28.対人戦(2)
「む、無茶だっ。配達クエストで来たってことは、君達はまだ初級冒険者だろう! 見たところ武器も持ってないようだし、魔法もそんなに扱えないはずだ。危険に決まってる!」
余計な心配を増やしたくないので魔法を一切使えないというのは伏せておく事にした。
「村のことなら心配ない! 村長が連絡用の魔道具でラーノに助けを求めると言ってたから、一時間もすればまともな冒険者がやってくる。人口が少ないからみんなももうどっかに隠れてる頃だ。そうだよ、金品や食料が奪われたって、命さえあればどうにかなるんだ。盗賊も目的の物さえ集まれば帰っていくさ。わざわざ探し出して殺すようなことはしないだろ? あとはまたみんなで頑張ればそれで済むんだよっ。今は黙って我慢するべきなんだ!」
「そうよ! あなた達が危険な目に遭う必要なんてないわ!」
おそらく彼らは自分の事を思って言ってくれてるんだろうと思う。
わざわざ殺されに行くような真似はしなくていいと。危ないから今は一緒に隠れて黙ってようと。そうするだけで命の危険度は格段に下がる。
スライム一匹ですら倒せない少年にできる事はあるのか。
しかも相手は盗賊。知性がある分、複雑な思考を凝らしてその時その時で行動を変えてくるのは厄介極まりないだろう。動きの単純さで言えば魔物の方がやりやすいとさえ思ってしまう。あくまで逃げる専門ではあるが。
村人である青年の言い分は十分理解できた。
ナラタ村の村長とのやり取りでも思ったが、ここに住んでいる人達の雰囲気はみんな平和で温かくて優しかった。そんな人達の村を荒らそうとしている輩がいるのだ。
なら理由はそれだけでいい。
「ありがとな、気遣ってくれて」
優しさに触れ、だからこそ真道幸輝は真っ直ぐに見つめ返した。
「けど後は俺に任せてくれ。盗賊は必ずぶっ飛ばしてやるから」
「なっ……危険だ!」
「冒険者に危険は付き物だよ。それに一度こうやって無抵抗を貫いちまうと悪党ってのは味を占めてまたやってくるぞ。大丈夫、遅かれ早かれこういう時はいつか絶対来るって思ってたんだ。今がその時ってだけさ。それに……」
村の真ん中辺りを見つめながら、少年は言う。
「真面目に働いてる人から盗みを働くようなヤツらってのが、個人的に気に食わねえんだ」
「っ……」
「多少村は散らかっちまうかもだけど、そこは大目に見てくれな。それじゃ、行くぞリゼ」
「うんっ」
二人してナラタ村の中を走る。
青年が話していた内容によると、盗賊が来るのは後ろに山林が控えている村の奥の道からだろう。
さっきはあと五分くらいで下りてくると言っていたから、もうあと二分程度かもうそこまで来ていても不思議ではない。
周りにどのような建物や物があるかを確認しながら幸輝はリゼに声を掛ける。
「リゼ、あそこで一旦止まるぞ」
「えっ? 盗賊をやっつけるんじゃないの? 道が見えるとこにいないと敵も見えないよ?」
「無策で行ってもやられるだけだ。時間はないけど作戦を話す。いいか、まずは……」
──
そして三分後。
「ちんけな村のくせに畑と放牧場だけは一丁前だなぁオイ」
ナラタ村に盗賊がやって来た。
数は七人、全員が馬に乗って武器を携えている。
一番後ろを走っていた大男が馬から下りた。それに合わせて他の盗賊も下りる。
前にいる盗賊達は基本的に小汚いシャツだったり片側だけアーマーなどを付け、短剣を腰に携えた一般的な盗賊衣装を着こなしているが、後ろにいた大男だけは少し違った。
頭に迷彩柄の頭巾を巻き、シャツなどを着ないで肩から先を千切り取ったレザージャケットのようなものを羽織っている。
腰にはカットラスと呼ばれる湾曲した刃を持つ大きな片手剣を携えていた。
他の盗賊を従えるその大男、バロッグが村を見渡しながら言う。
「何だぁ? 人っ子一人いねえじゃねえか。どうなってやがる」
もぬけの殻と言わんばかりに村は静まり返っていた。
