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48.少年は悲劇を許さない(9)

 

(まずはあいつの居場所を特定しないと何も始まらない)


 いくらジュレオンの特性を見抜いたとしても、肝心なのはどうやってこの拳を届かせるかだ。

 そもそも体表面が所々木のようになっているあいつに幸輝の攻撃が効くのか。当たり所が悪ければもし当たっても一ミリのダメージも入らない可能性だってある。


(やっぱり確実にダメージを入れるなら皮膚が比較的柔らかい顔面を狙うしかねえかっ)


 ただ三メートルの巨体に上手く当てる事ができるのかが少し不安ではある。

 バロッグの時でさえ苦労したのに、今はそれよりでかいヤツが相手なのだ。しかも景色に擬態してて場所の特定もしづらいときた。


(考えろ……完全に透明になってる訳じゃないなら、あいつの居場所が分かる方法だって必ずあるはずだ……!)


「どうしたぁ!? 動かねえなら的にしちまうぞぉ!!」


「くっ!!」


 とにかく声がした方へ咄嗟に走りだす。

 大まかでもヤツのいる方へ向かえばバレないようにジュレオンも移動せざるを得ない。


(……!)


 走りながら声のした方を注視していると、真道幸輝は何かしらの違和感を覚えた。

 しかしそれについて考えている時間はない。


 幸輝が音源に向かうとジュレオンも移動する。

 そして三メートルもの巨体の移動音を隠すためにヤツが必ず取る行動は。


「ジュラン!」


(根っこの鞭が出てくるのは……そこか!)


 声と同時に近くの地面が二つ程膨らみかける。

 ボゴォッ!! という音と共に飛び出してきた根っこの鞭を幸輝は体を捻るように右へ跳び寸前で回避する。


 その背後。

 いきなりだった。


(なっ!? 魔法名を言わずにジュガンを……!?)


 木の弾丸の群れが真道幸輝の背中へ既に迫っていたのだ。


「くっ、(シルド)ぉ!!」


 だがここでいつでもすぐに魔法を発動できるようにスタンバイしていたリゼが防御魔法を唱える。

 幸輝の後ろにガラスの盾が現れ無数の木の弾丸を防ぐ。

 が。


「いつまでもそんなもんで防げると思ってんのかぁッ!?」


「がぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!?」


 ジュレオンの木の弾丸の威力が上がったのか無数の弾丸はガラスの盾にヒビを入れ、瞬時にリゼの(シルド)を突き破った。

 直撃。

 そのまま幸輝は数十メートル程一気に飛ばされてしまう。


「そん、な……」


「ヒーッヒッヒッヒッ! バカがぁ! じわじわ弱らせるために今まで手加減してやってたに決まってんだろぉ!! 魔法名をわざわざ唱えてやってたのも獲物が分かりやすく反応するからだよぉ!」


 姿を現したジュレオンが嘲笑うかのようにこちらへゆっくり歩いてくる。

 擬態していないからか足音も気にせずに。


「幸輝っ! 大丈夫!?」


「ぐ……がはっ……!?」


 いよいよ口から血まで出てきた。

 リゼが駆け寄ってきたという事は、おそらく彼女の近くまで飛ばされたのだろう。さっきよりもダメージが大きいのか、体に力が入りづらい。


 ここでジュレオンが手加減をやめたという事は、ヤツの悪趣味が次のフェーズへ入ったのだろう。

 じわじわ痛ぶる段階から、本格的に絶望させる方向へと。


「待ってて幸輝、今すぐ回復魔法かけてあげるから!」


「……ぃ、いや……いい……。まだ、自力で動ける……!」


「で、でも酷い怪我だよ! すぐに治さなきゃっ」


「そんな時間、あいつはくれねえさ……。それよりも……作戦がある」


「え?」


 ヤツに聞こえないよう可能な限り声を抑え目にしながら、


「お前の防御魔法、(シルド)だっけか……。あれって砕かれても、お前が魔法を解除しない限りは砕かれたままでも残せたりするのか?」


「何でそんな事……」


「いいから」


「……う、うん。多分壊されても私が発動したままなら地面に残ってるはずだよ」


「そうか……なら次にあいつがジュガンを使ってきたら、できるだけ魔力を込めて大きめの(シルド)を発動してくれ。ぅぐっ……耐えれるなら耐えててくれてもいいけど、い、今のジュレオンなら簡単に盾を壊してくる可能性が高いがそれで構わない。もし壊されても(シルド)をそのまま地面に残しておいてほしいんだ」


「それは分かったけど、ジュランの時は使わなくていいの?」


「ああ。ジュガンで可能な限り砕いてもらわなくちゃいけないからな。リゼもできるだけ(シルド)を保てるよう頑張ってくれ。注意して見ておくのは俺の前か後ろだけでいい。あとは俺が何とかしてみる……」


