉ!? 食料は我が家にとっての最重要資源ッ! ある意味お金よりも価値があると言っても過言ではない命を繋ぐ代物!! それをくれたのか村長ありがとうございます命張った甲斐がありましたあッ!!」


「回復魔法を終えたリゼがほぼ全部その場で食べたから一人前ってよりお子様用分しか残ってないのよね」


 一瞬で何かがブチ切れた。


「リぃゼェェェえええええええええええええええええええええええええええええええええええええッッッ!!!!!!」


「あ、えっと……とても美味しかったよ!」


 馬車の中が少年の絶叫で埋め尽くされるのだった。


 真道幸輝、リゼ、初の配達クエストはトラブルがありながらも無事成功。

 しかし貧乏生活は健在中であった。


これにて第一章は完結です。

読んでいただき誠にありがとうございました。


現在第二章を書き進めている最中ですので、またある程度書き溜まったらまとめて投稿する予定です。


最後にもし面白い、続きも気になると思っていただけたら評価やブクマをしてくださると嬉しいです。

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