19.クエストへ(4)
数十分後。
幸輝とリゼがいるのは街の出入り口だった。
出入り口と言ってもマンガで見るような立派な城門はなく、そもそも城塞都市と言えるような街を数十メートルの石やレンガで囲む立派な壁はない。あるのは精々魔物除けとして五メートル程の石壁がある程度だ。
一応街の中と外の境付近には常に見張りがいたり、出入り口にも基本的には警備だか衛兵の者が配備されているが、元々幸輝とリゼがラーノにやってきた時普通に入れたように割と出入りは自由となっている。
それだけ外からの脅威とは無縁の街、という事だ。
さすがは駆け出し冒険者の街である。本当なら石壁すらいらないほど街の付近には魔物が出ないと酒場の女性店員が休憩時に言っていたのを思い出す。代わりにチンピラなどは良く来るらしいが。
「外とはいっても比較的街の近くだからみんな安全だって言ってたし問題ないか」
「いつも通りの採取クエストだしね。街を出て北の方の湖付近に生えてるお花をいくつか取ってくれば、後は戻ってくるだけで良いんでしょ? 思ったより楽そうだね!」
「そういうクエストを選んだからな。そこの湖付近には魔物もいないってサラさんも言ってたし、まだ手薄装備だから安全なクエストをこなす必要がある。しばらくはこんな感じの依頼を選んで外に慣れつつ装備を整えていかないと」
リゼが魔法効果の増幅ができるペンダントを首から提げ、幸輝は学ランの袖の下に斬撃や魔物からの噛みつきなどを防ぐアームガードという防具を着けていた。
学ランの袖の下に着けられるほど薄くて柔らかい材質の防具だが、その機能性とフィット感はバッチリだとムキムキな店員が言っていたから大丈夫なはずだと思いたい。
相変わらず学ランなのは他に替えの服もなく、学ランは何となく生地が厚いから少しでも防御力を確保しておきたいと思った命が惜しい少年の心許ない判断である。あとこの世界に来る前、大女神のレヴィリエが服装におまけをどうのこうのと言っていたのを思い出したからだ。もしかしたら何かしらの効果持ちになっているかもしれない。
それに何もないよりは断然マシだろう。ちなみに防具はこのアームガードしか買えなかった。何なら無理を言って少し値引きしてもらったくらいである。全体的にお金が足りないのだ。
「違和感は特にない、か。普通に動かせそうだな」
腕を曲げたり回したりと、何となく動きに支障はないか確かめてみるも不便さは感じなかった。
よし、と確認も終わったところで荷物を載せた荷馬車や他の街に出向くのか護衛なのか、人を乗せた馬車などが出入りしているのを見る。
「今日は近場の湖だから馬車とかは乗らなくていいんだよな?」
「うん。むしろこの距離で馬車乗せてってとか頼んだら普通に自分で歩けって言われるかも。お金いっぱい払ったら送ってくれるかもだけどね」
「さあ元気に歩いていくぞー」
お金の話題になるとどうも現実から目を背けたくなる。これが元の世界で平凡な高校生をしていた少年とは思えない考えだろう。あまりにも世知辛すぎた。
馬車が出入りする横を幸輝達は徒歩で通り過ぎ街の外へ向かう。
辺りを見渡しても建造物は一つもなく、目立った舗装もされていない地面や草原といった広大な自然が目の前に広がっていた。
遠くには森林や山も見えるが徒歩だとどれくらい時間が掛かるか分かったものではない。
(そういやクエストとかで遠いとこに行く際の馬車代ってギルドが払ってくれんのかな? もし冒険者側の負担だったら痛手にならない程度の出費にまけてもらえると助かるんだけど)
今は少しでも出費を少なくしたい時期だ。
クエストに慣れてきてできる限り安全かつ稼げる依頼があれば、生活もちょっとは安定して色々やりくりできるかもしれない。
「なあ、ペンダント買ったのはいいけど肝心の魔法は覚えられたのかよ? 効果の増幅って言ってもまず魔法覚えてないと意味とかないんじゃねえの?」
「ん~まだ何も覚えてないよ」
歩きながらリゼが軽い返事をする。
