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52.少年は悲劇を許さない(13)

 

 結局、真道幸輝の取る行動は最後の最後まで変わらなかった。


 とにかく相手に近付く。

 それしか自分の攻撃を当てる方法はないから。


 対してジュレオンは巨大な根っこの鞭を振るうだけで地面を抉り、衝撃で風圧を起こす事ができる。

 どちらも本気の、譲れない戦いがあった。


 幸輝が向かってくる事を確認したジュレオンは今までと同じように巨大な鞭を操り叩き付けようとしてきた。

 そして上から来る攻撃なら真道幸輝は避けられる。早めに右方面へ回避し、少しでも距離を縮めようとただひたすら走る。


「ジュレオンッ!!」


「人間風情が分かったような口利いてんじゃねえよ!! とっととくたばりやがれぇッ!!」


 すぐに巨大な鞭が横から迫り来る。

 それをジャンプで躱すと同時に、巨大な鞭へ着地する。


 何もこの根っこの鞭は回転している訳じゃない。

 だからバランスにさえ気を付けていれば、その上を走る事だって可能だ。


「ちょこまかしてんじゃねぇッ!!」


「うぉ……!?」


 しかし巨大な鞭を操る事ができるジュレオンなら、すぐさまそのバランスを崩す事だってできる。

 巨大な鞭が幸輝を浮かすように上へ振り上げた。それだけでちっぽけな少年は空中へと投げ出されてしまう。


「また盾の魔法で足場を作るかぁ!?」


(っ!? 空中で追撃をしてこない……? 足場を作る事を警戒してるのか? ……いや、違う……あの様子……俺が地面に着地する直前を狙ってるのか!?)


 空中にいる幸輝を狙えばガラスの盾で足場を作り回避される事が分かっている。

 だから着地する寸前をヤツは待ち構えているのだ。リゼの盾魔法を一瞬で砕ける巨大な鞭なら着地を狙うだけで回避は不可能、防ぐ事も不可能で幸輝に直撃してしまう。


(ちくしょう、どうする!? また空中で足場を作ってもそれを想定して警戒してるジュレオンは必ず対応してくるっ。かといって素直に着地しようものならその瞬間を狙われて終わる! くそっ、考えろ……考えろッ……!!)


 着地まで十秒もない。

 あの一撃必殺の鞭をどうすれば回避できる?


 絶望を煽るためかジュレオンは巨大な鞭を地面で左右にノロノロと振っていた。

 まるで落ちてくる獲物を今か今かと待ち望んでいる食虫植物のように。


「……?」


 おそらく幸輝が落ちてくる瞬間に鞭を横に全力で振るう事で全身の骨を砕くつもりなのだろう。

 そのために事前に揺らしておく事ですぐにでもスピードを出せるようにしているのだ。重量がある分立ち上がりが遅いから。


 ジュレオンの中ではもう着地を狙う事が確定していると言っているようなものだ。

 であれば。


(……一か八か、伝わってくれよ!)


 もう地面まですぐそこだ。

 その寸前に。


「リゼええええええええええええッ!!」


 叫ぶ。

 右腕を真上に上げて手を何かに掴むような形にしながら。


「……分かった! (シルド)!!」


「盾で防ごうとしても無意味だって学んでねえのか!? 少しでも威力が弱まると思ったら大間違いだぜぇ!!」


 そして巨大な根っこの鞭が砂煙を巻き上げながら横へ薙ぐように振り回される。

 勢い余って何本かの木々を巻き添えに倒していく程の威力だった。


 ──


 辺りが砂煙に塗れて視界が悪くなる。

 あれだけ巨大な鞭を地面に擦り付けるようにしながら振り回したのだから仕方ない。


 本来ならこれであの人間は終わったとジュレオンは思うはずだった。

 しかし。


(音が、聞こえなかった……?)


