50.少年は悲劇を許さない(11)
いまだ無傷で魔力にも余裕がある知能を持った魔物、ジュレオン。
全身傷だらけで左手はほぼ使い物にならない冒険者、真道幸輝。
普通に考えたらまずここまで生き残れていた時点で、真道幸輝は平凡な人間としては本当によくやったのかもしれない。
これまで幾人もの冒険者を痛ぶり殺してきたであろう魔物を相手に、まだ五体満足で立っているのだから。
しかし、そんな奇跡もここまでだと言うかのように、ジュレオンは魔法を発動した。
『ゴルドジュラン』。大木のように大きい根っこの鞭。いいや、もはや鞭と呼ぶのも生温いほどにでかい。あんなのをまともに喰らえば全身の骨が砕けてもおかしくないだろう。
「そもそも人間の獲物ってのが久々だからよぉ、こいつ自体を使うのも久しぶりなんだぜぇ。だから誇れ、貴様はオレ様の最高の魔法で死ねるんだからなぁ!!」
(っ、来るッ!!)
作戦を考える暇もなく、巨大な根っこの鞭が襲いかかって来た。
左手の痛みも無視して幸輝は魔法で強化された足を駆使して横に飛び退ける。
「盾!!」
次の瞬間にはズドァァァンッ!! という衝撃音が辺り一帯に炸裂した。
リゼの防御魔法が一瞬で砕かれ、巨大な鞭が地面に衝突した音だ。
「なっ……あ……」
思わず息を呑み込む。
砂煙が止むと、巨大な鞭が当たった箇所には抉られている地面があった。しっかりと鞭の跡を残している。
もしあれに当たっていれば、今頃真道幸輝の体はプレス機に押し潰されたスクラップ車のようになっていただろう。
下手なスプラッタ映画よりも心臓に悪い。
「あ〜あ、悪い悪い。久しぶりなもんだからこいつの操作にブランクがあるんだよなぁ。パワーが凄え分、スピードがジュランより遅めってのが唯一の欠点だが……だからこそ弱って動きが鈍ってるヤツを狙うにはちょうど良かったりするんだぜぇ?」
だからジュランよりかはギリギリ感がなく避けられたのか。
といっても一発でも当たればおそらく終わりだ。一撃一撃を全力で回避しないといけない。
そのためにはやはり。
(距離を詰める!)
幸輝は一直線に走り出す。
あれだけ威力の高い魔法だ。
自分の近くであれを振り回すのはジュレオンにとっても本望ではないはず。
それにヤツはあの魔法を両手で操作している。
つまりジュランの時みたいに二本目が出てくる事はない。警戒すべきは木の弾丸を撃ってくるジュガンだが、それもこのゴルドジュランを操作するのに集中しているならそんなに恐れる必要もないだろう。
「まあ縦に振れば横に逃げるよなぁ。……だったら」
ジュレオンが両手を薙ぐように横へ振る。
「横からの攻撃はどうする?」
それだけで、大木クラスの鞭がロードローラーのように右から押し寄せて来た。
「マ、ジかよっ……!?」
ジュレオンからを起点におよそ十五メートルはあろう鞭が迫ってくる。
こんなの前後左右どちらに避けても逃げ場なんてない。あれに当たるのはまず論外。
かくなる上は。
(上……!!)
「っ……ダメ、幸輝!!」
上にジャンプしてからリゼの声に気付く。
何がダメなのかなんて、跳んですぐに理解させられた。
ジュレオンが嗤っている。
「そうだよな、上に逃げるしかねえよなぁ!! けど次はどうするんだぁ!?」
(……しまっ、逃げ場が……!?)
回避する事に捉われすぎて上に跳びすぎてしまう。空中ではまともに動けない。回避なんて以ての外だ。
これではバロッグの時と同じ。このままでは斬られるのではなくハエ叩きのように潰されて原形すら無くなってしまう。
巨大な根っこの鞭が幸輝の前にそびえ立つ。
まるで塔が倒壊する直前のようにすら思えた。
「ぅ……お……」
「貴様にこれが耐えられるかなぁッ!?」
どうしようもない光景に圧倒されつつも、必死で策を考える。
着地までは当然間に合わない。足場がなく踏ん張りが利かない以上、空中で手足を暴れさせたところで無意味なのは重々承知。
と。
(あし、ば……?)
着地するための地面がないなら、用意すればいい。
咄嗟にだった。
幸輝は後方にいる少女へ叫ぶ。
「リゼぇーッ!! 俺の足下に盾だぁぁぁああああああああああああああッ!!」
「っ、はい! 盾ぉ!!」
いつでも魔法を発動できるように待機していたリゼが、両手を少年の足下へかざして魔法を唱える。
すると幸輝の足下にガラスの盾が現れた。しかしいつもみたいに縦方向ではなく、横へと。
このガラスの盾はいつも浮いている形で発動されていた。
つまりリゼの魔力か何かである程度の浮力も働いていて踏ん張りが利くと考えたが、どうやら合っていたらしい。
「……しっ!」
巨大な鞭が振り落とされる前に幸輝はガラスの盾へ着地し、鞭が当たらない地面に回避する。
間一髪だった。またもガラスの盾は一瞬で破壊され、巨大な鞭が地面に大きな跡を残していた。




