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12.異なる世界(12)

 とりあえず幸輝とリゼを日払いで雇ってくれた優しい露店があった。


 数時間が経ち時間は夕方の六時を過ぎた辺り、幸輝とリゼはおよそ三時間半分の日払い給料を貰って市場を離れていた。

 夕方といっても陽はまだ沈んでおらず、気温は高くないがどことなく夏の夕空を思い出させる。


「えーと、私と幸輝のお給料を合わせて……二〇〇〇ラルだって」


「一ラルの価値ってどのくらいなんだ?」


「日本円での一円と一緒だよ。幸輝からすれば分かりやすくていいんじゃない?」


「なるほど、そりゃ分かりやすいや。にしてもこの世界って紙幣もあんのか」


「お風呂やトイレもそうだけど、電気やガスの代わりが魔力になってるだけで意外と技術力は幸輝の世界と変わらないかもね」


「そういうもんなの?」


 既に完成されているインフラ系統の技術にはこの世界の魔素と魔力が大きく関わっているらしい。ということで高校一年生の少年は細かいことを考えるのをやめた。貰ったお給料の紙幣をまじまじと観察しながら思いに耽る。

 二人で三時間半働いて二〇〇〇ラルということは、一人一〇〇〇ラル分の給料だ。


(あまりにも安い……けど、急に頼み込んでおいて文句は言えないよなあ。手伝わせてもらえたのも結局リゼのおかげだし)


 どんなに声を掛けようと男の幸輝は全然相手にしてもらえず、見た目は女神的美少女なリゼが愛想よく声をかけてみたら一発で野菜売りのおばちゃんが了承してくれたのだ。異世界でも可愛いは正義だったらしい。

 話してみると普通に優しかったし、自分も最初からあのおばちゃんに声を掛けていたらと強く思う。


 手伝っている間は注文の聞き取りと金品の受け渡しをリゼと分担し、ふくよかな主婦体型のおばちゃんにはイスに座って休憩してもらいながら、簡単なやり方を教えてもらいつつこなしていった訳である。

 分担したおかげかバイト初心者の幸輝とリゼだけでも何とか客を捌く事ができた。


「ま、俺達の事情を察していくつか野菜もくれたし、今日と明日の分は何とかなりそうだな」


「調味料とかはどうするの?」


「おばちゃんに店の場所聞いたから今向かってる最中」


「はえ~、だから帰り道とは違う方向に歩いてるんだ」


 お金の他に野菜を貰えたのはでかい。おかげで今日は調味料以外の食材を買わなくても済む。

 今後の事を考えれば節約できるなら最大限しておく必要がある。キャベツににんじん、玉ねぎやじゃがいもまでくれた。後は調味料さえ揃えば野菜炒めやらスープなどいくらでも調理出来そうだ。


(親が共働きだったから晩飯を陽菜と交代制で作ってたのが功を奏したな。おかげで料理はある程度できるし今後も活かせそうだ)


 もう幸輝の中では自分が料理を作る役目だと思っている所から察するに、女神であるリゼに料理スキルなんて期待するだけ無駄だろうという結論が既に出ていた。

 あくまで推測だがこの見習い女神、異世界での知識以外ではほぼ役に立たないのではないかと思っている。


「ねえ、あれじゃない? 調味料が売ってるお店って!」


「だな。さて、今日は最低限の塩と胡椒だけ買って帰るか。……というか、調味料もだけど野菜も魚も俺のいた世界と基本一緒なんだな。色が紫とか違うのもあったりするけどもっと変な形の野菜とかあると思ってたわ」


「ん~、幸輝の世界にはいないような魚や動物もたくさんいるけど、基本的には似てるから大丈夫だよ。たまに十メートルくらいのイノシシとかカニとか色々いるみたいけど」


「やっぱいんのか不自然に巨大化された動物的モンスター……。その分だと虫とかもそういう魔物として出てきそうじゃね? 蟻とか蜘蛛とかってでかくなったら絶対やばいし会いたくねえ……」


 何の魔力も武器もない状態で遭遇してしまえば無事に逃げられる未来が見えない。

 一瞬で体を引き千切られそうだ。やはり平穏な生活を目指すしかないのだろう。明日にでも初心者に優しいクエストを探す決心をする少年であった。


 そして特に問題もなく店に着き調味料を買って出てきた幸輝達。

 もう用事はないし、後は帰るのみだが外はまだ陽も落ちていない。せっかくの異世界初日だ。もう少し街を冒険してみてもいいだろう。


「どうせなら帰るついでにちょっと街の中でも見て回るか」


「あ、いいねそれ。私も見たい!」


 今度はノリノリなリゼも隣に並んで歩き出す。

 見る世界がまるごと新鮮な幸輝にとっては始まりの街も観光気分である。心許ないが衣食住問題も一時的に何とかなった今、ようやっと心の余裕が少しできたのだ。


 明日にはまたどうなっているか分からない分、今の内に異世界を楽しんでもいいのではないかと思っているが故の軽い散歩。

 野菜と調味料の入った紙袋を抱えながら街の中を歩く。すれ違う人は大抵人間のようだが、やはり亜人族とやらもちらほらいる。


 始まりの街だから色んな種族の人が住んでいるのだろうかと思いながら視線を向けるもすぐに前へ戻す。

 ゲームやアニメで見慣れてはいても実物で見るのは初めてなので普通に凝視してしまうのだ。本当にエルフは耳が長かったりドワーフは小さかったりした。しかしあまりジロジロ見てしまうのも悪いだろう。


(比較的安全なクエストをこなしつつ他の街に行けばもっと色んな人と会えるって事だよな。まあ装備を揃えないと遠出なんて絶対無理だけど)


「あれ、この辺はあんまり人いないんだね」


 リゼの声で現実に戻される。

 どれくらい歩いただろうか。さっきまで歩いていた人の気配もほとんどなくなり、時間帯もあってか薄っすら暗く変な雰囲気を思わせる。


 強いて言うなら、ちょっとしたスラム街を歩いている感覚だ。

 駆け出し冒険者の街だからそういう装備の人達がいても何ら不思議ではないが、今ここで物騒な人に絡まれでもしたら全速力で逃げるしかないだろう。初心者ばかり集まる街で変な輩がいる確率なんて少なそうではあるが。


「装備を売ってる店とかはない、か。あったらついでに見ときたかったけど仕方ない。リゼ、晩飯も作らないといけないしそろそろギルド寮に戻るぞ」


「はーい」


「どの道通ってみたいとかあるか?」


「ん~、じゃああっちから行こ!」


 何とも元気な声と共に歩いていくリゼ。もう普通の少女にしか見えない。

 両手に抱えている紙袋を何となく持ち直して着いて行く。


 その途中の事であった。


「……んぁ? 何だあれ?」


 視界の隅に何かが映った。


「幸輝? どうしたの?」


 立ち止まった幸輝を見てリゼが駆け寄ってくる。

 しかしリゼの事も意に介さず幸輝は目に映った場所へ視線を集中させた。


 何てことのない街の片隅にある路地裏のような場所。人目のつきにくそうな陰。そこに数人の人影があったのだ。

 こういう光景に真道幸輝は見覚えがあった。普通の感性をしているが故に自分が嫌う行為の一つ。見ているだけで不快な光景。


「こんな異世界でもカツアゲとかあんのかよ……」

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