 そう、聞こえなかったのだ。

 ゴルドジュランの鞭とあの人間が衝突した時の音が。


(まさか足場を作って回避した? いや、それならオレ様が見逃すはずがねえ。ヤツが落ちてくる寸前まで警戒してたんだ。足場を作るつもりだったらヤツの足元ごと削るつもりだった。寸前で出した合図からも盾は間に合ってない。良くてゴルドジュランの威力を軽減するために地面の横に発動するのがやっとのはずだ)


 ならどうしてぶつかった音が聞こえなかったのか。

 砂煙が止む。

 答えは目の前にあった。


「なっ……」


 真道幸輝はいた。

 空中に。


 それも足場を作っている訳ではない。

 ガラスの盾は発動している。しかし横ではなく従来通り縦のまま発動されていたのだ。


 つまり、真道幸輝はその盾の上部分を掴んで空中に留まっていた。


(まさか……指示を出した時に腕を上げていたのは足場じゃなく掴んでぶら下がるためだったのか!?)


 この短い時間で着地と足場作りではなく第三の回避方法を編み出した。

 侮って弱いと決め付けていたあの人間が、だ。


 ジュレオンは焦りというよりもいっそ笑みさえ浮かべながら、


「……結構痛め付けたってのに()()のゴルドジュランをここまで回避できたヤツは貴様が初めてだ。誇っていいぜぇ」


 ガラスの盾が消え、無事に地面へ着地した少年と目が合う。


「そうかよ。だったらもっと誇らせてもらおうか」


「……あぁ? 何言ってんだ? 貴様の回避パターンはもう掴めた。大体跳んで躱すか盾の魔法を利用して回避するかの数パターンだ。その中から想定される回避行動をオレが予測すりゃあ、もう貴様は徐々に詰められて終わりなんだぞ」


 これでも戦闘経験は圧倒的にジュレオンの方が多い。

 勝率も含めて。


 それはあの人間だって理解しているだろう。

 なのに、目の前の少年は次にこう言ったのだ。


「お前の攻撃はもう俺には当たらない。そんでもって次で終わらせる」


「……………………………………………………ハッ」


 思わずだ。

 呆気に取られて乾いた笑いさえ出てきた。


「ヒハハハハハハハハハハッ!! 何を言い出すかと思えばぁ! 次で終わらせるだと? そもそもオレにまだ一撃すら当てられてないヤツが何を言ってんだぁ!? ……笑わせるなよ人間。オレの攻撃が当たらないかどうか、すぐに試してやるよぉ。そして貴様もオレの復讐の礎になりやがれぇッ!!」


