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24.クエストへ(9)

「ん? ……おお、セレナか」


「あ、セレナだ! おはよ~!」


「はいおはよ~」


 軽いあくびを交えながら返してくるセレナを尻目に、幸輝はセレナの後ろにいる馬車を見ていた。

 朝の時間帯に馬車から降りてきたということは……。


「そっちはクエストの帰りか?」


「まあね。ちょっと遠めのとこだったから朝帰りになったのよ」


「夜通し馬走らせてたのかよ。かわいそ~……」


「途中途中で人馬共々休憩してたに決まってるでしょ。夜走ってて魔物に遭遇しても複数の冒険者が護衛の代わりになるから心配もない訳。何より私もいるしね」


「さすが上級冒険者様は言うことが違いますな~。頼りになりますこって」


 上級冒険者なんて幸輝からすれば雲の上の存在みたいなものである。最底辺の自分にはおそらく一生縁のない称号だろう。


「何ちょっと不貞腐れたような言い方してんのよ……。それで、アンタ達は今からクエスト?」


「うん、隣村のとこまで荷物届けるだけのおつかいクエストだけどね」


「ふーん、まあそれなら馬車移動だけだし戦闘もなさそうだから比較的安全か。隣村までなら魔物も滅多に出ないらしいしね」


「セレナほどの冒険者なら隣村くらいまで荷物持って飛んでけるし自由にスピード出せて楽そうだよなぁ」


「案外そうでもないわよ。空を飛べるって言ってもスピードを出せば出すほど魔力の消費量は増えるから、ずっとトップスピードだと消費自体は少量でも後々魔法を連続で使ってるような感じになってくからね。戦うことも想定しておくとあんまり多用はできないの」


「マジで? 案外メリットばかりでもないんだな」


 商人や他の冒険者が幸輝達よりも先に数組いたため、自分達の乗る馬車までの順番はまだありそうだ。

 軽いあくびをまた一つしているセレナを見るに、夜に走っていた時もこの少女はあまり寝ていなかったのだろう。上級冒険者だからと、自分が一番強いと分かっている状況で夜に寝てしまうのは確かに気が引けそうだ。強すぎる冒険者というのも考えものか。


「ちなみに魔力切れとかになったらどうなんの? 倒れたり意識失うとか?」


「さすがにそこまではならないわよ。一応人にもよるけど……例えば全力で走り切った後のような感じになる人もいるわね。あとは普通に魔法を使えなくなったりはあるわよ。私は後者ね」


「ふーん、色々あるんだなー」


 魔力ゼロ少年、魔力がある感覚も切れる感覚も分からないので聞いたくせに上の空みたいな返事しかできねえのだった。

 ほぼ夜更かし状態だったせいかセレナは再度あくびをしながら、


「そういうアンタは何か魔法の一つでも覚えたの? 確か光魔法だったわよね。それとも魔力ゼロのまま?」


「覚えてたら多分最初に自慢してると思う」


「ああ、そう……貴重な光魔法を使えるなら試しに手合わせとかしてみたかったんだけど、道のりはまだまだ遠そうね~」


「もし覚えたとしても遥かに格上のお前と手合わせとか余裕でこっちがボコられる未来しか見えないんですが!?」


 多分一分も経たない内にのされて終わる。


「そこまで本気ではやらないわよ……。じゃあリゼは? 何かしらの魔法は覚えたの?」


「うん、身体強化に盾の魔法でしょ〜あとは回復魔法も覚えたよ。そのおかげでサポートもできるようになったから少しの遠出ぐらいならできるようになったんだ~」


「えっ? 回復魔法覚えたの? やるじゃない!」


「そこまで大袈裟になることか?」


「知らないの? 回復魔法って支援魔法の素質がある人でも覚えられる人が少ないから割と貴重な存在なのよ? どうすんの~コウキ、リゼは順調そうみたいだけど?」


「んなの俺が聞きてえっつうの……」


 同じクエストを受けてるはずなのにこの言われようはおかしいと断固抗議したい気持ちを抑える。

 これならいっそ光魔法なんて大それたモノじゃなくて、まだ普通の魔法の方が良かったと思ってしまうのも無理はない。真道幸輝、いまだに冒険者にあるまじき一般人程度のレベルである。


