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41.少年は悲劇を許さない(2)

 

 その後もセレナからの説明は続いた。

 まず幸輝は今の今まで寝ていて現在時刻は二十時、外はもう暗い。昼なんてとっくに過ぎており、どうりで空腹が限界だった訳だ。男子高校生に昼食抜きは普通に死活問題なのである。


 それと倒した盗賊達は各々距離を離して拘束しているらしい。

 同じ場所に集めて変な作戦を立てさせないためでもあるとか。仲間の安否の詳細などをあえて不明瞭にしておく事で精神的疲労を与え、色々口を割らせる算段があったようだ。


「ま、大体そんな感じかな」


「じゃあ盗賊も捕まえたし村の人達も明日からは普通に働いても大丈夫って事か」


「……そうね」


 何か変な間があったような気がした。


「とりあえず今日は夕食済ませて少ししたら寝なさい。アンタ達は明日朝イチの馬車で帰ること、いいわね。じゃあ私は先に失礼するわ。そこの宿屋で泊まらせてもらうから」


 そう言ってセレナは立ち上がり村長の家を出て行こうとする。

 村長もセレナを見送るために慌てて幸輝とリゼのいる場から離れていった。


 ふと。

 小さな疑問が出てきた。


(……なんでもう夜なのにセレナはまだナラタ村に残ってるんだ?)


 いいや、正確にはまだ二十時なのになんでまだこの村に留まっているんだろう。この時間帯でもセレナならラーノまでひとっ飛びで余裕だろうに。そんな小さな疑問が幸輝の中で引っ掛かってしまう。

 盗賊なら全員倒して拘束してるはずだ。ヤツらを従えていたバロッグだって捕まっている。この村を襲う脅威はもう取っ払ったというのに。


 念の為に明日まで何か来ないかを警戒しておく? それなら納得はできる。

 どうせ帰るなら明日までのんびりしておきたい? 元々彼女はクエストで朝帰りだったからそれも理解できる。

 気を失っていた幸輝やリゼだけを残して一人ラーノに帰るのは忍びなかった? その気持ちもありがたい。


 納得できる理由だけでこんなにも思い付く。別に不思議な事じゃない。

 セレナが優しい女の子だなんていうのは最初に出会って助けられた時から知っている。だからそんなに勘繰る必要もない……はずなのだ。


 だけど、さっきの変な間がどうにも幸輝の不安を掻き立ててくる。

 念には念を、だ。


 一人前のステーキを食べ終えたタイミングで立ち上がり、ちょうど帰ってきた村長とすれ違う形で家を出る。

 後ろ姿はすぐに見つかった。


「セレナ!」


「? どうしたの?」


 駆け寄りながら声をかける。こちらに振り返るセレナの表情は至って普通に見えた。

 こんな田舎の夜でも月明かりだけで十分に明るい。彼女の輪郭は全て捉えられているから見間違いでもない。


「もう寝るのか?」


「何よ、そんなこと聞きにきたの? そうよ、こちとら朝帰りだったからまともに寝てないんだからね? なのにナラタ村の救援受けて慌ててこっちに来たからもう眠い眠い。さすがに睡魔には逆らえないわ」


 聞いているだけだと素直に納得して終わるくらいには正しい言い分だ。

 というよりそれも事実だからこそ信憑性が増す。なのにまだ何か隠している事があるのではないかと、真道幸輝は思ってしまう。


 だから遠回しはやめだ。


「もういい? 大した用がないなら宿屋に行くけど」


「本当にあれで終わりだったのか?」


「……何が」


 少し、彼女のトーンが下がったように聞こえた。


「襲撃だよ。確かに村にやってきた盗賊達は何とかした。それで終わりなら村の人達は明日からもう普通の畑仕事とかに戻れる。けどさっきのお前は俺の問いに一瞬間を置いたよな。ずっとそれが気になってたんだ」


「……」


「何も心配する必要がないなら答えに迷う事なんてしない。ましてや初心者の俺達とは違う上級冒険者のお前なら尚更だ。俺が寝てる間に何かあったんじゃないのか?」


 こんなのはあくまで幸輝の推測だ。平凡な少年のほとんど当てずっぽうのような予感でしかない。

 だけど村に一度でも襲撃があったなら、そういう危機を目の当たりにして命からがら奮闘し生き残った真道幸輝からすれば、ほんの少しでも残っている心配の種は取り除いておきたいのだ。


 所詮は幼稚な推測。外れればそれでいい。平和が戻った証拠になる。

 だがもしもそれ以外だったら? 脅威はあれだけではなかったとしたら?


