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44.少年は悲劇を許さない(5)

「な、なんだいきなり!? 風!? う、うぉあわあああああああああああああああああッ!?」


「飛ばされねえよう何かに掴ま……おい嘘だろっ、小屋の屋根ごと飛ばされ……がッ!?」


 突然の暴風に襲われた盗賊達が次々と宙に浮いて飛ばされていた。

 何かにしがみ付こうとしていた者に至っては、背後から既に飛ばされていた盗賊の頭と後頭部がぶつかりそのまま気を失って暴風の中へ呑み込まれていく。


 しかも暴風が起きているのはピンポイントで盗賊の拠点だけに絞られている。

 不思議と幸輝達のいる所には木片や小石すら飛んでこない。あくまで暴風の延長線上である強風くらいか。それでも普通に恐ろしいが。


「派手にも程があるだろ!?」


「いいからとっとと見つけてきなさい! 目視できる範囲の小屋は飛ばしたけどリーダー格は見当たらない。多分見えないとこにもあるんだろうけどさすがに目視の範囲外だと調整が難しいの!!」


「あの即死レベルの風の中に行けってのか!?」


「アンタ達が行く道には一切の影響がないように操作してあげるから大丈夫よっ。だからザオロをおびき寄せてきて! そうすれば必然的に魔物の方も出てくるはず!」


 風の精密な操作に長けてるセレナが言うなら信じるしかない。


「分かった! 行くぞリゼ! できるだけセレナの目視できる範囲から探すんだ!」


「うん!」


 一斉に飛び出して拠点の中へ入り込む。

 外で待機中だった盗賊達は全員暴風に呑まれ、人やら物やらランダムに全身強打の連続に巻き込まれているからか誰一人として意識は保っていなかった。


 しかしこちらに一欠片の木片すら飛んでこない。やはりセレナの操作性のおかげか。

 走ってまだ飛ばされていない小屋を探す。


「あった!」


「他に小屋は見当たらないよ!」


 それはすぐに見つかった。

 セレナの真反対にある幹が太い木の裏側に、他の簡易的な小屋とは別にそれなりにしっかりと作られた小屋があった。暴風で飛ばされてはいないものの、その小屋もガタガタと小刻みに揺れ始めている。これも目視外による操作性の問題か。セレナが視認できていない部分については調整が難しいため、範囲外だと威力はほとんどないようだ。


 つまりあの小屋は被害がほぼゼロ。しかし外で何かが起きていると察知できるくらいには小屋が揺れているのは、ある意味好都合だったかもしれない。

 セレナが暴風を起こしてまだ一分も経過していない。なら異変を察知して出てくるのはそろそろのはず。


 その予想は間違っていなかった。

 小屋のドアが開かれ誰かが出てきたのだ。


「なんだぁこの騒ぎはぁ! いったい何が起き……」


「……」


 目が合った。

 黒いバンダナからはみ出る髪は緑色で妙に頬がやつれており、冒険者から変にマークされないよう正体を隠すための外套を羽織った男。ヤツは人の姿をしていた。セレナの言っていた通り見た目も服装も他の盗賊と比べて全然違う。


 そして魔物の方は基本的に盗賊の部下にも姿を見せないほど警戒心が強いと聞いていた。

 だから異変が起きたとしてもこんな外にすぐ出てくるようなヤツは魔物ではない。


 となると結論は出た。

 ヤツが盗賊のリーダー、ザオロだ。


「ここを離れるぞ!」


「りょーかい!」


「アレを起こしているのは貴様らかぁ!!」


 リゼと共にその場を離れると、ザオロもこちらを追ってきた。

 基本的に何かしらの事件が起きた時、現場に見慣れない姿をした者がいるとまず第一に疑われるのは必然。盗賊の拠点に見知らぬ者がいて、明らかに味方の盗賊達が巻き込まれていたとなると当然犯人は幸輝達だと思われる。


 そこの心理が上手く働いてくれたのか、ザオロは周囲を一瞥もせずに幸輝達を追ってきている。

 おかげでセレナの姿は見られていない。


 セレナの方を見ると彼女と目が合う。

 こっちは上手くザオロを引きつけたから魔物の方を頼むという意味を含めて首を縦に振ると、彼女も理解したのか頷いてくれた。


 そして拠点から結構離れ、少し木々が開けた所まで走って止まる。

 この辺りならセレナの邪魔にもならないし幸輝もある程度走り回りながら戦える。


 ここまでは作戦通り。本当ならザオロをセレナのとこに連れて行けばそのまま暴風に巻き込めたはずだが、そうしなかったのはわざわざ付いてきた幸輝達にも活躍の場を与えるためだったのかもしれない。

 元々半ば無理矢理付いてきたのは幸輝だ。手柄の一つでも取っておかないと口だけの男になってしまう。


「貴様らのせいで村を襲う作戦は台無しだぁ」


 幸輝達との距離を保ちつつザオロが口を開く。

 いやにねちっこい喋り方だった。


「悪いけどお前らの作戦はここで終わりだよ。……一応聞くぞ。大人しく牢屋の中に入るつもりならこっちも穏便に済ませられて助かるんだけど、どうする」


「やだねぇ……」


「まあ、そうだろうと思ったさ。アンタ、聞いた話だと戦うよりかは頭使う方が得意なんだろ。なら俺でも十分何とかなりそうだから早めに終わらせてもらうぞ」


「ああ、ホントにホントに面倒だぁ」


「リゼ、あいつから目を離すなよ。この後は今朝言った通りの作戦でいく」


「うん」


 二人でザオロを見据える。

 ヤツは次にこう言った。とても面倒そうにむしゃくしゃしながら、だ。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「……………………………………………………な、に?」


 言葉を疑った。

 今こいつは何と言った?


 脳の処理が追い付かない。おかしい。今幸輝達の目の前にいるのがザオロのはずだ。

 だってあいつは人の姿をしているんだから。あいつがザオロじゃないとおかしい。


 なのに、なのに何故ヤツはまるで自分がザオロとは別の者みたいな言い方をした?

 疑問が尽きないまま答えはすぐにきた。


「まあ、ここで貴様らを殺してまた考えればいいかぁ!!」


 突如だ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()姿()()()()()()()()()


 頭巾が取れ、外套が中から破け、全身が肥大化していく。

 肌の色もだんだんと変色していき、緑と茶色を主体とした色合いになっていった。


 そして。

 真道幸輝の前にいた人間だったものが、三メートル程の魔物となって現れたのだ。


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