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42.少年は悲劇を許さない(3)

 

 何かはあると思っていた。

 あるとは思っていたが、まさかここで人間以外の勢力が出てくるとは思っていなかった。


「話せる、魔物……?」


「そう。魔物にも様々な種類がいるけど、中でも知能を持った魔物は厄介ね。人間と話せるレベルとなると余計に」


 そういえば初めて異世界に来てからギルドに向かう途中でもリゼがそんな話をしていたか。

 魔物の中には人型などもいるし知能レベルが高かったり、強い魔物だと言葉を話せるのも多い、と。


 つまり、()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「……」


 思わず黙ってしまうが無理もない。

 真道幸輝はこれまでまともに討伐クエストもクリアできておらず、ラーノ付近には弱い魔物しかいないのにそれすら倒せず逃げてばかりだったのだ。


 武器も魔法も使えない。強化魔法をかけてもらってようやく死に物狂いで大柄の盗賊一人を倒せる程度。

 しかもそれだって大女神レヴィリエから学ランの制服に加護が施されていなかったら、確実に胴体真っ二つで死んでいた程だ。



 次なる敵の脅威度があまりにもランクアップしすぎている。

 これじゃいきなりスライムの次に魔王幹部と戦えと言われているようなものだ。そのスライムすら倒せないのに。


 幸輝の様子を見たセレナがやれやれといった感じで口を開く。


「だから後は上級冒険者の私に任せなさい。言葉を話せる魔物と戦った事なら何度もある。知能を持ってるっていっても盗賊と手を組むような魔物ならたかが知れてるしね。けど、これはアンタが手に負える相手じゃない……って事くらいは理解できてるか」


「……」


「あいつらの居場所は拘束してるヤツに聞いたから、明日の朝には村を出てちゃちゃっと片付けてくるわ。だから」


「俺も行く」


 月明かりに照らされながら、平凡な少年は真っ直ぐ上級冒険者の目を見て言い放った。

 いっそ呆気に取られて数秒間黙ってしまったのはセレナの方だった。


 初級冒険者の言っている事がまるで理解できないといった顔だ。

 レベルの差は明らか。戦わずとも勝負にならないのは目に見えている。それなのに無謀な戦いに挑むのはどういう事なのか。そんな表情だ。


「俺も行くって、アンタねぇ……分かってるでしょ。言葉を話す魔物ってのは私からすればまだ大した事ないけど、アンタからすれば中級冒険者に真正面から喧嘩を売るレベルなのよ。そんなのに勝てる訳ないじゃない」


「相手は最低でも二人なんだろ。話せるくらい強い魔物に司令塔の盗賊のリーダーが相手ならいくらセレナでも万が一って事もあり得る。だけど俺も行けば多少の囮くらいにはなれるはず。上手くいけば盗賊の方を引き付けてヤツらを分断する事だってできるんだ。そっちの方がお前のリスクも少しは下がるだろ」


「私があんなヤツらに手こずらされると思う? 確かに冒険者の中では若い方だけど、これでもラーノで一番の実力者よ。単独クエストでの様々な対処法くらいは知ってるわ。それに私はこの前アンタに言ったわよね。勇気と無謀は履き違えるなって。いくらアンタが囮になったって、魔物の方の力次第じゃ一瞬で殺される事だって」


「そん時はお前が攻撃を防いでくれればいい。近くにいれば風魔法の盾か何かで守ってくれるんだろ? 隙ができたら盗賊だけでも遠ざけてセレナが戦いやすいようにするさ」


「……そこは私頼りなのね」


「ああ。俺だって死にたい訳じゃねえからな」


 これじゃ勇気というよりほとんど無謀だ、と顔に書いてありそうな顔をするセレナだが、出たのは軽いため息一つだけ。

 多分これ以上は何を言っても無駄と判断したのだろう。


 だってセレナの目に映っている真道幸輝という少年の瞳には、何があっても引き下がらない意志を感じたから。

 すると今度は幸輝の背後の方から別の声がした。


「だから言ったでしょ、セレナ。幸輝の事だから話したら絶対付いてくるって」


「リゼ? お前村長さん家で飯食ってたんじゃ?」


「うん、だから焼けてた分だけ今持ってるよ」


 一応女神の分類に入ってるはずの少女がお皿の上にステーキを乗せたまま会話に乱入してきてムードを破壊してきた。いったい何枚食べるつもりなのだこの小娘。

 対してリゼの行動に何も思っていないのか、セレナはむしろリゼの言葉に反応するように両手を上げた。


「リゼからアンタがどういう人なのかって話を聞いてたから私だけで片付けようと黙ってたのに、まさかあれだけで勘付いて近づいてくるとは……変なとこで鋭いのね」


「本当ならただの杞憂であってほしかったんだけどな。聞いたからにはもう放っておけねえよ」


「もちろん幸輝が行くなら私も行くよ」


「え? でもいつものクエストより危険なんだぞ? リゼはここで待ってた方がいいんじゃないか?」


「なあん!? 私が何のために幸輝のサポート役になってるのかまだ分かってないようだね! あの盗賊達に勝てたのも私の支援魔法があったからでしょ!? それがなかったら今頃幸輝はやられてるんだからね! 私が一緒に行かないと幸輝は一般人と何ら変わらないって事を自覚しなきゃダメだよ!!」