 ジュレオンはもう近くまで来ている。

 こちらを完全に舐めているのか姿も消さないままでだ。おかげで作戦を話せたのはありがたいが。


「何やらコソコソ話してたらしいが、作戦会議はもう済んだかぁ?」


「分かっててわざわざ待ってたのか?」


「あぁ。貴様らの企みを全部ぶっ壊して絶望させるだけだからな」


 どこまでいっても相手を痛ぶるのがヤツの趣味のようだ。

 リゼを後ろへ下がらせ自力で立つ。吐血したせいで口の中が鉄の味で広がっているが、いちいち気にしていられない。


 実のところ作戦は伝えたが、肝心な部分についてはリゼに話していない。

 どうやってジュレオンの居場所を突き止めるのか。それを話すと多分反対されるだろうから黙っておいたのだ。


「これから貴様にはもっと苦痛な顔に歪んでもらうぜぇ?」


 ジュレオンが消えていく。

 ここではあえてすぐに飛び掛からない。こちらの狙いに勘付かれないようにするためだ。


 体にも大分力が入るようになってきた。

 さあ、ここからが踏ん張り所だ。


 ──


 その頃。

 本来ジュレオンと戦うはずだったセレナ・グレイスは真道幸輝がいる方面とは逆の方を走っていた。


 幸輝達がザオロと思われる人物を引き付けて離れていくのを確認したセレナは、少ししてから魔法を解除し辺りを見て回っていた。

 魔法の領域外、木の裏にあった小屋を見つけると、そこから遅れて出てきたのがザオロだったのだ。


 しかしザオロはセレナと目が合った瞬間に煙玉を地面に投げ視界を潰して一目散に逃げていった。

 そして現在、セレナはザオロを追っている真っ最中である。


(私と戦わずに逃げてるって事はあいつは人間で確定なんだろうけど……だとすれば失敗したっ。幸輝達を追いかけていったのは魔物の方。まさか人間に化けてたなんて……このままじゃ二人が危ないのに、わざわざ逆方向に逃げるとかあの卑怯者ッ!)


 幸いセレナは自分の風を広範囲に自由に操ることが可能で、数十メートル程の距離ならば風の感触を感じ取って人物や空間の判別がおおよそできる。

 なので煙玉で一瞬撒かれてもザオロの位置をすぐに特定して追いかけているのだが。


(木がたくさん並んでるせいで飛びながら追いかけるのは難しいし、かといって上から飛んで見てもそれこそ木でよく見えない。ああもうっ、こうなるならもっと飛行精度を上げる練習しとけば良かった! 即座に逃げの選択を取るなんて、戦闘向きじゃないリーダーって情報は確かなようね!)


 しかもザオロはこの草木の群れを一度も止まらずスムーズに走っている。

 おそらく万が一のために周囲の散策と逃亡ルートをあらかじめ用意していたのだろう。実に用意周到な事だ。これならまだ無謀に立ち向かって来る盗賊の方がよっぽどやりやすい。


 無駄に時間を取られていって余裕がなくなってくるのはセレナの方だ。

 あれだけ言葉を話せる魔物は危険だからと言い聞かせていたのに、結果的に魔物の方を相手させる事になってしまった。


 本当なら今すぐにでも二人の元へ助けに行きたいが、元凶であるザオロを放っておく訳にもいかない。

 ヤツは平和なナラタ村へ襲撃を仕掛け、あまつさえ魔物と手を組む程の危険人物だ。本人は戦闘向きじゃないにしても、リーダーが頭脳戦に長けているのは非常に厄介極まりない。


 ここで逃したらまたどこかで悪巧みを計画するに決まっている。

 だから苦渋の決断でセレナはザオロを追う事にしたのだ。将来的な被害を防ぐためにも。


(お願い、二人共無事でいてっ。逃げ回っててもいいから、とにかく私が行くまで死ぬんじゃないわよ!)


 そしてもうそろそろ堪忍袋の緒が切れそうになってきた。

 相手の場所は分かってるのに草木の中をちょこかま逃げ回っているのと、いつまでも続いている木々の群れがセレナの魔法を阻んでいる事に。


(自然を傷つけ過ぎないように魔法を使うのを躊躇ってたけど……最優先はあの二人の命……。この森には悪いけど、今は気にしちゃいられない!)


 草木は時間さえ経てばいつか生えてくる。

 しかし人間の命は一度死ねばそれまでだ。いつかなんてものは絶対にない。


 であれば。

 もう容赦はしない。


 走ってる間に意識を集中する。

 元々セレナが遠慮さえしなければ、風の魔法は広範囲を一瞬で制圧できる程の力を持つ。


 だが威力は最低限。あくまでザオロを倒すのが目的だから自然への被害はできるだけ抑えておきたい。

 その上で。


 セレナ・グレイスは両手を前にして放った。

 標的がいる方へ。


 怒りと共に。


「いつまでも……ちょろちょろ逃げてんじゃないわよぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」


 その直後。

 轟音を伴う突風が奔流のように駆け抜け、少女の前方にあった木々の群れは小枝のように次々と折れ幹ごと薙ぎ倒されていく。

 威力を加減してこれだ。


 当然、ザオロもまとめて吹き飛ばされていった。


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