3.異なる世界(3)
本日も三話更新(12時10分、17時10分、21時10分)です。
「うぉぉぉおおおおおおおおおおおおおあああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!?」
真道幸輝、絶賛落下中であった。
いきなり有無を言わさずゲートから落とされたと思ったら、視界は暗闇空間とは真逆で眩しいほどの純白の光に包まれていた。
上下左右全てが白。しかしこの体は間違いなく下へと落ちている。そう、落ちているのだ。
どこが着地点なのかも分からない状態であり、この落下スピードのままもし地面に衝突すればどうなるのか。答えは幼稚園児でも分かる。
文字通りの落下死が幸輝を待ち受けていた。
「し、しぃっ、死ぬ、絶対死ぬっ! このままじゃ確実に死ぬぅーっ!?」
一度は死んだような体験をしたが、今度こそ本当に死ぬかもしれない。
せっかく異世界転移したのにスタート地点にすら立てないままデッドエンドはあまりにも無惨すぎる。
「くっそ、あの大女神の野郎適当に放り出しやがってッ! な、何か衝撃を和らげるほうほ」
言い切る前に、真道幸輝の体は純白の空間から消え去った。
いいや、正しくはワープしたと言った方が正しいか。この落下式の空間はあくまで異世界までの道を繋ぐ経路のようなもの。多数の異世界が存在する中、ピンポイントの異世界へ移動させるには一本道のように転移者を直下させるしかないのだが、そういう説明を慣れない大女神は省いちゃっていたのだ。
そしてワープが済んだ幸輝はと言えば。
「………………あ?」
きちんと地に足ついて立っていた。
突然の事に少し放心状態に陥るも、さっきから驚く事ばかりでそういう神経が麻痺しているのか回復も早かった。
「あれ、さっきまで落ちてたような……いや、それとももう転移できたのか……?」
周りを見ると広大な景色が広がっていた。
幸輝が元いた世界とは掛け離れた景色。ビルはなく、信号もない。見た感じ車も走っていなければ交通機関そのものが見当たらない。どちらかと言うと都会よりも田舎に似ているかもしれない。
目に見えて分かるのは少し離れたところに大きめの街みたいなものがあるぐらいで、あとは平原や小さな山がある程度だろうか。
レヴィリエの言っていた事がようやく理解できた。まさにゲームで見た事あるような世界がそこにはあったのだ。
(これが、異世界……俺が第二の人生を歩むもう一つの世界か……。今のところは異世界ってよりも田舎の風景ってのがしっくり来るけど)
あの三百六十度真っ黒な謎空間に眩い純白の落下空間から一瞬でこの世界まで来ると、いよいよ実感が沸いてくる。
自分は本当に異世界に来たのだと。あの大女神が言っていたように、この世界で武器や魔法を使い、自由な暮らしができるのだと。
これから始まるのは幸輝にとって全てが新鮮で刺激的な毎日になるはずだ。
自分にとってこの世界は全てが未踏の地という事もあり期待と不安も半々ではあるが、いつまでもここで立ち止まっている訳にはいかない。とりあえずは動くしかないのだが……。
しかし、いきなり飛ばされてきた幸輝にとっては最初にどう動けばいいのか分からないのもまた事実。
(……いや、確か俺をサポートしてくれる女神がいるって言ってたよな。もうどっかにいたりするとか?)
レヴィリエの言う通りならば、どこかに女神がいるはずと思い周囲を見るもそんな存在はどこにもいない。
ガセとは思えないが、いつまでも放置されてたら不安の気持ちも少し出てくるものだ。
すると突然、幸輝の目の前に光が生じた。さっきレヴィリエが出てきたものと同じ変化なのを見ると、ここから女神が出てくるのだと推測する。
(そういや女神にも個性や性格がどうのこうのって言ってたっけ? けど女神は女神だしそこは性格良し頭脳明晰で即戦力の女神を寄越してくれるに違いないだろ。何たって大女神のお眼鏡に適ったって言ってたからそのくらいの優遇はされるはずだよな?)
何を言っても真道幸輝は異世界転移者である。
ならばその特典としてやってくるサポート女神様も優秀な人の確率が高いとみていいだろう。そうなればこれからの生活もあまり苦労をしなくて済む可能性が高い。
期待が高まっていく中、いよいよ光源から女神が姿を現した。
それはどこへ行っても人の目を惹き付けるような美しい銀の長髪。広大な空を宿したと思わせるほどの澄みきった青い瞳。薄い銀色と白を基調とした女神の衣服に羽衣を携え、その女神は言った。
「初めまして、真道幸輝さん。私があなたをこの世界でサポートし共に旅をする見習い女神、リゼと申します。よろしくお願いします。これから共に頑張っていきましょうね」
第一印象は普通に礼儀正しい美少女女神という感じだった。
だが大事なのは見た目よりも中身、つまりはサポート役としてどれだけ頼りになるのかが気になるところである。
さっそく幸輝は片手を挙げて質問するように、
「あのう、いきなり失礼な事をお聞きしますが……リゼさんとやらはサポート役としての実力ってどのくらいあったりするんでしょうか? 個人的に今はそれが一番重要と言いますか今後わたくしめの命に関わってきそうなんで気になってるんですけど……」
何の特典も貰えなかった不憫少年の質問にリゼと名乗った見習い女神は少し考えるような素振りを見せてから、こう答えた。
「そうですね……サポート役ではありますけど、この世界についてまだ全てを把握してる訳ではないので正確な実力は分かりませんが、今のところはおそらく平均以下……おそらく下の中か上くらいかと思われます」
「…………………………下の上?」
女神が自分自身を低く見積もるのも些か疑問ではあるが、かと言って女神の性格や言動に問題があるとかではないらしい。見習い女神はあくまでも謙虚な女神の姿勢を忘れない、とでも思えばいいのだろうか。
実力が平均以下だとしてもちゃんと女神らしくしている、というのが第二の印象であった。
そしてもう一つ忘れてはいけない事がある。
まず第一に、真道幸輝が望んでいたのは見習い女神の中でも特に優秀な人、目の前の女神が例えたものになぞらえるなら上の中、または上だったはずだ。転移者特典としての能力や武器の次に大事な部分。
しかし、目の前の可憐な女神の少女は何と言ったか。
平均以下。そして下の中、あるいは下の上。それらは俗に言う低ランクに位置しているはずだ。
女神少女はそれこそ女神と言うべき微笑みを浮かべていた。女神の実際の年齢なんて分からないが見た目の年齢だけで推測すると幸輝と同じか一つ下のようにも見える。多分実力がほとんどなくてもきっと献身的にサポートをしてくれるに違いないだろう。まだ見習いだから自分で平均以下と言ってしまうほど真面目で謙虚な頑張り屋なんだろうとは思う。
そう。
それを分かった上で、真道幸輝は単刀直入にこう言うしかなかった。
「いやもうほんとすいません、チェンジで」
「なんでぇ!?」
割と女神らしからぬ元気なツッコミが飛んできた。