 ──


 ジュレオンが両手を振り上げると巨大な鞭が大きくそびえ立つ。


「さあ、どこまで避けられるかなぁ?」


 挑発的な言葉を発するジュレオンに対し、真道幸輝は動じずに言う。


「当たらないって言っただろ」


「ッ……だったら避け続けてみろよぉッ!!」


 地面を穿つ一撃が振り落とされる。

 ズドァァァアアアアアアアアンッッッ!! という轟音が響いた。


 案の定地面は抉れ、砂煙が激しく舞い上がっている。

 しかし直線的な攻撃であれば事前に避けられるのも事実。


 左に攻撃を躱した幸輝はジュレオンに向かって走る。

 ただし巨大な鞭と一メートル程の距離を保ちながら。


「一発目は避けるなんてこっちも想定内なんだよぉ!」


 ジュレオンが巨大な鞭を横に動かそうとした瞬間。

 幸輝は鞭の上に跳んでまたジュレオンに近付いていく。


「さっきと何が違うってんだぁ!!」


 ジュレオンが巨大な鞭を動かして幸輝を空中に浮かそうとしてくる。

 ここまではさっきと同じ。だけど幸輝は鞭が動きそうになった瞬間に右へ飛び降り、またも距離を縮めていく。


「チィッ!」


 苛ついたようにジュレオンが巨大な鞭を幸輝の方へ振り回そうとした時、幸輝は瞬時に方向転換をして逆方面の左へすぐさま移動した。

 あとはもうこれの繰り返しだ。


 巨大な鞭の衝撃や風圧によって時には下がりつつも、真道幸輝は徐々にジュレオンとの距離を詰めていく。

 左右への移動を細かく繰り返しながら宣言通り、一度も攻撃に当たらずのまま。


 そもそもこのゴルドジュランには弱点があった。

 まず巨大で重量がある分、スピードが出るまでの立ち上がりが遅いのだ。だからさっき幸輝が盾に掴まって回避した時も、スピードを出すため確実に一撃で仕留めるために地面で常に左右に揺らすなどの予備動作を繰り返していた。


 あれを見て弱点に気付いたから幸輝は巨大な鞭との距離をあえて詰める事で、攻撃の速度が乗る前に回避なり移動なりして翻弄する事ができている。

 それにジュレオンもこの魔法を使う時、まずはジュランやジュガンを使って相手の動きを鈍らせてから確実に当てるため、最後にゴルドジュランを使うようにしていると言っていた。


 ヤツも弱点が分かってるからそういう使い方をしていたのだろう。


(確かに鞭の近くにいるのは危険だけど、逆を言えばもし当てられてもこの距離なら致命傷にはなりにくいし、動き出しも分かりやすくて回避に移れる。あとはジュレオンが苛立てば苛立つほど、操作性に粗が出て動きの精密さが欠けてくる……!)


 時には屈む事で、また時にはあえてスレスレのところで回避する。

 そうする事で、ジュレオンは激昂するほど苛立ってくれるのだ。


「くそがぁ……!! 近寄って来るんじゃねえよッ!!」


「くッ!」


 巨大な鞭が地面に叩き付けられた風圧で一瞬動きを止められるも、すぐに態勢を立て直してダッシュする。

 今まで余裕を崩さなかったジュレオンが、苛立ちの他にもとうとう焦りを見せてきた。


(何だ……何なんだこいつは……!? 何故ここまでされて絶望せずに立ち向かってこれる!? あれだけ痛め付けてやったんだ、左手だってもうまともに使えないのに……何故立ち上がってこれるんだ……!?)


 何より、ジュレオンが危惧している事はもう一つあったのだ。


(それにあいつの……あの人間は何の魔法を使う!? 武器を持ってないなら使うのは魔法のはず。なのに今の今までに使ってこなかったという事は、何かしらの条件がある? それともここぞという時に一発逆転できるくらいの何かを隠し持ってるっていうのか? じゃないと……そうじゃなきゃ絶望しないはずがないのに!!)


 真道幸輝は武器も魔法も使えない。

 それが逆に相手側からすれば不気味だったりする事もある。手の内をここぞという時まで見せてこない敵というのは、とにかくやりづらい。


 次で終わらせると少年は言った。

 相手を格下だと思っていたからこそ、それがジュレオンにとっての懸念点となり、一瞬の判断を誤らせる隙にもなるのだ。

 それを真道幸輝自身は一切自覚していないが。


 ジュレオンはジュレオンでとにかく幸輝を近付けさせないようにゴルドジュランを操作する。

 ……だが。


(当たら、ない……!?)


 どうしても攻撃が最大威力になりきる前に避けられ、翻弄されてしまう。

 少し考えれば真道幸輝を確実に痛めつけるならゴルドジュランではなくジュラン、それかジュガンの方が確実だと分かるはずだ。


 だけどそれをしなかったのは、相手を格下だと決め付けたジュレオンという魔物のちっぽけなプライドがそうさせている。

 人間は近くまで来ていた。


「く、来るなぁッ!!」


 巨大な鞭を振るうも当たらない。

 無駄に砂煙が舞うだけで空振りに終わる。


「オレ様は……オレはまだここで死ぬ訳にはいかないんだぁ! 仲間の仇を取るために……オレ達の住処を襲った人間共を見付け、死んだ方がマシだと思うまで痛め付けてからぶっ殺してやるんだよ!! 貴様らが襲撃した縄張りの最後の生き残りが復讐しに来たぞって殺す直前に笑って言ってやるんだ!! だからここで終わる訳にはいかねぇ。縄張りを襲った人間全員を見付けて殺してやるまではなぁッ!!」


 真上からではなく、斜め上から巨大な鞭を振り落とす。

 轟音と共に地面が抉れ、砂煙が盛大に舞い上がった。


 だがやはり、標的を潰した感触が得られない。

 という事は。


(近くまで来ている……!?)


