13.異なる世界(13)
見るに屈強そうな男二人がひ弱そうな男性に対して金を無理にせびっているようだ。
周囲に人がいないのを良いことに完全にオラついている。この世界では恐喝を罰せられるような法律があるかすら分からないが、見ていて良い気分ではないのは確かだ。
「武器とかは持ってなさそうだけど、どうするの?」
リゼが静かに聞いてきた。これが幸輝のいた世界なら迷わず助けに行くだろう。高校生レベルのケンカ程度なら慣れているし数人相手でも何とか臆さず立ち向かえる。
しかしここは異世界。ましてや相手は高校生でもなく筋骨隆々の厳つい大人が二人。
正直普通に殴り合って勝てる相手とは言いにくい。ヤツらが冒険者で戦闘慣れしていれば尚更だ。
下手すればせっかく稼いだなけなしのお金と食材まで奪われる可能性だってある。冒険者としての素質が全体的に低い幸輝とリゼでは何もできないだろう。ここでの賢い選択肢は何なのか、そんなのは誰がどう考えても分かる事だ。
そうした上で。
リゼの問いに真道幸輝は堂々とこう答えた。
「助ける」
迷いなく踏み出していく。
結局どれだけ考えても幸輝の中に見捨てる選択肢など最初からなかった。一度見かけてしまったらもう放っておけない。何が何でも助け出すの一択だ。
それが子供の頃、正義の味方というものに憧れていた少年の生き方であり、この異世界へ連れて来られた理由でもあるのだから。
背後から制止の声が聞こえてきた。
「え、けど私も幸輝もまだ魔法使えないしまともな装備もないんだよ!? 返り討ちにあうって! 幸輝が危ないよ!」
「だからって放っておける訳ないだろ。それに何も考えてない訳じゃない。袋持っててくれ」
抱えていた紙袋をリゼに渡して近づいていく。
あんな厳つい男二人に無策で勝てるなんてさすがの幸輝も思っていない。普通にやれば負ける事は確実。それでも向かっていくには理由があった。
(今は武器もないし魔法が使えないのも事実。だけど俺は普通の冒険者とは違う転移者だ。受付嬢の人が言うには隠された能力の中に『覚醒』ってのがあった。そのままの意味で取るなら俺の中の秘めた能力的な何かが開花するはず)
明確な確信はない。しかし自分だけの能力というなら特別な力のはずだ。
『覚醒』。それは何かのきっかけがなければ使えない能力とも取れる。覚醒するためには何が条件なのか。武器を持ってない相手なら基本死ぬ事はないだろうし、助ける事を最優先に考えつつここでヤツらには覚醒するためのきっかけになってもらう。
(強敵を前にしたら発動するのか、ピンチになったらなるのか、使用するには魔力が必要なのか。そもそも故意に発動できるものなのかすら分かんねえけど、比較的命の危険が少ない今なら能力を試すチュートリアルとしては最適な相手だろ)
困っている人を助けるために自分の力に目覚める。まさに今はそういったゲームイベントのような場面だろうか。
ここで『覚醒』をモノにすればこの先のクエストにも多少の光が見えてくるかもしれない。魔力が必要となればどうにもならないが。
何にしても助けるついでに新発見があればそれでいい。未知の力を掴めば未来は少しでも明るくなるのだから。
「おい、何やってんだアンタら」
「「あん?」」
綺麗に声を重ねながら厳つい男達がこちらに振り向いた。
何となく全身を見ても武器らしい物は見当たらない。世紀末に出てきそうな面をしてても人を殺すような真似をすればどうなるか分かっているのかもしれないが、油断は禁物だ。
「んだよ兄ちゃん? こちとらこいつに金貸してもらおうと思ってるだけなんだが、まさか邪魔するつもりじゃねえよな?」
「見てくれの悪ぃ大人が駆け出し冒険者の街でカツアゲとか恥ずかしい真似してんじゃねえよ。んなもんする暇あったら自分らのその無駄に鍛えた筋肉で土木作業だかクエストにでも行ったらどうだ」
