表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/55

22.クエストへ(7)

 あれからまた三日が経過した。

 採取クエストをメインにしつつ街から少し離れた場所へも何とか行けるようになってきて、いよいよ魔物が出そうな範囲の森林まで採取しに行った事もあった。


 ちょっとでも魔物の気配を感じれば全速力で逃げ、毎日の食事と生活必需品を買えるように必死にやり繰りしながら今日に至る。

 でもっていつも通り採取クエストのために街外れの場所までやってきた幸輝とリゼ、という訳ではない。


 今日は異世界にやってきてから初の討伐クエストである。


「この辺にいるんだよな?」


「川の近くにいるって言ってたからそのはずだよ」


 川付近にある草の茂みに身を潜めつつ、周辺を警戒している最中であった。

 討伐クエストと言っても危険はなるべく減らしたい。そのためにまず相手より先に自分達がターゲットを見付ける必要がある。


「どんな魔物か聞いとけば良かったな」


「クエスト用紙には雑に簡単な魔物討伐としか書かれてなかったもんね。難易度は初級のクエストだから私達でも何とかなる()()ってサラさんは言ってくれてたけど」


「あの人武器使えない俺に魔物倒すの厳しいとか言ってたはずだろ。自分から受けちまったからもういいけどほんとに大丈夫なんだろうな……」


「いざとなったら私の魔法でサポートするしいけるよきっと。幸輝も日頃の鬱憤晴らすためにボッコボコにしちゃって!」


「もう何個か魔法覚えたお前は良いよなー。こちとらまだ何もなしだってのに」


 そう、この数日間でリゼはまた魔法を覚えていた。

 身体強化(ブースト)の他に回復魔法の治癒(ヒール)、薄い透明のガラスのような盾を出す具現型の防御魔法(シルド)など、支援者(サポーター)として順調に成長しているのだ。(シルド)に関してはギルドの書庫にあった魔法学の本を読んで練習したらしい。


 一方で『光魔法』という二極魔法の片方を使える予定の真道幸輝は、未だに魔法の一つも覚えていなかった。何なら魔力も増えてる様子が全然ない。

 つまりはステゴロ上等でクエストに挑んでいる訳である。


「ほらほら、魔物を倒せば何か変化あるかもしれないんだから頑張ろうよ。そのためにも来たんでしょ」


 リゼばかり魔法を覚えるものだから若干不貞腐れてきた頃、ならばいっそ討伐クエストを受けて一気に実戦経験を得ようと言ったのは彼女だ。

 地道にコツコツと、と思っていた幸輝でもあったが全然魔力が増える気がしなくなってきたため、苦渋の決断でこのクエストを受けた。


 受付嬢のサラも渋々ながら応援してくれたのを覚えている。初級クエストで苦笑いされながら応援される冒険者なんて多分この世界でも自分達だけだろう。

 ため息一つ吐きながら川を見渡す。第一の目標は魔物を見付けて倒すことだ。惨めな気持ちになるのは帰ってからで良い。


「(……いた。魔物ってあれかっ)」


 気付かれないように声を抑えながらリゼにも言う。

 川の側に一匹の魔物がいた。実物を見るのは初めてなのに何だか見覚えのあるようなシルエットでもあるのは、アレが元の世界では割と有名な敵キャラクターだったのもあるかもしれない。


「(水の雫のような形状……スライムだね。おそらくアレが討伐対象の魔物なんだけど……スライム、かぁ……)」


「(しめたっ、スライムと言えば雑魚中の雑魚モンスター。武器が使えない俺でも倒せそうなヤツがいたのは嬉しい誤算だな! リゼ、強化魔法頼む。周囲に仲間の気配もないし今の内だ。一匹なら倒せるはず)」


