表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/55

29.対人戦(3)

 その辺にあった用具入れからロープを拝借し、意識を失った盗賊の手足を縛って動けないようにしておく。

 顔面と後頭部を強く打ったからしばらくは起きないはずだ。一応周りを警戒してみるも、近づいてくる足音はないから他の連中にも気付かれてはいないだろう。


 それにしても。


(強化状態の動かし方に慣れてて正解だったな。……まあほとんどは魔物から逃げる時によく魔法かけてもらってたからなんだけど)


 魔物からの逃亡劇も何だかんだで役に立っていたらしい。人生何でも経験しておいて損はないようだ。

 強化魔法を掛けられた状態で体を動かすのにもそれなりに慣れる必要がある。力の強弱の加減が分からないとジャンプする時やダッシュする時など、自分では意図していなかった挙動をしてしまう事があるからだ。


 そしてそういう体の感覚と使い方に限っては、元の世界でよくトラブルに顔を突っ込み喧嘩などに巻き込まれていた真道幸輝にとっては相性が良かった。

 やはり武器とかではなく自分の生身を扱う方が慣れるのも早い。いつも魔物から逃げる際に魔法を掛けてもらっていたため、自然と強化状態での使い方が体に馴染んでいたのだ。それでも魔物相手に倒すとまでいけないのが欠点ではあるが。


 逆に言えば生身の人間相手なら強化状態で結構やれるという訳である。

 鍛え抜かれた戦士とか鎧で全身守られている兵士に比べれば、装備の薄い盗賊はまだやりやすい。上手く不意をつけばそのまま昏倒させられるのだから。


(さて、次は……)


 捕らえた盗賊を用具入れの中に閉じ込め、上を見上げる。

 正確には村の中心地、ナラタ村の中で一番高い建造物である櫓の方を。


(あっちか)


 村の中から外まで全体を見渡せる位置にいるリゼから指示を受け、目立たないように次の場所へ移動する。

 できるだけ仲間と離れていて一人でいる盗賊の所へ。


 ──


 盗賊が来る数分前。

 幸輝とリゼの間にこんな作戦会議があった。


『まずリゼが俺に強化魔法をかけてから村の真ん中にある櫓に登って盗賊達の位置を確認する。俺はリゼから見える範囲にいるから、敵がいる場所をおおよそでもいいから指差しで教えてくれ。ヤツらの狙いは金品と食料だ。それに村にはもう誰もいないと思ってるからおそらく視線は櫓の上には向かないし家以外に興味もいかないはずだけど、一応見つからないように体は常に伏せながらだ、いいな』


『うん。あ、でも強化魔法が切れたらどうするの? 三分で終わっちゃうよ?』


『お前の強化魔法って掛けられる距離に制限とかあるか?』


『うーん、試した事がないから絶対とは言えないけど、この魔法効果をある程度増幅してくれるペンダントがあるから多分大丈夫だと思う。櫓から村の中の範囲で私の視界に入ってる状態であれば距離含めて魔法の対象内かな』


 それも絶対ではないはずなのだが、リゼがそう言うという事は感覚でそこまでの範囲なら魔法が届くと信じていいだろう。


『なら十分だ。魔法が切れたらその都度すぐに俺に強化魔法を掛けてくれ』


『分かった。できるだけ声は抑え目にして言うね』


 魔法を掛ける際、まだ発動に慣れていないから声に出さないとダメなのだが、声のボリュームが大きいと当然盗賊に位置がバレてしまう危険性がある。

 幸いボリュームに関しては大きい小さい関係なく魔法が発動できるため、小声で言えば効力はそのままで対象に魔法が掛けられるらしい。


『あとは盗賊達がどう動くかにもよるけど、もしヤツらが分散して行動する場合は一人、あるいは少人数の方を優先的に教えてくれ。可能な限りは一人ずつ一瞬で意識を刈り取っておきたい。最後に、場所がバレない限りお前は何があってもここから降りるな』


『え、なんで?』


『こういう戦いに於いて厄介な支援者(サポーター)ってのは大体最初に狙われるものなんだ。だからリゼは絶対場所がバレないように専念、俺に魔法を掛ける時と指示を出す時以外は極力隠れて敵の位置特定に力を入れるんだ。……最悪俺がやられる場合があってもバレない限りは降りるな。あいつらが帰るまで櫓で待ってろ、いいな』


『う、うん……分かった』


『よし、それじゃあ作戦決行だ』


 ──


(強化状態で顔面一発殴れば気絶させられるのは最初の一人目で証明できた。あとはこれを残りの全員にできりゃいいけど……)


