26.クエストへ(11)
とりあえず場所を変えることにした。
ここは村長の家だ。さすが村の長というだけのことはあり、他の村人達の家よりかはしっかりとした木材で造られた立派な家となっている。
背負っていた荷物を床に置いてひとまず自己紹介。
「えっと、ラーノから荷物の配達クエストで来た冒険者の真道幸輝です」
「同じくリゼですっ」
二人してちゃんとギルドから持ち出してきたネームプレートを見せる。それを村長とやらが覗き込んで確認する。
こんなので本当に自分が本物の冒険者だなんて分かるのかと半信半疑になっていると、
「ふむふむ……そちらのリゼという方は冒険者と確認できましたが……そちらの少年は本当に冒険者なのですか? ネームプレートの文字が光っておりませんで」
「え?」
「ああ、そういえば幸輝は魔力ないからネームプレートも反応しないんだったね」
見ればリゼのネームプレートに書かれてある文字はうっすらと光っていた。
確か受付嬢のサラも言っていたはずだ。ネームプレートには特殊な魔法ペンで名前を書くから、本人が魔力を込めないと反応しないって。
どうやら現在魔力がない幸輝は冒険者だという証拠すら見せられない、むしろネームプレートを持ってるばかりに逆に怪しまれるという信用問題に関わるとこまで発展していた。
普通にマイナスイメージすぎる。
「ネームプレート何の役にも立たねえじゃねえかッ! これで怪しまれるならもう俺はどうすりゃいいんだよーう!」
「なるほど、魔力を持たない人がいるとは……これはこれは珍しい事もあるのですなぁ。何、心配は無用です。木箱の蓋にギルドの焼き印も確認しましたので、あなたも本物の冒険者なのでしょう」
「さすが村長っ、話が分かる人で良かった! これで俺だけ認められなくて報酬なかったらどうしたもんかと!」
「その時はその時で私が幸輝に奢ってしんぜよう〜! はーはっはっ! 幸輝が私にこうべを垂れたくなる日も近いかもね!」
「我が家の家計をいつも切り詰めてやり繰りしてるの誰だと思ってんだボケリゼぇッ!!」
「魔物から逃げるために支援魔法かけたりクエストで一番活躍してるのは誰のおかげだと思ってるのかなぁ!?」
「リゼさんいつもありがとうございますッ!!」
何の迷いもなくこうべを垂れた。
見習いとはいえ女神さまさまである。
「ほっほっほ、今まで色んな冒険者の方に荷物を届けに来てもらいましたが、こんなに仲が良く元気な冒険者はあなた達が初めてですわい」
「あ、騒いじゃってすいません……」
「なんの。平和で元気なのが一番ですよ。毎日外で走り回ってる子供達の大声と変わりませんで」
遠回しに子供と同レベルと言われたように聞こえたのは気のせいだろうか? いいや遠回しでもないか。
一旦落ち着いたところで届いた荷物に間違いはないか村長に中身を確認してもらい、正式にクエストは完了ということになった。
「お二方、どうもありがとうございました。この村は二百人程度しか住んでおらず農林業と畜産業のみをやっているので、村自体には他の街にあるようなお店というのがまったくありませんでなぁ。なのでこうして定期的に雑貨や調味料、薬品などを送ってもらってるんです」
「なるほど、確かに店らしい店は見かけなかったな」
「でもそのおかげって言っちゃなんだけど、私達みたいな駆け出し冒険者がこうして初心者クエスト受けられる訳だもんね」
「ほほほ、そう言われてみればお互いにとっても得のある関係ですかな」
もしかしたら定期的にこの配達クエストをするのは幸輝達になる可能性が大いにあるので、何だったらお得意様になってもおかしくはない。
「鍛冶屋とか薬屋とか、他の事業はやらないんですか? それで不便に思ったりとか……」
「ええ、小さな宿屋や治療院などはありますが、施設はそのくらいです。ナラタ村は土地的に農林畜産業こそ合っているので」
「合ってる……?」
「ここへ来る前、ナラタ村は魔物がほとんどいない安全な村と聞かされていませんでしたか?」
「ああ、はい、だからこそ初級冒険者が受けられるって」
じゃないとまずこのクエストなんか受けなかったはずだ。