 もの凄い勢いでステーキ皿を持った女神が詰めてきた。

 確かに支援魔法がないと魔物相手には一瞬で殺されそうな気もする。セレナの足手纏いになるのは幸輝だって御免だ。


 戦う場所によってはナラタ村のように櫓がないので、隠れられる場所がない分リゼにも危険が及ぶ可能性が高まるが、ここは是非も言っていられないか。

 とりあえず間近でお肉の匂いを漂わせるのはやめていただきたい。


「じゃあ一応最後の確認として聞くけど、本当に二人とも一緒に来るのね? 相手は盗賊のリーダーと言葉を話す魔物、最低でも中級相当の相手よ。アンタ達が戦うにはまだ早すぎる相手だけど、それでもいいの?」


 覚悟を試す意味でもあるのだろう。

 セレナの表情は真剣そのものだ。もちろん危険なんて重々承知。勝てるかどうかなんて分からないし、勝機だってほとんどないと言っても過言ではない。


 だけど、真道幸輝とリゼはお互いの顔を見合わす。

 そして。


「「当然」」


 迷いなく言い切った。


「……アンタ達って一応冒険者始めてまだ一週間そこらよね? まともに戦える武器も魔法もないってのに、何でそこまで覚悟できてる訳?」


「覚悟なんて、そんな大それた事じゃねえさ。自分でも無謀だって自覚はある」


「なら何で……」


「ふざけんなって思っただけだ」


「……何それ?」


 セレナの問いに対する答え、にしては曖昧すぎる返答。いいやこれではまともな返答にすらなってないようにさえ思う。

 なのに真道幸輝は、大真面目に続ける。


「こっちは命懸けでバロッグ達を倒して終わりだと思ってたのに、実は黒幕はまだいてナラタ村の襲撃計画は終わってないとか聞いたんだぞ。そりゃあふざけんなってなるだろ」


 拳を握る。

 やるべき事はまだあるから。


「確かにセレナが本気を出せば一人でもそいつらをどうにかできるかもしれない。けど悪い。それだと俺の腹の虫が治らねえんだ。ここで明日俺達が帰る選択をしたら、きっとこの村の事がずっと気になって後悔してるかもしれない。だって放っておけばそいつらはせっかく守れた村をまた襲いに来るんだろ? それをセレナ一人だけに任せておけるかよ。俺も盗賊と戦った以上この事件とはもう無関係じゃないんだ。あんなヤツらの好きにさせてたまるか。やるなら事の顛末を全部俺達で見届けて、みんなでナラタ村を守れて良かったって笑いながらラーノに帰る。セレナの言う覚悟とはまた違うかもしれねえけど、俺が残る理由なんてそんなもんだよ」


 嘘はない、とセレナがそう思ってくれたのは幸輝の瞳を真っ直ぐ見ていたからか。

 まるで何かを噛み締めるような顔をしてから、セレナは次にリゼを見る。


「リゼは?」


「幸輝が全部言っちゃった」


「おいこらお前それ自分だけ話すの楽したいだけでしょうが! 危険なとこ行くんだからもうちょっとちゃんとした理由をお出ししなさい! じゃないとセレナさん連れてってくれねえだろ!」」


「なあん!? そうやってすぐ決め付けるのはよくないと思うんだけど! 幸輝なんかさん付けしちゃってちょっと媚び諂ってるじゃん! あと強いて付け足すなら私は女神だから悪を許せない! ……みたいな感じでお願いしますっ!」


「なんで女神?」


「うおおおおい! いや違うんだよこいつ自分の事女神って言っちゃうくらい自意識過剰なだけで本物の女神様とは全然関係ないのでありますのよおッ!!」


「アンタもアンタで口調おかしくなってるわよ」


 何とかリゼの自意識過剰という事でこの場は落ち着いたらしい。

 隣でステーキを頬張りながらポカポカと脇腹を肘で突いてくるリゼを無視しつつ、


「明日は何時に出るんだ?」


「朝六時。ちょうど明るくなってくる時間帯ね。じゃないと森の中だし暗かったら周囲が見えなくて困るのはこっち。あいつらがいつ動き出すか分からない以上、ギリギリ早めに行ってこっちから奇襲を仕掛けた方がやりやすいわ」


「分かった」


「じゃあ私はもう宿で休むから、アンタ達も明日のために早く寝るのよ〜」


 ひらひらと手を振りながら宿屋へ向かうセレナを見送る。

 クエストの朝帰りだった彼女からすれば本当に睡魔の限界が近かったのだろう。ほぼ寝ないままナラタ村へやってきて残っていた黒幕を倒す事も手伝ってくれるというのだ。


 ラーノ一番の実力者が味方にいてくれるのはとてもありがたい。

 それだけでも難易度は大分下がるのだから。


「さて、俺達もさっさと休みますか」


「そだね」


「……お前、あんなに肉食っておいて寝れんの?」


「腹八分目だよ。あ、そういや村長さんが泊まるなら部屋あるから泊まってっていいだって」


 女神の胃袋はどうなってるんだろうと思いながら村長の家に戻る事にした。


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