 そんな凡人少年はセレナの周囲を見てふと疑問に思い、話を逸らすついでに聞いてみることにした。


「つうかお前ってクエストに行ってたんだろ? 仲間とかいないのかよ。パーティー組むなら基本的に支援者(サポーター)が必要なんじゃないのか?」


「うん? ああ、普通の冒険者ならね。私みたいにある程度強くてギルドから認められた上級冒険者は一人でもクエストを受けられるようになってるのよ。もちろん無理のない範囲のだけど」


「友達いねえの?」


「いるわ! 普段は友達と四人編成でクエストに行ってるっての! 今回はクエストの難易度的に私しか受けられなかったから一人で行っただけ」


「え、でもそれって討伐系だったら怪我とか危ないんじゃね? 防御魔法とか回復魔法も使えないんだろ。もしもの事があったらどうするんだよ?」


「実力者は大体魔力の扱いに長けてるみたいなのは前にも言ったわよね。うーん、見た方が早いか。ほら、私くらいになればこのぐらいの事はできるの」


 そう言ってセレナは手を前にかざす。

 すると突然かざした手の前から薄い緑色の風のような何かがぐるぐる回るように円の形を形成した。

 それはまるで。


「……風の、盾?」


「そういう事。上級者になればなるほどこういった自分の属性を応用した魔法ができるの。相手の攻撃を防いだ後は盾をそのまま敵に放てば攻撃にもなるしね」


 まさに自分の身は自分で守るを体現しているということか。

 しかしそれでも怪我のリスクはゼロじゃない。軽傷なり重傷なりを負ってしまえば命の危険度は致命的にまで跳ね上がるはずだが、そこはどうしてるのだろう。


「まあ、最悪ダメージは負っても死ななかったら身を隠したり逃げる事だってできるわ。そうならないためにクエストの難易度とか内容の事前チェックをしておく訳」


「回復できるアイテムとかねえの?」


「薬草で作れる簡易的な血止めとか傷薬くらいならね。そんな便利な物があったらみんなこぞって買いに来てすぐ売り切れるんじゃない?」


 ゲーム世界のアイテムって何だかんだ便利に作られてるんだなーという感想しか出てこなかった。

 だから回復魔法が使える支援者サポーターは貴重なのか。


「あ、幸輝、もうそろそろ私達の番だよ」


「了解。サンキューセレナ、良い暇潰しになった」


「はいはい、私も多少眠気が覚めたしギルドで朝ご飯食べて帰ろうかなー」


 よほど楽しみにしていたのかそそくさと自分達の乗る馬車へ向かっていくリゼの後ろを歩いていく。

 と、後方から声があった。


「あ、そうだ」


「ん? どうかしたか?」


「そういや前会った時に聞こうと思って忘れてたのよね」


 前となるともう初対面の時だが、そんな自分達に聞くことなんてあるのだろうか。


「実は探してる人がいるんだけどさ、アンタ達って遠くから来たんでしょ? その道中で変わった服の人見かけなかった? 黒いコートを着て右肩にだけマントみたいな布を付けてるんだけど、下に何か装着してるのかちょっと膨らんでるらしいの。それで右腕だけはあまり見せないって……そんな感じの人、見たことない?」


 街の近くに転移してきてすぐラーノにやってきたから、そもそもこの街の人としか会ってないとは言いづらい雰囲気だった。

 思ったよりちゃんとした人探しをしているようだが、当然そんな人とは会ってない少年としてはそれっぽい事を言うしかない。


「いや、見たことねえや。普通なら黒いコートって目立つと思うけど、冒険者とかでもそんな感じの服装してる人って多そうだから、もしすれ違ってても覚えてないだけかもしれないな。力になれなくて悪い」


「そっか。まあそんな簡単に見つかるとは思ってないから全然いいわよ。こっちこそ悪いわね、引き止めちゃって」


「別にいいよ。んじゃ行くわ」


「一応気を付けて行きなさいよー。隣村だから危険はあまりないだろうけど、絶対はないと思って油断はせずにね」


「上位階級が言うと説得力あるな……。つっても適度に緊張感持っていきゃいいんだろ。肝に銘じとくよ、それじゃあな~」


 セレナと別れ馬車の中に入る。

 リゼの隣に座り荷物を置いてひと息つくと、御者から声がかかった。


「それではナラタ村へ向かいまーす」


「とうとうだね幸輝っ。よーし、隣村へ~しゅっぱーつ!」


「お前は子供か黙って座ってなさい」


 普通にやかましい女神へチョップする。

 まるでチョップが合図だったかのように馬車が走り出す。


 真道幸輝と女神リゼ。

 駆け出し冒険者二人の初めての遠出が始まった。

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