 櫓の方を見る。リゼのそれっぽいハンドサインを確認しつつ藁が大量に入った荷車の陰に身を潜める。

 この先を曲がった所に二人目がいるらしい。確かに砂を踏むような足音が聞こえた。ちょうど今どこかの家に入って行ったようだ。


 と、ここで強化魔法が解けた。盗賊が到着する直前に掛けてもらったからその分時間が経っていたのだろう。

 もう一度リゼを見ると、櫓から小さくこちらに手を出していた。すると再び幸輝の身体が半透明で白いオーラのようなものに包まれる。強化魔法が掛かった証拠だ。どうやら対象に向けて手をかざす必要があるらしい。


 ザッ、という音が聞こえた。

 近くの家から盗賊が出てきたのだ。その足音はだんだんこちらに近づいてくる。できるだけ荷車から見えないよう屈みながら警戒しておく。


(……見えた)


 荷車の下にある隙間から二人目の足が見え、それはまた違う家の方に向かって行く。

 最後の確認としてリゼの方を見る。ゴーサインが出ているという事は、周りには他の盗賊もいない。行くなら今だ。


(よし!)


 相手がドアを開けるのを確認した瞬間に飛び出す。

 そして盗賊が家の中へ一歩踏み出したと同時に幸輝がその真後ろに迫る。この時地面が砂地だったからか、幸輝が盗賊の背後に着くとザザァッと滑るような音が発生した。


 周りに仲間は誰もいないのに聞こえた不審な音。

 もちろん盗賊はその違和感を確認するため振り向こうとする。


「……ん? なん──、」


 当然、それを許す真道幸輝でもなかった。

 相手が振り向く前に飛び出して後頭部を掴む。そのまま強化状態なのを利用して力任せの勢いで盗賊の顔面を床に強く叩き付けた。


「がッ……」


 ゴッ!! という音が響き、盗賊はそのまま動かなくなった。


(これで二人目……)


 一応生きているか確認すると、鼻血は出ているが普通に気絶しているだけのようだ。

 家の中にあった長めの藁縄で先程同様動けないように手足を縛る。外に放置してると見つかりかねないため、家の出口付近の隅に転がしておく事にした。


(あと五人か。……にしても七人中二人が単独行動してるって事は、村に誰もいないから警戒せずにバラバラになって行動してるのか? だとしたらこっちとしてもありがてえけど、ここは比較的小さな村だ。途中で仲間と鉢合わせする可能性だってある。リスクは高まるけどもっとペースを上げるべきか……?)


 外に誰もいないか確認してから家を出る。

 とりあえず三人目がいる方に向かうため、リゼのいる櫓を見ようとした時だった。


「きゃあああああああああッ!!」


「ッ!?」


 幸輝から見て右奥の方面、そこから女性の悲鳴が聞こえてきた。


(まさか……逃げ遅れた人がいるのか!?)


 もはや反射的に足が動いていた。

 相手にバレるリスクとか考えてなどいられない。強化状態のまま急いで悲鳴がした方へ向かう。


「くそっ!!」


 悲鳴の声は甲高かった。つまりは若い女性とみていいだろう。

 盗賊共が村人を見つけたら何をするのかは分からない。けれど村を襲撃するようなヤツらだ。普通に考えれば何もしないはまずありえない。


 考えられる候補としては拉致、人質、殺害辺りか。

 いずれにしろ最悪なのは変わりない。何としてでも食い止めないと待っているのは最悪の結末だ。


 そして幸輝が危惧している点はもう一つあった。


(悲鳴を上げたのが若い女性なら、何でまだ村に残ってる……? さっきの男の人が言うには盗賊が来るって噂はすぐに広まってたはずだ。それも俺達が村から離れる僅かな時間で。……なのに女性が逃げ遅れるなんてあるのか? ……いや、まさか……)


 普通ならとっくに走って逃げているはずだ。それでも逃げ遅れたのなら、何か理由があるかもしれない。自分が健康体でも逃げられなかった理由。逃げなかった理由が。

 そう、例えば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()とか。


(若い女性ともう一人か二人、歩けない老人でもいるってのか!)


 これはあくまで推測だ。どっちみち女性がいる時点で最悪も最悪なのだが、盗賊からすれば若い女性は色々利用価値があってすぐには殺されない可能性もあるにはあると思う。

 しかし、高齢者ならばどうだろう。年齢的に労働力として使えもしない。しかもまともに歩く事もできない老人なら利用価値なんてないに等しい。


 拉致、人質、殺害。

 武器を持って人のいる村を襲う盗賊。故に考えられるのはただ一つ。


(絶対に誰も殺させやしねえからな!!)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