 ややあって。

 上級冒険者の少女は夜空の月を数秒眺めた後、軽いため息を吐いた。


「……はぁ〜、まあ、リゼ達は知ってるしアンタにだけ教えないってのも不公平よね。何より一番頑張ったアンタに対して不義理とも言えるか」


「?」


 観念した様子で幸輝に向き直ったセレナは、次にこう言った。


「まだあいつらの襲撃計画は終わってないわ」


「なっ……」


 少し答えを濁そうとしていた時点で心のどこかではそうかもしれないと、薄々そう思っていた嫌な予感が的中してしまった。

 もしあの襲撃が計画されたものとして、あのバロッグを倒したのにまだ終わっていないとはどういう事だ?


「アンタが寝てる間に拘束してる盗賊に目的を聞き出したのよ。最初は中々口を割らなかったけど、仲間の事とか脅しをかけたら渋々話したわ。ちなみに他にも数人の盗賊に聞いて同じ事を言ってたから間違いじゃないわよ。……まあ襲撃前にもし捕まった場合の事を考えて口裏合わせて騙そうとしてたら分かんないけど」


「……一応聞いとくけど拘束してる盗賊達は殺してないよな?」


「やってないわよ。誰かに手をかけたんならまだしも、村のみんなは早めに逃げてたからね。ボロボロにされたアンタが許せないってんなら今すぐにでも一人一人の首をアンタの目の前に持ってくるけど」


「いくら上級冒険者でも一応女の子なんだからそんな物騒なこと言うなよ……」


「あははっ、冗談よ冗談! 心配しなくたってこれまで誰一人殺した事はないわ。上級冒険者を舐めないでよね。死なない程度の手加減くらいはお手のものよ」


 やられる側からすればある意味それが一番苦しくてえげつないものだと思うんですが……というのは言葉にしないでおいた。

 いっそ死にたいと思ってしまうくらいまでなら追い詰めても構わないと思ってそうだこの女の子。


「で、本題だけど……先に黒幕の正体から言っておくわね」


「黒幕?」


 何だ。つまりバロッグは黒幕ではなかったのか?

 ……いや、違う。そもそも、そもそもだ。幸輝は何を以てしてバロッグを盗賊のリーダーと格付けた?


 それは普通の人間とは思えない程の巨躯、数々の戦いで鍛え抜かれたであろう筋肉質な身体、戦闘面での頭の回転の速さ。他の盗賊とは似ても似つかない風貌は、十分にヤツらの頭だと思ってもいいぐらいの材料だった。

 しかし、それが根本からズレていたとしたらどうだろうか。


 だって、聞いていない。

 真道幸輝はバロッグから直接自分がリーダーだと聞いていないのだ。


 しかも、それだけでは終わらなかった。


「黒幕は二人……と言っていいのか分かんないけど、一人は盗賊のリーダー、名前はザオロ。見た目はバロッグと違って普通の人間と変わらない標準体型だそうよ」


「ちょ、ちょっと待ってくれ。だったらバロッグは何なんだ! 俺が必死で倒したあいつは……!」


「いわゆるリーダーの右腕ポジションってとこね。何せそのリーダー、戦闘というよりかは頭を使って作戦考える事の方が多いみたい。盗賊としては珍しい体制よね」


 バロッグはリーダーじゃなかった。それについても驚きだが、セレナは大して気にも留めていないのが余計幸輝の心をざわつかせる。

 彼女にとってはそれすら気にするほどの情報じゃないのか。


 ではわざわざ幸輝に黙っていた理由は……?


「それでもう一人……もう一体って言った方が正しいかな……?」


 気になっていた疑問が一瞬で嫌な予感に変わる。

 一人として数えるのをやめた時点で何かのレールが切り替わった気がした。


 元々幸輝が呼び止めて聞き出そうとした事だ。セレナは頑張った幸輝には教える義理があると改めたから言う気になった。

 何ら不自然な事はない。自然の流れだ。だからこそ次の瞬間に真道幸輝は後悔する事になる。


 上級冒険者、セレナ・グレイスが続きを話した。

 もう一つの黒幕を。


「とにかくもう一体の黒幕だけど、そいつは魔物よ。あの盗賊共……よりによって言葉を話せる魔物と手を組んでたの」


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