23.クエストへ(8)
朝食の用意をしている最中の時だった。
「なあ、そろそろこの街から少し離れたクエストに行こうと思ってるんだけどどう思う?」
「良いんじゃないかな? この街で私達でもできる依頼が毎日ある訳じゃないし、簡単そうな採取クエストとかあるなら遠出するのもありだと思うよ」
「討伐クエストは散々だったもんな……」
スライムの討伐クエスト失敗から二日後。結局は採取クエストが一番安全ということを再認識し、少しずつ魔物も出る範囲まで採取しに行って魔物と遭遇すると目的の物を取って即逃げるを繰り返していた。
たまにリゼから強化魔法をかけてもらいイノシシ型やオオカミ型の魔物と戦おうとしたこともあったが、今の幸輝にはまだ殴っても倒せる程のダメージを負わせることすらできずに余計怒らせて逃げる羽目になったりしたのだ。
ラーノ付近に生息している魔物は弱いで有名なはずなのに、それすら倒せないとなるといよいよ自信がなくなる。
変にやる気が削がれる前に心機一転、行ったことのない地域に出向いてみるのも悪くないだろう。もしもの事があっても逃げ足だけは早くなってる気もするし大丈夫だと思いたい。
幸輝は市場で安く買えたキャベツを包丁で千切りにしながら、
「で、昨日サラさんに聞いたんだけど、少し離れたとこの村に荷物を届けるクエストがあるって言ってたんだよ。いわゆる配達みたいなもんだな。荷物も俺が何とか背負えるくらいだし、馬車で一時間くらい乗ってるだけでほぼクエスト完了だから結構良い話だと思わね?」
「初めて馬車に乗れるの!? 乗ってみたい! ゆらりと揺られながら馬の足音だけが響くのを聞いて寝てみたかったんだ~!!」
「何で寝る前提なんですかねお前さんは」
クエストだっつってんのに呑気に寝るなんてご法度でしかない。
というか馬車って道が悪かったり走り方によってはガタガタ揺れてまともに寝られないような気もするのだがどうなのだろう。その辺は実際に乗ってみないことには分からないか。
「とにかく、サラさんには今のクエストを予約しといてくれって言ってるから朝飯食い終わったらすぐギルドに行くぞ」
「りょうかーい。馬車の中でお昼寝するの楽しみだな~! 早く朝ご飯作ってね幸輝! 往復に時間かかっちゃうんだからさ!」
「だったら少しはお前も手伝えこの野郎!! 魔輝石に魔力込める時しか役に立ってねえじゃねえかッ!! せめて皿とかお椀くらい出しなさい!」
「うぇ~……」
ツッコミの勢いでダンッ!! と包丁で強くキャベツ諸共まな板を叩く。
これ以上口うるさく言われるのを回避したいのか、リゼは少し面倒そうにしながらも食器棚から盛り付けるためのお皿などを出していく。
(……ん?)
そして幸輝は自分の手を見ていた。
正確には包丁を持っている自分の右手を。
「幸輝、お皿これで良いの?」
「……え、ああ、そこに置いといてくれ。あとはコップに水入れてテーブルに持っていってくれればいいよ」
「はいはーい」
(街の人達が食材恵んでくれてようやく生活できるレベルか……)
お皿にサラダや最初に焼いていた目玉焼きを乗せていく。ある程度必要な衣服や物を買い揃えてからは、毎日の食事も最低限マシなものを食べれるようになった。
と言っても手伝いやらクエストやらで市場の人達と交流していく内に仲良くなり、気付けば食料などを安く売ってくれたりおまけしてくれたりとサービスのおかげでもあるが。
愛想の良いリゼがいれば特に老若男女問わずおまけをくれるから家計の助けになっている。
異世界に来てから少し経つが、気付けば簡単なクエストで街を駆け回っている間にラーノの地理は大体覚えたし、毎日のように誰かと会っていたので街の人達とは結構仲良くなっていた。
最底辺階級の冒険者だからこそのクエストばかりで報酬も安いけれど、親密になれば交流も増え商いをする人からはそういったサービスを貰えることも多い。
そこばかりは見た目美少女のリゼに感謝している。幸輝だけならこうはいかなかっただろうし。
「後々遠出するクエストも受けていくなら、食品を保存するために冷蔵庫も欲しいけどそんな感じのやつって売ってんのかな」
「探せばあるんじゃない? 氷の魔輝石を使った冷蔵庫くらいならあるはずだよ。ほら、この前ギルド内の酒場で働いてた時のキッチンにもあったでしょ」
「あー、そういえばそんなのがあったような……。よし、なら次買うのは安めの冷蔵庫にしよう。食料の保存は生活する上で必須だもんな」
「そのためにはまず保存できるくらいの食材を買えるようにならないとだね」
「よせやい、泣けてくるだろ」
痛いとこを突いてくるが事実なので何も言い返せない。
遠くのクエストに行く際は魔物に遭遇した時のためにリゼの魔法が欠かせないのだ。身体強化の魔法で全速力でなら街付近の魔物からは逃げられることも既に実証済みである。
つまりリゼはもうパーティーにおいて重鎮レベルの存在。
何もできない平凡少年など精々荷物持ちを頑張ることくらいしかできないのだ。才能の有無が憎い。
──
さて、朝食や支度諸々を済ませた幸輝達はギルドに向かってから取っておいてもらっていたおつかいクエストを受注し、届ける荷物を受け取ってから街の出口付近までやってきていた。
冒険者や商人などが馬車に揺られながら出入りする光景も、今となっては既に見慣れた景色の一部になっている。
しかし今回唯一違う所があるとすれば、それはいつも徒歩でクエストの現地に向かっている幸輝達も今日はこの馬車を使用するという面か。
何気に異世界にやってきてから初の馬車である。むしろ今までずっと未知の世界を自分の足だけでやり繰りしていた事を褒めてやりたい。
「やっと楽に移動できる日が来たのか……」
「このクエストが終わったら私はもう自分の足で現地に向かえない体になってるかもしれない。だってまだ乗ってないのにもう感動で少し涙が出てきたもの!」
「遠回しに次回から徒歩で向かうクエストはやらないみたいに言うのはおよしよリゼさんや。どうせ今回のがラッキーなだけだって。これが終わりゃいつもの徒歩移動だよ」
「それが嫌なんだってばー! もうっ、さっさと幸輝も何かしら魔法覚えてよ! このままじゃ討伐クエスト行けなくてずっと貧乏暮らしのままなんだけど!」
「覚えられるなら今すぐにでも覚えたいっつうの! でも魔力さえ増えないんだから仕方ねえじゃん! スライムにさえ殺されそうになったの知ってんだろ!? あれ結構トラウマなんだからな!?」
「まったく、朝からギャーギャー元気ね~アンタ達は」
わがまま女神と言い争っていると、馬車の方から降りてきた人物がこちらに向かって声をかけてきた。




