17.クエストへ(2)
ギルドに着くと同時に幸輝とリゼはクエストの依頼が貼られてあるクエストボードへ向かう。
「依頼自体は結構あるんだな」
「それが冒険者の職業だからね。依頼がないと仕事できないもん」
とは言ってもまず自分達でクリアできそうな依頼を見付けないと話にならない。
数ある張り紙をざっくり見ても大体は魔物の討伐や移動中の護衛など、普通の冒険者ならば当たり前のクエストしかないように見えるだろう。
しかし幸輝からすればどれも高難度にしか見えない。
推奨ランク下級の討伐クエストすらまともにクリアできない自信がある。
「もっとこう、近場で子供でもできそうな採取クエストとかないのかな? それで一週間分くらいの食費には困らなさそうなやつ」
「お前って仮にも女神のくせに結構せこいのな」
「仮じゃなくて本物だけど!?」
隣からいきなり抗議が聞こえてくるが目線はクエストボードから外さない。
あと周囲には一応他の冒険者もいるので大声は出さないでほしい。ただでさえ服装で浮いてるのに変な目で見られるのは御免である。
だが幸輝自身口には出さないものの、リゼと似たような事は考えていた。
初心者向け、駆け出し冒険者のためのクエスト。それに求めるのはいかに簡単で稼げる依頼なのかだ。
(本当に初心者向けならチュートリアルみたいにまず何の危険性もないクエストだってあるはずだ。じゃなきゃいきなり死んじまう可能性もあるんだから)
誰だって最初は初心者。どんなに凄い冒険者だって駆け出しの頃は簡単なクエストからこなしていたはずだ。
つまり、本当の初心者は武器も装備もないからそのための優しいクエストが用意されてないとおかしい。もちろん最初から持ってる装備資金の有無は別として。
「……マジで俺らでもできそうなクエストが見当たらないんだが。採取系はあるにしても山の中とか絶対魔物いるだろうし卵の運搬クエストってこれあれだろ? 絶対どっかの大型モンスター的なヤツのでっかい卵抱えて追いかけられるアレだろ。できる気がしねえ! もっとないのか武器もない輩に優しい依頼はあッ!!」
「声でかいよ幸輝、うるさいかも」
さっきまで大声で抗議してたくせに無駄だと悟ったのかクエストボードを見ているリゼが冷静に言ってきた。
内心とはいえ目立つ行為はやめてほしいと思ってた手前何も言い返せない。一旦深呼吸をする。
ギルド内は広い。幸い朝や昼からでも馬鹿みたいに酒を飲んで騒いでいる冒険者が一定数いるため、変な悪目立ちはしてないようだ。
冒険者。自分のやりたい時にクエストを受注すればいいので、決まった時間帯に出勤とかは特にないらしい。ある意味自由な派遣社員みたいなものか。
「あ、幸輝、これどう? 隅の方に貼ってあったやつ。これなら近いっていうかもうこの街の中だけどクエスト依頼あるよ!」
「なんだって!? 魔物も出ない街中でクエスト依頼とかあんの!?」
リゼが指差している紙を見てみるとざっくりこう書いてあった。
「何々……『採取クエスト。トウモロコシの収穫を手伝ってもらいたい。最近腰を痛めて屈むのも辛いからよろしく頼む。報酬は五〇〇〇ラル。店に出せないような少し傷んだトウモロコシなどは持って帰ってもいい。できれば三日以内に来てくれると助かります』……」
場所は街の東の方にあるらしい。この街の中にあるという事だから行く時間もそんなには掛からないだろう。
しかも採取クエストとは書いてても実際は探す手間もなくトウモロコシ畑にある物を収穫するだけで五〇〇〇ラル。少々傷んだ物ならなんと持って帰ってもいいときた。
異世界生活二日目から食糧難に陥っている幸輝達からすれば願ってもない依頼だ。
ただ気になる点が一つ。
「これクエストってかただの手伝いみたいなもんじゃね? こういうのを求めてはいたけどいいのかこれ。実は魔物じゃないにしろ害獣とかがいて収穫するのも結構大変とかそんなオチじゃないよな?」
「ええ、老夫婦の方達が耕している普通のトウモロコシ畑なので安心してもらって大丈夫ですよ」
返事は背後からあった。
聞き覚えのある声だと振り返ったらギルドの受付嬢さんだ。
「あ、受付嬢の人」
「どうも、受付のサラと申します。改めてよろしくお願いしますね♪」
ども、と幸輝は軽くだけ返してから、
「これってクエストって言っていいんですか? や、こちらとしてはありがたいんですけど」
「はい、これも駆け出し冒険者向けの立派なクエストですよ。まずは無理なくできそうなものからクリアしていただいて、どんどん自信と実績を積みつつ冒険者階級を上げていただければと思い、ラーノではとりあえず誰でもできるクエストを常に受けられるよう手配してるんです。そのクエストも今日入ったものですし。まあ毎日絶対あるとは言い切れないのが残念なんですが……」
「へえ、さすが駆け出し冒険者の街だな」
誰でもできるクエストというのはありがたいが、だからこそ毎日そんな都合よく依頼が来るとは限らないのだろう。
これに関しては幸輝も何も言うことはない。あれば運が良いけどない日はないで仕方ないのだ。
とにかく。
絶好のクエストを見付けることができたのは大きい。昨日の手伝いとほとんど変わらないような雰囲気だが立派なクエストだ。やらない手はない。
「じゃあこのクエスト受けます」
「はい、では窓口で手続きしますね」
「おー私達の初クエストだね幸輝! 何だか不思議とテンション上がってきたかも!」
そう、トウモロコシの収穫とは言ってもこれが幸輝達がやる初めてのクエストとなる。
受付嬢のサラが窓口で依頼書に判を押し、正式にクエストが受注となった。
始まる。
何だかんだで初めての異世界っぽい事ができるのだ。これには幸輝も少し気分が高揚していた。空腹のままということも忘れやる気が満ちてくる。
「ではあちらのクエストボードの横にあるご自身のネームプレートを取って出発してください。場所はこちらの地図を見ながらであれば分かりやすいかと思いますのでどうぞ」
サラからラーノの地図を渡され、ネームプレートを手に取る。
出発準備完了。
「じゃあ初クエストに行くか!」
「うん!」
記念すべき初クエストが始まろうとしていた。




