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49.少年は悲劇を許さない(10)

 

「ヒィッハッハッハッハッハッハッハッハーッ!! 威勢が良いのは口だけかぁッ!?」


「ハァ……ハァ……ぐっ」


 既に真道幸輝は満身創痍もいいとこだった。

 さっきからジュレオンが使う『ジュラン』、根っこの鞭を自在に操る魔法で何度も体を打たれていたからだ。


 あの鞭が出てくる寸前には地面が不気味に盛り上がる事は知っているのである程度の予測はできるのだが、初撃を回避できてもその次が難しい。

 ましてや鞭が二本だと余計に回避はできなくなってくる。


 やはりさっきまでは手加減されていたのだとつくづく思い知らされる。

 根っこの鞭の動きも以前より細かく精密に動いてくるのだ。直線的な動きをしない以上、もう予測はほとんど当てにならない。


 そして何より。


(こい、つ……さっきから『ジュラン』ばっかで、木の弾丸を撃つ『ジュガン』を使ってこねえ……!)


 せっかくリゼと話した作戦がこれではいつまで経っても開始できない。

 作戦の要を敵であるジュレオンの魔法に懸けているのもどうかと思うが、これ以外に上手い方法が思い付かなかったから仕方ない。


 ジュガンを使ってくるまでは何としても耐えないといけないのだ。

 幸い大女神の加護が施されている制服のおかげで幾分かのダメージは軽減されている。


 さっきジュガンを腹部に喰らった時に思ったが、どうやら加護は学ランだけでなく下に着ている制服用のワイシャツとTシャツにも施されているらしい。

 あれだけの弾丸を受けたのに服は多少傷が付いただけでどこも破れていなかったからだ。


 あとはジュレオンがジュガンを使ってくれば作戦を決行できるのだが。


(ちくしょう、あいつの居場所はもうほとんど分かってるのに……!)


 そう、真道幸輝はジュレオンがどこにいるのかを既に把握している。

 しかしそれはおおよその範囲で、動かれるとまた見つけるのに少し時間がかかってしまうから、場所を特定させるためにもジュガンを使わせる必要があるのだ。


(あいつはさっきどうしてジュガンを使ってきた? 移動音を誤魔化すためのジュランは地面から出てくる音が大きいから分かるけど、ジュガンは音が大きい訳じゃないし何よりあいつの指先から出るからある程度の場所がバレるリスクだってある)


 つまり、それだけのリスクを冒してまでジュガンを使う必要があった……?


(もう少し、答えはそこまで出かかってる……そこさえ分かれば、ヤツにジュガンを使わせる事ができる……)


「作戦とやらはまだ始まってねえのかぁ? それとももう始まってるけどどうにもできないってところかぁ?」


 声がした。

 そういえばさっきもヤツの声がした方へ攻撃しに行ったか。

 確かその時は移動音を誤魔化すためにジュランを使ってきて、幸輝がそれを避けた後にジュガンを使ってきた。


 まるで自分から意識を逸らせるために。


(……そうか、これなら……!)


 そうと分かれば即座に実行。

 真道幸輝はさっきと同じように声がした方へ向かう。


「また当てずっぽうかぁ?」


 音源はまだ前方だった。

 だが当然のように少年の拳は当たらない。


 しかし、幸輝はしっかりと視線で追っていた。不自然な景色を。

 ジュレオンの本体を。


 と、ここで移動音を誤魔化すための魔法が使われる。

 ジュレオンはもはや声にすら出さずジュランを発動してきた。


(っ、ここまでは予想通りっ……!)