人が眠る夜の時間帯という訳でもなく、太陽が照り付けもうすぐ昼になる時間帯だ。畑や牧場がある村の光景としてはあまりにも不自然すぎる。
不審に思った盗賊二人が近くにあった家を覗いてすぐに戻ってきた。
「やっぱり誰もいねえですよ」
「しかし食いかけの飯があったんで、さっきまでいたのは確かかと。……そういや下りてる最中、村の方が騒がしかったっすよね」
つまりは。
「チッ、やっぱ盗み聞きして事前に逃げやがったか」
「えっ、まさか俺達の話聞かれてたんですかい?」
「おそらくな。襲撃の最終確認をしてる時に近くで変な音がしたから怪しいとは思ってたんだが、どうやら動物じゃなくて村の連中だったらしい」
「ええ〜! じゃあバロッグさんがそこでちゃんと確認しに行くべきだったんじゃないですかぁ〜! 逃げられたら交渉も何もできませんよー!」
下っ端からの文句にも腹を立てる事なく、片手剣を抜いて肩で担ぐように持つ。
村人がいないならいないで別に構わない。作戦通り次の行動に出るだけだ。
「うるせえよっ。誰もいねえなら盗れるもん盗ってまた次来りゃいいだろ。楽で良いじゃねえか。ど素人と戦ってもつまらねえだけだ」
「ちぇっ、暴れるのはまた今度かー」
「さて、んじゃどっかに逃げ隠れた奴さんらに甘えて頂戴するとしようか。各自バラけて金になりそうなもんとありったけの食いもん取ってこい。慌てる必要はねえぞ〜。連中は一時的に村を明け渡したようなもんだ。ゆっくり吟味すりゃいい」
バロッグの言葉を合図に盗賊達がそれぞれバラけていく。
時間に追われる心配もないため、全員がのんびりと歩きどの家から入ろうかちょっとした宝くじ感覚で楽しみ始めた。
そしてバロッグは一番近くにあった家の中から適当な干し肉と酒が入った皮袋型の水筒を持って、自分達の馬の近くで待機しながらそれを飲む。
規模自体は小さな村だ。六人もいれば三十分程で大体は集められるだろう。
「……ぷは〜っ、果実酒か。案外良いモン持ってんじゃねえかこの村」
「バロッグさーん!」
「あん? なんだー?」
「家漁ってる最中に村のヤツら見つけた場合はどうします〜?」
「最終確認の時と変わんねえよ。見つけたのが若い女か子供なら取引のために連れて行く。連中に断らせないためにな」
「分っかりました〜。なら老人か男の場合も作戦と変わらずですかい?」
「おうよ、若え男は労働力として必須だから基本何もせんでいい。老人共は……まあ、そうだなぁ」
バロッグはもう一口果実酒を含み、そこから干し肉を乱暴に噛み千切る。
その行為で既に答えは決まっていた。もちろんわざわざ質問をぶつけた部下もこの大男が何と答えるか分かっていながら聞いたのだ。
命令。
あるいは決定事項。
「殺せ」
何の逡巡も躊躇いもなく、流れるようにそんな言葉が出た。
まるでこれが盗賊の日常だと言わんばかりに。
「ういーっす!」
そして部下の方もあっさりと受け入れる。
むしろバロッグの返答でより元気な声でだ。やる気に満ちた部下は体を反転させて歩いていく。こちらも宝くじ感覚で順番にではなく、ランダムに決めた家から入るつもりらしい。
「他のヤツらは手前からいってんのか〜。じゃあ俺は向こう側から行こっかなー」
気楽な独り言を呟きながら真っ直ぐ歩いていく。
まだ仲間の誰も行っていない奥の方へ。
村の連中が全員逃げていったのなら時間にほぼ限りはない。宝くじ感覚とはいってもどうせ最後には全ての家をしらみ潰しに見ていくのだ。
であればこちらもゆっくり散策しながらでもいい。バロッグみたいに何か少しつまみながら探すのだって乙なものだ。
そんなことを呑気に考えながらまだ見てもいない家を素通りする。
だがその瞬間、家の角から何かが突然出てきた。
「──えっ」
変に大声を出す暇さえなかった。
身体強化の魔法を受けた真道幸輝のスピードと体重を乗せた拳が見事に盗賊の顔面にめり込み、そのまま地面へ叩き込む。
当然、身構える時間すらなかった盗賊は何本か歯が折れたまま意識を失った。
「……まずは一人」




