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31.対人戦(5)

 家から出ても盗賊の仲間がやってくる気配はなかった。


(完全にこっち側を舐めてるってことか。まあ女性がいたところでただの村人じゃ盗賊の相手にはならねえもんな)


 しかし幸輝からすれば好都合。

 このまま相手側がこちらに気付かなければステルスでヤツらを潰すことができる。


 櫓にいるリゼを見る。すぐ近くに二人いると頑張って指で表していた。

 ここに来て二人を相手しないといけないのは中々に難しい。しかしあの家には村人が二人残っている。ならどれだけ難しくても近くにいる盗賊二人を何とかするのが先決だ。


 リゼの指示に従いながら盗賊のいる方へ向かう。


(……いた)


 近くの家の裏手に隠れながら様子を見ていると、会話が聞こえてきた。


「次はこの家にすっかなー」


「あーあ、俺も村の連中見つけて楽しみたいもんだぜ」


「だったらもっと手早く見て回るこったな。さあて、金目のもんはっと……」


(一人は家に入ってった……もう一人はまだ外を歩いてる。二人で一緒に見回ってる訳じゃないのか。なら先に外のヤツを倒してから出てきた仲間を不意打ちで仕留めるっ)


 ちょうど強化魔法が切れたタイミングでまたリゼから魔法を掛けられた。この魔法は特に音もなくオーラも半透明でバレにくいため、今の作戦的にもまさにちょうど良かった。

 そして一気に身を乗り出し外を歩いてる盗賊の背後を確認する。さっきみたいに後頭部を掴んで地面に叩き付ければ上手くいくはずだ。


 相手との距離は約七メートル。強化状態なら一歩強く踏み出すだけで一瞬のうちに距離を詰められる。

 その一歩を踏み出す。


 直前だった。


(……なんだ……?)


 ぞわりッ!! と、猛烈な寒気と共に幸輝は急いで背後を振り返る。

 刃はすぐそこまで迫っていた。


「ッ!?」


 脳内で結論が出るよりも先に体が動いていた。

 いいや半分は強化魔法のおかげでもあるが、とにかく幸輝は反射的に体を横に反らして刃を躱す。次に足を強く踏み込み囲まれないよう横へ跳ねるように移動する。


「何だ、躱されたか。案外反射神経良いんだな」


 左側にいる先ほど家に入っていった盗賊が躱された事にも大して驚かず、普通に喋り出した。

 強化魔法のおかげで反射神経も良くなっていたのが幸いだったか。


「逃げ遅れた村人もまだいたのか。……いや、その見慣れねえ服装は村人じゃねえな……まさかお前、冒険者か?」


 気付けば外を歩いていた盗賊も既に短刀を抜いてこちらを見ている。

 左側の盗賊が何だ、躱されたかと言っていたが、それではまるで元から斬りかかろうとしていたという風にしか聞こえない。あの言い分からするに……まさか、バレていた?


「……俺がいるって、気付いてたのか?」


「ああ。村人の悲鳴が聞こえたから誰かが当たり引いたのかって羨ましがってたらよ、急にあっちの方から砂煙が舞い上がったんだよ。しかもそれは悲鳴のとこに向かっていった。最初は仲間かとも思ったが、俺らは仲間の獲物には手を出さねえって基本決めてんだ」


「つまり悲鳴に釣られてのこのこ駆け付けるヤツは仲間じゃねえ誰かってことよ。それに悲鳴がした方からまだ仲間が来ねえって事は、その様子だとやっぱりお前にやられたか?」


 ならこの二人は最初から幸輝を誘き寄せるために二手に分かれるような事をしていたのか。

 どうやらまんまと釣り餌に食い付いてしまったのは自分の方らしい。取り残された村人の方へ近付けさせない事に考えが寄りすぎて、罠の可能性まで至らなかった自分の落ち度だ。


 二対一。しかも他の仲間も近くに潜んでる可能性だってある。

 やっとの事で三人片付けたのに幸輝の存在がバレてしまったら最後、一気に不利な状況になってしまった。無理もない、どうしたってまともに動ける味方陣営は自分一人、対して盗賊側は三人やられてもまだ四人残っている。