 地面が膨れ上がるのを()()()()()()()()()()()()根っこの鞭を回避する。

 視線をジュレオンから外した。これでヤツの居場所は分からない。


 だけど。

 確実にジュレオンは背後から狙ってくる。

 作戦開始だ。


「リゼぇぇぇえええええええええええええええええッ!!」


「!?」


(シルド)!!」


 思っていた通り、背後からジュガンが飛んできた。

 だがそれが届くよりも早く、リゼの魔法が発動する。ずっと魔力を集中させていたおかげか、さっきよりも大きなガラスの盾を。


 ジュガンがガラスの盾に激突する。


「盾を少し大きくしただけでオレ様の魔法を防げると思ってんのかぁ!?」


「う、ぐぅ……!」


 そこは中級以上の魔物。

 やはりリゼの覚えたての盾魔法では防ぎきるのは難しいようだ。


 だが今回に限ってはそれでいい。

 木の弾丸の群れがガラスの盾をだんだんと削っていく。それはガラスの粉末だったり荒く小さな欠片、大きく砕けた破片などになって地面に落ちる。


 真道幸輝が狙っていたのはこれだ。

 大きな盾が死角となってくれている間にすぐ側に落ちていた手のひらサイズの盾の破片を拾う。


 ジュガンを放っている間ジュレオンは動かないからか、木の弾丸の発生源の根本を見ればジュレオンの居場所は特定できる。

 あとはもう見失わないようにするだけで、ヤツの特性を無力化できるはずだ。


 ここからはリゼにも話していない作戦の最終段階。

 幸輝はまず死角となっている盾のすぐ後ろまで行き、ギリギリの所までジュレオンに距離を近付ける。


「……よし」


 そして次に、真道幸輝は手に持っていた盾の破片を自分の左の手のひらに突き刺した。


「(ぅ……ぁぁ……ッッッ!?)」


 必死で声を押し殺す。

 これまでに経験した事のない痛みが左手を中心に全身へ伝ってくる。


 あまりの激痛に視界が電撃を喰らったかのように明滅するも、何とか意識を強く保つ。

 浅く刺しても意味がないから強めに刺したつもりだったが、手の甲まで貫通はしてないらしい。


「ぐっ……!?」


 意を決して破片を抜く。

 そしてすぐに駆け出す。痛みに気を取られていたらいつまで経っても行動できないままだ。


 リゼの魔法でこんな事をしたら確実に怒られて拒否される、そう思ったから肝心な所は話さないでおいた。

 怒られるのは後でいい。そういうのはちゃんとみんなで帰ってからだ。


 ガラスの盾の死角から真道幸輝が飛び出る。

 目的は当然木の弾丸の発生源だ。すぐそこにジュレオンはいる。


 魔物としてのプライドか弱い冒険者の希望を砕くためか、とにかく盾を壊すのに意識を持っていかれていたジュレオンは幸輝がそこまで来た事に対して反応が遅れていた。

 今更魔法を解除しても遅い。


「っ……あァ!!」


「なんっ!?」


 幸輝は痛みを無視して握り締めていた左手を思いきりジュレオンの方に向けて振る。

 すると手の中で溜まっていたそれなりの量の血が飛散した。


 それは何もないはずの空間、つまり擬態していたジュレオンの本体全身へ飛沫のようにかかる。

 側から見れば真道幸輝の血が空中で止まっているようにしか見えないだろう。


 しかしこれこそが幸輝の狙いだった。

 他の背景と比べたら確実に違和感が勝つ絶対的な光景。


「へっ、これで周りの景色に擬態してても、お前に付いた俺の血がお前の居場所を教えてくれるな……」


「……そういう事か。やはりオレ様の居場所に目星がついてたようだなぁ」


 ジュレオンが姿を現した。

 その巨体にもちゃんと幸輝の血が付着している。


「どこから分かってた?」


「さっき俺がお前の攻撃を躱すために前に転がり込んだ時だよ。お前、慌てて俺を避けたから自分の足音を消すの忘れてたよな」


「……」


「それとお前の擬態は景色に溶け込んじゃいたけど、風に揺れる草木までは表現できなかったようだな。よーく見れば大体の位置までは掴めたよ」


「なるほどなぁ。これまでの冒険者はオレ様の魔法を迎え撃つ方法があったからそれで誤魔化せてたが、避けるしかない貴様だからこそ周囲に気を配れてた訳か」


「あとお前、景色に化ける時は体の色的に草や木の擬態しかできないだろ。今の攻防の時、俺の対角線上にいるはずのリゼが擬態してるお前で見えなかったからな。ちゃんと観察さえできれば、お前の擬態は案外穴だらけだったんだ」


 暴いた。

 血を浴びせてやった。これでジュレオンの特性はもうほとんど意味をなさない。


「ほーう……そこまでオレ様の擬態を見破った事は褒めてやろう。血も浴びせられりゃあ擬態したところでバレるから、もう意味はねえなぁ」


 三メートルの巨体と再び対峙する。


「だがよぉ」


 その魔物の表情にはまだ余裕があった。


「オレ様が擬態しなくなっただけで、貴様なんかが勝てるとは思ってないよなぁ」


 むしろヤツの笑みは濃くなっている。

 実際、ジュレオンの擬態を見破ってもヤツのパワーが落ちる訳じゃない。姿が常に見えるようになっただけで、状況で言えばいまだに不利なのは何も変わらないのだ。


「しかもオレ様の擬態を封じるためにそこまでやっちゃあなぁ。もうほとんど使えねえだろ、その左手」


「……」


 左の手のひらからは今も血が出ているし激痛が走っている。

 強化魔法がなかったらすぐにでものたうち回りそうな程には痛い。焼けた鉄を押し込まれているような熱さと痛みが常に襲ってきている。傷が風に当たっているだけで軽く悲鳴ものだ。


 ジュレオンの言う通り、左手はあまり使い物にならないだろう。


「幸輝っ、その手の傷はどうしたの!?」


 心配ないという意味を込めてリゼの声を手で制止する。

 それでも。


「……それがどうしたよ」


「……あぁ?」


 真道幸輝は不敵な笑みを浮かべたのだ。

 遥か格上の魔物に対して。


「これでようやく対等になったんだ。思いっきりお前をぶん殴れると思えば……こんな傷どうって事ねえさ」


 あからさまな強がり。

 あるいは虚勢。


 しかしそれが、ジュレオンの癇に障った。


「……ヒヒッ、いいぜぇ。ここまでやられてまだオレ様を相手に強気でいられるんだ。そこまで言えるならもう手を抜いてやる必要はねえよなぁ」


 格下からの言葉が気に食わなかったのだろう。

 地面から一本の根っこの鞭が出てくる。


 ただし以前のジュランとはまるで違う。

 そもそものサイズが異なっており、ジュランの太さは人間の太ももくらいのサイズだったのに、今目の前で蠢いているのは大木クラスのモノだった。


「『ゴルドジュラン』、オレ様とっておきの魔法だよ」


 この震えは手の痛みか、それとも恐怖か。

 どちらでも構わない。真道幸輝はただ目の前の敵を睨みつける。


 ジュレオンが言った。


「喜べ、最終フェーズだ。貴様を殺してやる」


 勝負を決める時がきた。


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