「私達がやったクエストは敵を倒してもないし肉体的に成長になるような事は肉体労働くらいしかほとんどしてないからね。難易度によって経験値が変わるのはゲームとかでも同じでしょ? やっぱり魔法を覚えたり魔力を増やすなら修行か実戦経験で体を酷使するのが一番効果のある手段なんだよ。あとはとにかく時間が必要なの。覚える速さは人それぞれだけどね」
「マジかよ……ますます俺達の異世界生活難易度が高くなるじゃねえか……」
やはりアルバイト程度のクエストをこなしたところで簡単に魔法を覚えたり魔力が増える訳ではないらしい。
リゼが言いたいのはこういう事だろう。例えば数時間かけて行う様々なトレーニングと数分程度のトレーニングでは得られる経験や成長速度が明らかに違うのだという事。
あとどれくらいで成長するのか可視化できれば分かりやすいのだが、まさしくそんなゲームのような画面は出てきてくれない。それに戦闘や修業も今の幸輝には難易度が高すぎる。
これに関してはもうクエストの数をこなして地道にコツコツと頑張るしかないだろう。
(最優先はリゼにさっさと魔法を覚えてもらう事ってのは当初と変わらない。防御系でも身体強化系でも良い。自分達に何かがあった時でも対処できそうな魔法さえあれば、ピンチを切り抜けられるチャンスは作れる訳だもんな)
そうなるとやはりたくさん体を動かすクエストがいいとして、歩く距離だけでも稼げそうなのは街の中ではなく外でできるクエスト。まずはこれが前提条件。
街の外のクエストにはそれなりの危険性というものが必ず付いてくる。どこでどんなトラブルに巻き込まれてもおかしくはないのだ。
それ故に魔物や盗賊と遭遇し戦闘になる可能性だって十分にある。そうなれば例え勝てなくて敗走したとしても戦闘経験として脳に記憶される。そう、大事なのはあくまで勝つ事ではなく少しでも戦闘をしたという事実と経験だ。毎日走っていればスタミナがつくように、生存本能と肉体を酷使することで魔力が増える可能性だってあるはず。
ノーリスクハイリターンなんて都合の良いクエストは存在しない。少なくとも魔力を増やし魔法を早く覚えたいなら多少のリスクも負うべきと考える必要がある。
「これからは外のクエストに絞るか~」
「何かと戦わない限り魔法を覚えるまで時間がかかるってのはあまり変わらないけどね」
「だとしても今の俺達は駆け出し冒険者であってレベルで言えばゼロか一だろ? なら次のレベルアップはその分早くてもおかしくはないんじゃねえの? あくまでゲーム理論の話になるけどさ」
「あー、確かにそれはあるかも……あるのかな?」
さっき経験値の事でゲームに例えていたのはリゼ自身だ。
ならばそれと同じでクエスト初心者である今の方が成長する速度も早いはずである。どのゲームも序盤の内は大体すぐにレベルアップするものだし。
「だったらそろそろ何かあってもいい頃合いだよなー。採取クエストとかバイトみたいなものばっかとはいえ、ちゃんと体は使ってる訳だし、俺はともかくリゼには変化があってもいいと思うんだけど」
「じゃあこのクエスト終わったら案外魔法覚えたりしてね!」
いったいどういう原理で魔法を覚えたりするかはほとんど分かっていないが、案外こういう前兆のようなものを直感的に感じるのが成長の一歩手前だったりするかもしれない。
思いっきり勘なので証拠も確信も一切ない訳ではあるが、そう思うことでやる気を出すのは悪くない手段でもある。何事もモチベーション維持が大切なのだ。ちなみに若干やけくそポジティブ思考なのは内緒である。こう考えていないとやってられない。
「ならさっさとクリアしてどうなるか確かめてみるか」
「湖ももうすぐそこだしさっさとお花詰んで帰ってご飯食べよー!」
「あるのはスープだけだけどな」
貯めていたお金は全て装備に消えたので食材を買うことはできなかった。
なので今日も今日とて残っている消費期限ギリギリ過ぎてるであろうコーンスープの出番だ。今日全部飲まないとそろそろやばいかもしれない。ここら一帯が腐りやすい真夏の温度ではなく基本的に春のような気温で過ごしやすいのがせめてもの救いだった。
今回のクエスト報酬ではさすがに何か食材を買うかと考えながら歩いていると、湖が見えてきた。