 数的不利は覆らない。強化魔法が掛かっているとはいえ、こちらはステゴロなのに相手は武器を持った集団だ。

 一瞬の油断もできない。左右にいる盗賊から目を離さないまま幸輝は重い口を開く。


「……殺しちゃいねえ。ただ気絶させて動けねえようにしただけだ……」


「はっ! そいつぁありがとよ。けどこっちはお前を殺すぜ。村人なら労働力にもできるが、冒険者なら話は別だ。少しでも抵抗されそうな要素を持った面倒なヤツは殺す」


「悪いな、ゲネスの言った通りだ。さっき仲間の獲物には手を出さねえとは言ったが、冒険者相手なら俺らも油断はできねえのよ。だからお前は例外だ。基本を崩させてもらうぜぇ!」


 先に右にいる好戦的そうな盗賊が幸輝の方へ襲い掛かってきた。

 しかし幸輝もずっと警戒して双方を見ていたのだ。ヤツらに怖気付いて何もできないなんて事はない。


「ああそうかよっ!」


 言い捨てるように吐いて真道幸輝は後ろに振り返り、そのまま走り出した。


「……ってああっ!? 逃げんのかよ!?」


「へっへーんだ! 武器持ち相手に正面切って戦うかよバーカ!」


「チィッ! 追うぞヘリオ!」


「あんの野郎……楽には殺さねえッ!!」


(……ちゃんと追いかけてきたか。思った通りだ、盗賊連中だからかやっぱりあいつら基本的に血気盛んで簡単な挑発にすぐ引っ掛かる!)


 後ろを確認しながら走る。

 盗賊といえども基本は普通の人間だ。強化魔法を受けた状態の幸輝に走りのスピードで勝てる訳もない。とりあえず追いつかれる心配はなさそうである。


(引き付けてる間に他の仲間が潜んでないかと思ったけど、出てこない辺りをみると別の場所にいるのか? それともまだどっかに息を潜めてる……?)


 別の場所にいるなら適当に走ってるだけでどっかで遭遇しそうではあるが、幸輝だってわざわざ余計不利な状況にはなりたくない。

 他の仲間がまだいないなら、やりようはある。


(このまま逃げ回ってりゃ他の街から冒険者が助けに来るまで時間は稼げる。……けど少しでも早く取り残されてた村の人を安心させるなら、やっぱり倒すのが一番かっ)


「待てやコラァッ!! 殺してやるからテメェも正々堂々戦いやがれ臆病者ぉッ!!」


「くそっ、なんであんな速ぇんだあいつっ! ちくしょう、冒険者ってのはこれだから厄介なんだ……!」


 背後からは盗賊からのありがたい罵倒が今でも続いている。

 しかしながら、だ。強化状態の幸輝の走りは早く、またその分一歩一歩踏むしめる力も強い。それのせいもあってか、幸輝の足元からは漫画やアニメでよくある表現として砂煙が一々舞い上がっているのだ。


 逆に言ってしまえば、そのおかげで盗賊達には幸輝が強化魔法を掛けられている証としての半透明で白い光のオーラが見えていない。そもそもさっき喋っていた時にもバレていなかったのは単に相手が気付いていなかっただけの可能性もあるが。

 ということは、これも不意をつける手段の一つとなる。馬鹿正直に着いてきてくれているなら、それを利用するに越した事はない。


 真道幸輝はこれでも元の世界ではトラブルによく巻き込まれ、五〜六人程度の人数相手ならそれなりに相手をできる程には喧嘩慣れをしている。

 ヤツらは盗賊で武器を持っており、人を殺す事に何の躊躇もないような悪党ばかりだ。

 それでも。


(盗賊だって俺と同じ……別の世界の人間だとしても、基本的には同じ人間である事には変わりないんだ!)


 しかし、それを省いてしまえばどうなるか。

 そう、言ってしまえば真道幸輝もあの盗賊達も結局はただの同じ人間であり、だからこそお互いの行動や思考パターンもある程度理解し照らし合わせると、恐怖の原因となる要素は自然と既知の認識へと移り変わり、少しずつ緩和されていく。


 つまり。


(あいつらは武器を持ってるだけで俺の知ってるような不良やチンピラ達と何ら変わらない……それに、今の俺は強化魔法のおかげで普通の人よりも強い状態なんだ……! 大丈夫……刃物が何だ、殺意が何だっ、やれる……やってやる! 俺がこの村を救うんだ!!)


 無謀は確かな勇気へと変換される。

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