 今までで一番、真道幸輝がジュレオンの近くまで迫っていた。


 ──


 ジュレオンの叫びを聞いた。


 あの魔物が人間を狙うのは殺された仲間の仇のためだった。

 多分、理由としては正当で、抱いて当たり前の気持ちなのだと思う。


 勝手な都合で皆殺しにされ。

 生き残ったのは自分だけで。

 元の縄張りは人間のための道になっていて。


 だからあの魔物は人間を憎み、痛ぶり、殺す。

 それだけの強い復讐心を抱き、仇を取るためなら人間とさえ手を組む。そうやって生きてきた。


 多少の同情はする。可哀想だとも思った。

 だけどやっぱり、関係ない人達をも痛ぶって殺すのは絶対に違う。だって無関係の人を狙う必要は別にないのだから。


 この怒りは何に対しての気持ちなのだろうと真道幸輝は疑問に思う。

 ジュレオンの住処を勝手な都合で襲撃した人間側になのか、気持ちは分からなくもないが無関係な人達を襲って痛ぶり殺すジュレオンに対してなのか。


 正直なところ、分からない。

 まだ高校生の真道幸輝には複雑すぎて逆に感情がぐちゃぐちゃになってしまいそうだったから。


 だから少年はまず目先の問題をどうにかするところから始める事にした。

 何をどうするにしたって、まずはこの戦いを生き延びないとどうにもならない。


 どっちみちジュレオンは止まらない。人を痛ぶり殺す事をやめないのだ。

 だったら、まずは目の前の魔物を止める。

 そしてこの先起こるであろう悲劇を止める。


 砂煙で視界が悪い。だが幸輝からすれば好都合だった。

 何せ巨大な鞭の根本を辿れば自動的にジュレオンの元へ着くから。


 おかげで今までで一番近くまで迫った。ジュレオンと地面から出ているゴルドジュランの間にまで。

 つまり、もうお互いを邪魔するものは何もない。


 拳を最大限まで握り締める。


「ジュレオン。俺は言ったよな、復讐は終わりだ、お前の憎しみごとぶん殴って止めてやるって」


「お……ォ……!!」


 その時、真道幸輝の握り締めている拳が金色に輝き出した。

 まるで何かに呼応するように。


「だからここまでだ、ジュレオン」


 三メートルもある巨体に当てるため、幸輝が跳び上がる。

 魔法を解除するのが間に合わなかったのか、ジュレオンはその場から動けずにいた。


「お前の復讐も、憎しみも、無関係な人達を巻き込んでいい理由にはならない。だから……」


 決してこの異世界の人間側でも、魔物側の立場からでもなかった。

 そこには平凡な少年の、確かな決意があったのだ。


「ォォォおおおおおおおおあああああああああああああああああああッッッ!!!!」


()()()()()()()()()()()()()()!!」


 そして。

 真道幸輝の金色に輝いた拳が、ジュレオンの頬を確実に撃ち抜く。


 その瞬間。

 拳から出た金色の輝きが一瞬ジュレオンの体を包み込み、体の中から何か黒い靄のようなものが出てきたが、金色の輝きがそれを飲み込んで消し去ったのを幸輝は見た。


 最終的に三メートルの魔物が崩れ落ちる。


 言葉を話す魔物と平凡な冒険者。

 その勝負が決まった瞬間だった。


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