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27.対人戦(1)

 

「な、なんだ今の声……!?」


「男性の声……ナラタ村の方からだよ!」


 急いで馬車から顔を出して村の方を見る。

 煙は上がってないから火事が起きた訳ではない。しかし何やら騒がしいのは事実だ。活気ある賑わいとか、笑い声などでは断じてない。


 女性の甲高い悲鳴やら男性の怒号のような声が今も聞こえる。

 原因は分からない。けれど何かが確実に起きている。決して只事ではない何かが。


 すぐに御者へ声を掛ける。


「馬車を止めてくれ!」


「えぇ!? ど、どうするんですか!?」


「俺達は村の様子を見に行く。何が起きたか分かんねえけど、少しでも危険性があると思ったらアンタはそのままラーノに帰ってくれ。判断はそっちに任せる!」


 返事を聞く間もなくリゼと共に馬車から降りる。

 村との距離はまだそんなに離れていない。しかし異様な騒ぎは今も聞こえてくる。


「女神の勘だけど、多分危ないよ」


「だろうな……さっきとは違って明らかに様子がおかしい」


「それでも行くの?」


 何が起きているかも分からない。

 しかもあの怒号だ。何かしらのトラブルがあったのは間違いないだろう。害獣か、魔物か、はたまたそれ以外か。


 ともあれ平和なはずのナラタ村に異常が起きたのなら、やることは一つだ。

 リゼの問いにそんなのは愚問だと言い張るかのように、真道幸輝は言い放つ。


「当たり前だ」


 二人同時にナラタ村へ駆け出す。

 近くになるにつれて、悲鳴の声は鮮明に聞こえてきた。男性の声だ。


「森の方から盗賊が来るぞぉーッ!! 全員急いで逃げろおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」


 村の奥の方からだった。

 幸輝達が来た方向とは別に、向こうの方にも入口のようなものがあるのかもしれない。


 しかし村に起こった異常の原因は分かった。

 害獣でも魔物でもない。ナラタ村を襲いに来たのは、盗賊。


「くそッ……よりによって対人戦かよ……!」


「どうするのっ?」


 走りながらリゼが聞いてくる。

 相手が人なら作戦を考えたいところだが、如何せん人数もどんな武器を所持しているかも不明だ。いきなり敵の中心地に突っ込んでも大勢で固まっていたら即詰みである。


「できれば相手の人数だけでも把握したいけど……っ、あれは……?」


 もうすぐ出入口に着こうとしていたところで、出入口の二十メートルほど左にある家の角から村の住人であろう男性と女性が逃げるように出てきた。

 彼らはそのまま身を隠すように畑近くの農具入れの後ろに身を潜めるのを幸輝は確認する。


 遠目からでも怯えているのが分かったが、今の幸輝からすれば貴重な情報源だ。

 走っている足をすぐに方向転換させる。


「リゼ、こっちだ。あの人達から情報を聞き出すぞ!」


「分かった!」


 できるだけ音を出しすぎないようにしながら彼らに近づく。

 そして声を抑えめにしてから、


「なあ」


「ひっ!?」


 慌ててリゼが悲鳴を上げそうになった女性の口を手で塞ぐ。

 そのまま幸輝が冒険者用のネームプレートを出して彼らに見せる。自分のはまともな証明にならないのでリゼにも出すよう促しつつ。


「落ち着いてくれ、俺達はラーノから来た冒険者だ。名前は幸輝、そっちがリゼ。さっきまで村長に荷物の配達をして帰ろうとしてたんだけど、村の方から悲鳴が聞こえてきて戻ってきたんだよ」


「そ、そうなのか……」


 自分達が何者なのかを説明すると、男女とも何とか落ち着きを取り戻してくれた。

 村の中からの叫び声はいつの間にかほとんど静かになっている。


「悪いけど何があったか教えてくれないか。さっきの叫び声で盗賊が来たってくらいしか情報が掴めてないんだ」


「あ、ああ……ついさっきの事だよ。森から帰ってきた職人達が血相を変えて慌ててたもんだから何があったか聞いたんだ。そしたら今日は森の奥の方で伐採するために遠めの方に行ったらしいんだが、そこで盗賊を見かけて慌てて隠れたらしい。すると盗賊の話し声が聞こえて、三十分後にナラタ村を襲撃するって話を聞いたみたいなんだ……。この周辺には魔物はいないけど、盗賊がいたこともなかった。だから村が襲われるなんて初めてでどうしたらいいか分からなくて、話が村中に広まるのも一瞬だった……みんなとにかく急いで逃げるしかなかったんだよ……!」


「……その盗賊はもう来てるのか?」


「いや、まだだと思うけど……馬に乗ってくるなら時間的にあと五分もすれば村に下りてくると思う……」


 つまり盗賊はまだ来ていないにも関わらず村はパニックになりあれだけ騒いでいたという訳か。

 平和すぎるというのも考え物だ。いざという時どういった行動をすればいいのか冷静な判断すらできなくなっている。


「他の人達はどこに行ったんだ?」


「村の外……盗賊がいる逆方面の畑や森だと思う。幸いここら一帯に関しては盗賊よりも俺達の方が詳しいはずだから、安全そうな場所にも心当たりがあるんだ。それに盗賊が狙ってくるのが金品や食料だったら、それは全部村の中だけで完結できる。だから村の外には来ない、と思う……」


「なるほど……一応聞くけど、村にまともに戦える人は?」


「恥ずかしながらいないと思う……そもそも立ち向かえる勇気があるならみんな鎌なりノコギリなり持って立ち塞がるはずだよ」


 臆病者と言ってしまえばそれで終わりだが、元々この人達はただの一般人だ。それも割合で言えば高齢者の方が多い。

 争い事とは縁のなかった人に、いきなり武器を渡して高確率で死ぬかもしれない戦いに向かえと言えるはずもないだろう。


 だから用心棒や護衛クエストを依頼して冒険者が出向くのが普通なのだが、このナラタ村では害獣すらも出ないからそのようなクエスト依頼も出していなかった。

 結論から言えば現状でまともに戦える者はナラタ村にはいない。そして他の冒険者も当然いない。


 いるのは初級クエスト用の魔物相手に戦績全敗の真道幸輝と、攻撃手段を持たず支援魔法しか使えないリゼという初級冒険者二人のみだ。

 状況的には最悪も最悪。村の誰もが逃げて隠れるを選んだのも、抵抗して殺されるよりかは黙って金目の物や食料を盗られる方がマシだという、ある種の最適解だったのかもしれない。


 それでも、だ。


「……盗賊の人数は聞いてるか?」


「き、聞いた話だと七人だったはず……」


「武器は?」


「え? えっと……確か大きい剣や短剣、弓とか持ってたって言ってたけど……ちょ、ちょっと待ってくれ、それを聞いてどうするつもりなんだ……?」


「もちろん、戦うんだよ」

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