ラーノからの距離、安全性、冒険感を鑑みた結果、今回はこのクエストが自分達に合っていると感じた。
「その通りです。この村は森に囲まれつつも畑を荒らす害獣も少なく魔物が現れたことはありません。なので何かに怯えることなく森で林業もできますし、家畜達も外で伸び伸びと育てられる訳です」
「だから畑も放牧場もでっかいんだ」
「そうです。何よりナラタ村に住んでいる者達はこの仕事に誇りを持ち、皆やりがいと共に楽しくやってくれている。ナラタ村で作られる全ての物は他の街にも評判が良いので全体的な稼ぎ自体も悪くはありません。だからこそ村の規模自体は小さいものの、最低限の施設と街とやり取りできる手段があればあまり不便と感じることはないのです。もちろん、村の者には時々欲しい物を聞いて街から取り寄せたりなど、可能な限り不自由はさせずにやってるつもりですよ」
何となく、この村が平和な理由が少し分かった気がする。
ここにいるのは自分の仕事に誇りを持っている人が多く、村人の気持ちを尊重してくれる長がいて、何かに怯える必要のないストレスフリーな環境が整っているからだろう。
ほとんど田舎だから魔物も来ない。しかし土地は広いから思う存分農業などに力を入れられる。
それに稼ぎもいいのなら、のどかで平和なナラタ村は子供や老人が住むにはうってつけの環境だろう。
「けど家くらいはもっと立派なものにすればいいと思うんだけどな〜。雨の時とか大変じゃない?」
「ほほほ、それは私も感じていますので、現在村の家を順に改築している途中なんですよ。そのためにそこかしこに木材など置いてあるのです」
「家の環境がもっと良くなれば今以上に村の人達もやる気出てくるかもしれないしガンガンやるべきだよ!」
(なんでこいつが熱心になってんだ……?)
そういえばここに来る途中にも荷車に角材を乗せた村人を見かけた。ただいま村全体で大規模なリフォーム中なのだろうか。
と、ここでふと時計に目がいく。
「おっと、もう十時過ぎか。リゼ、そろそろお暇しよう。ラーノで昼飯食ったらもう一つくらいはクエスト行けるだろ」
「え〜クエストは一日一個じゃないの〜……?」
「少しでも貧乏な我が家の食事をマシにしたいなら頑張りなさい。それにこのクエストに関しては荷物は俺がずっと背負ってたろ。お前はほぼ馬車に乗ってただけで終始楽してたじゃねえか。文句言うな」
「ちぇ〜」
何故魔法やらへの知識欲はあるのにクエストに対する向上心はないのだこの女神。
これから食事に関しては一切文句を言わせないでおこうと決心する真道幸輝。リゼにはそろそろ人間の暮らし方を勉強させた方がいいかもしれない。
「お帰りになられますか。いやはや、本日はありがとうございました。どうかお気を付けて、またお会いできる日を待ってますぞ」
「多分次の配送クエストも俺達が行くと思うんで、その時にまた」
会釈をして村長の家を出る。
外に出れば畑仕事を終えた大人達が談笑しており、子供達は今もそこら辺で拾ったであろう木の枝を持ちながら走り回っている。
ラーノの周りには魔物はいないという話だったが、もしかするとラーノ付近にある村や街にも魔物はほとんどおらず平和なのかもしれない。
村の出口まで行くと行きと同じように馬車が待っていた。この村も安全だからか周りを囲うような塀も一切ない。魔物達もわざわざこんな辺境の村まではやってこないという訳か。
「ではラーノに向かいまーす」
ラーノ行きの馬車に乗りゆっくりと進み出す。
そういえば馬車のスピード自体は行きもそんなに早くはなく、どちらかと言うとゆっくりだった。だから着くまでに一時間もかかったのだ。
多分早くするとその分行きよりも馬車の中はガッタガタ揺れてしまうのだろう。それだと余計リゼが眠れなくなってしまう。別にどうでもいいが。
おそらく少しでも冒険者に負担をかけないようにするという御者なりの気遣いなのだろうと、幸輝は村から離れていく景色を窓から眺めながら適当に結論付けた。
そして。
「逃げろぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!!!」
突如としてナラタ村から叫び声が聞こえてきた。