「うーん、何か忘れてるような……っと、はい、『強化(ブースト)』」


 徐々に力が湧いてくる感覚があった。

 足を踏み込んで一気に駆け出す。普通のスタートダッシュよりも数倍の勢いで前に出た。


 スライム程度の魔物なら一発、多くて三発殴れば倒せるはずだと判断して距離を詰めていく。

 元々数メートル程しかなかった間隔を身体強化された少年が一秒も経たずにゼロにした。


「お、らぁッ!!」


 そのまま目一杯力を込めた拳をスライムへ叩き込む。

 ボチャアッ! という音が辺りに響いた。強化された幸輝の拳がスライムの内部まで届いていたのだ。


 そして、何かを思い出すように唸っていたリゼがようやく顔を上げた。


「あっ、そうだ!」


「……あん?」


 女神の大きな声に思わず二発目を入れる前に振り向いた幸輝。

 むしろ、その不注意で命運が尽きたのかもしれない。


「この世界のスライムは中心部分に小さな核があるの! だから魔法とか武器で中にある核ごと壊すか斬らないとダメなんだよ!」


 え? という言葉を出そうとした瞬間、幸輝の目の前は透明な水色に塗り潰された。

 理由は単純。スライムがそのまま幸輝の顔を覆い尽くすように被さってきたからだ。


「がぼっ……ぼ、ぶ、ぼごぁ……っ!?」


 顔だけを綺麗に包み込まれ、冗談抜きに息ができなくなる。

 スライムのイメージからして粘着性のどろどろしたモノが口の中に入ってくるかとも思ったが、そんな事もなかった。多少の粘っこさは感じるがまるで水の塊の中に閉じ込められている感覚だ。


 突然の出来事に対して冷静な判断ができずにいた幸輝はもがき苦しむように両手でスライムを取ろうとするも、べちゃりと音を立てただけで後は水の中に手を突っ込んだだけのようになってしまう。

 簡単に言えば物理的に取れないのだ。どれだけ手で掻き毟ってもべちゃべちゃと音が鳴るだけである。


(ま、ずっ……このままじゃ溺れ……!?)


 完全に侮っていた。勝手に弱いと決めつけていた魔物はいとも簡単に真道幸輝を殺せる手段を持っていた。

 武器も魔法も使えないというだけで初級クエストのモンスター相手に初手で詰んでしまう。何故こんなのが初級クエストなのか。受付嬢のサラにもっとちゃんと聞いておくべきだったと今更後悔の念が押し寄せてきた。


 と、一人もがいていた少年を余所にどうするか考えていたリゼが茂みから出てくる。


「幸輝! 確かスライムは水に浸かると一時的に溶けて離れるはずなの。だから顔を川に浸けて!」


「がぼぼぼぼぼっ?」


 ただでさえ顔全体を覆われているのに、粘着性のあるスライムのせいでリゼの声が上手く聞こえない。

 何かを言っているようには見えるが、最初にもがきすぎて少し息苦しくなってきた幸輝には正確な聴力が働いていなかった。


 どれだけ体が強化をされても息ができなければどうにもならない。この状況を打開しないと待っているのはスライムによる溺死だ。

 それを察したのかリゼが幸輝の元へ走ってきた。


「声が聞こえないなら……仕方ないか。幸輝、悪く思わないでね!」


「……?」


 一直線だった。

 そのままリゼは女神らしからぬ態勢で跳び、幸輝を川へ蹴飛ばしたのだ。端的に言えば飛び蹴りである。


「ぼがあッ!?」


 見事にリゼの飛び蹴りがヒットし川へ放り出される真道幸輝。

 ザッパァァァンッ!! という音が周囲に響き渡る。傍から見ればもはや追い打ちのような気がしてならない。


「ふうっ」


 蹴り飛ばした張本人は川に飛び込んで相棒を助けに行く訳でもなく、ひと仕事終えた雰囲気で息を吐き川を覗き込むだけであった。

 その数秒後、少年が水面から勢い良く出てくる。


「あ、幸輝大丈夫だった? スライムは離れたみたいだね。水を吸って大きくなる可能性もなくはないけど、緊急処置だから仕方ないか。ふふーんっ、どお? 私のおかげで助かったんだから感謝の言葉くらいくれてもいいんだよ?」


 リゼの言葉を聞いてようやくどういう意図で自分を川に蹴飛ばしたのかは理解できた。

 おそらくああしないとスライムは離れなくて幸輝の命が危険だったかもしれない。事実、本当にやばいと思っていたのは幸輝自身だ。


 川辺まで戻りずぶ濡れのまま陸に上がる。水を大量に吸っているせいか着ている服一式が重い。体重が何キロか増えた気分だ。

 息もまだ切れているからか呼吸を繰り返す。するとリゼが近づいてきた。


「ねえねえ、お礼は? 感謝は? 今日の晩御飯私だけちょっとおかず多めにしてくれるのでもいいけど!」


 心配するのでもなくただただ対価をせがんできている女神が一人。

 確かにリゼのおかげでスライムは離れたし命も無事助かった。彼女の判断がなければ今どうなっていたか想像もしたくない。


 しかし、しかしだ。

 まずリゼは何故真道幸輝が今も黙っているかをもう少し配慮してよく考えるべきだったのだ。


 開口一番。

 びしょ濡れの少年は叫んだ。


「死ぬわあッ!!!!!!」


 スライムと女神、存在としては格が違う者達に殺されそうになった少年の叫びであった。


 初の魔物討伐クエスト。

 失敗。


もし「面白い」「次気になるな」と思ってくれた方がいたら評価していただけると狂喜乱舞します。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