「……ほう、言ってくれるじゃねえの。ならその責任をお前に取ってもらうとするか」
「恨むなら半端な気持ちで絡んだ自分を恨めよ?」
「……」
「っ」
男達が何かを言っている間に迫られていた男性にアイコンタクトと軽く顎を振ってジェスチャーをする。
それを察したのか、こちらに注意が向いている隙に男性は幸輝へ頭を少し下げてすぐさま走り去って行った。
「……チッ、逃がしたか。まあいい、まずはテメェだ」
「金目のもんは残らないと思えよクソガキ」
(金目の物なんてないに等しいけどな)
今の幸輝が身に付けているものとすれば、学校用の制服のみだ。それも学ランと半袖のワイシャツと中にTシャツを着てズボンを履いてるだけの完全に異世界とミスマッチな服装である。
まあこの世界に同じ素材がない限り、制服自体が違う素材で作られているから多少の価値はあるかもしれないが。
「何黙ってんだ? まさか今更ビビったとか言わねえよな?」
「ビビってたら最初から関わろうともしねえよ馬鹿かテメェら。もう少し頭使ってもの言ったらどうだ」
「こい、つ……!!」
「口だけは達者のようだなあッ!」
わざと煽るような事を言ってみるとまんまと引っかかってくれた。
シチュエーション作りはこれで完璧だろう。
(さて、これでピンチの状況は作れた。あとは上手く『覚醒』ってのが発動すれば何とかなるはず。さあ、どんでん返しの無双能力よ今こそ発動する時だぞー!)
運頼みの勝ち筋は決まった。ぶっ飛んだ力で相手を殺してしまわないよう極力手加減できるようにいつでも身構えておく。
そして最後に男達を煽ろうとして、
「はっ! やれるもんならやってみやがれってんだ。こっちにはとっておきの切り札があんだかぶがべぅッ!?」
渾身の一撃を喰らった。
更にそこから男の連撃は続く。
「がばぁっ、べう!! ばうぶぅッ、ごふっ、ばはぁッ!? ぶべっ、ばうぅッ!?」
もうボッコボコであった。二発目のアッパーを喰らってから体が宙を浮きそのまま連続で殴られる。
最後に頬に重い一撃を喰らって無様に引き摺られるように転がされていった。
その先にいたのはリゼ。
想定していた結果とはあまりにも違う展開になりもはや顔面不細工になりながら幸輝はみすぼらしく女神に助けを乞う。
「う、うぶぅ、や、やっぱ無理ぃ……。都合よく自分の力が目覚めるとか期待するんじゃなかったっ。リゼヘルプっ、今こそ女神の力を見せてくれえっ……」
タコ殴りにされた幸輝を見て、両手に紙袋を抱えた女神の少女はほぼジト目で哀れな少年を見下す。
こうなる事が分かっていたかのような顔をしていた。
「だから危ないって言ったのに、幸輝の自業自得だよ。それに私もまだ魔法覚えてないから何もできないし」
パートナーからありがたいお言葉を頂いた不細工少年は半ば涙目である。
魔法は使ってこなかったがあの男、普通にケンカ慣れしている。おそらくもう片方の男も相当の腕っぷしだろう。勝ち目がないのはもう十分分かった。
しかし当初の目的は男性を逃がす事。これは既に成功している。そして幸輝の『覚醒』とやらも発動しない事が分かった。
つまりは任務完了だ。やる事を成し遂げた今、この男達と無理に戦う必要はない。無駄な争いは何も生まないのだ。
(よし、逃げよう)
決断は早かった。啖呵を切ったくせに相手が弱すぎたのか男達は少し拍子抜けな顔でお互いを見ている。
幸いダメージは顔に集中しているため体は自由に動く。チャンスは今しかない。リゼの手を引いて一気に逃げ出そうと起き上がった瞬間だった。
「お、いたいた」
空から声があったのだ。
いいや、正確には誰かが舞い降りながら発した声だった。
全員が視線を上に上げる。
声の高さからして女の子だと断定した。その少女は全身に明るい緑色の風のようなものを纏わせ、ゆっくりと地上へ降り立った。
そして幸輝達の前へ守るように立ち、厳つい男達に一言。
「さて、まずはチンピラ退治といきますか」




