11.異なる世界(11)
「さて、当面の問題は食料と食費な訳だが」
ギルドに戻り受付嬢が手続きやら何やら色々済ませてくれた後、幸輝とリゼはギルド内にある酒場のテーブルに座ってちょっとした会議を開いていた。
「うん」
「まずお金がないと食料が買えない。そしてお金を稼ぐにはクエストに行かないといけない訳だ」
「そうだね」
「じゃあここで問題。ただでさえ魔力ゼロ武器センスゼロに素手でしか戦えない俺と、魔力量は多いけどまだまともに魔法も使えず身体能力も低いあなたでクエストに行けるでしょうか?」
「えーと……気合いで何とかする?」
「できるかあッ!!」
とぼけた顔で答えたリゼに幸輝の怒号が炸裂した。
「俺達の力じゃクエストに行くってだけでも無理難題なのに気合いで乗り切れる訳ねえだろ! そもそも絶賛無一文だぞ!? クエストに行くための装備すらまともに買えねえしこのまま行けば魔物にセルフ生肉デリバリーしに行くようなもんじゃねえか!!」
「えっ!? じゃあ私達どうするの!?」
「それを考えるために今話し合ってんだろ! 食料もねえ、金もねえ。だからクエストに行くための装備も買えねえ。だからこそ頼みの綱はリゼ、お前にある」
「ん、私?」
ポカンとしているが忘れてはならない。目の前の少女は見た目は少女でも中身も役割もれっきとした女神だ。
幸輝のような平凡な高校生とは違う。だからこそ何だかんだ言いながらもいざという時は困難な時に役に立ってくれると信じている。
何せ女神は女神でも幸輝をサポートしてくれる女神なのだ。
役割的にも異世界でのサポート知識を詰め込まれているはずだから、こういう時こそサポート女神の真髄を見せてもらわないと困る、非常に。
だから幸輝は最後の砦にしがみつくように言った。
「サポート女神としてこれからどうすべきか俺に知識をくれ」
「……あー、えーっとぉ……分かんない☆」
無慈悲にもあっけなく最後の砦から突き落とされた。
もはや大声を出す気力さえ失った幸輝はテーブルに突っ伏して項垂れる。
「もうダメだ、お終いだ……詰みだろこんなの。この先どうやって生活していけばいいんだ俺は……」
高校生ながらに異世界に来てまで普通に働くなんて事はあまりしたくないが、せめて数日分の食料とクエストに行くための装備を買えるくらいの短期バイト的な事をするしかないか。
想像していた明るい異世界生活がどんどん遠ざかっていく。どこの世界に来ても現実というものは厳しいらしい。
「そんなに落ち込む事ないよ幸輝、元気出して。悪い事の後には必ず良い事もあるから」
(ぶっ飛ばしてやろうかこいつ)
今のところ何の役にも立ってないこの女神。いったい何をサポートしに来たのだろうか。
青筋を浮かべながらも拳を何とか収める。無意味な暴力は誰も幸せにならない。
争いあってもお金が生まれる訳でもないのだ。お金も食料もないとなると、むやみに声を荒げたり体を動かし過ぎるのも生産性のない労力になってしまう。
下手に体力を消耗してしまう事は控えた方がいいだろう。しかしここにいても現状は何も変わらないのもまた事実。
やはりいつだって状況を変えるのは本人の行動次第なのだ。
「……外に出て街を回ろう」
「観光するの?」
「んな資金はねえ。とにかく日払いで雇ってもらえる店を探す。じゃなきゃ住める部屋があってもその先に待ってるのは餓死だ。せっかく第二の人生歩み始めたと思ったのに飢えて死にましたじゃ笑い話にもならねえぞ。当然、お前にも働いてもらうからな」
やれる事が限られているならばその中で模索していくしかない。
異世界に放り込まれた以上、ある程度この世界のルールにも従うのが最善手だ。そのためにもまず外に出ないと話にならない。まだ見ぬ世界はすぐそこに広がっている。
渋々着いてくるリゼと共にギルドを出る。
改めて見渡してみても慣れない景色が全方位に広がっていた。
ゲームのようにボタン一つでマップ画面が見れるような便利機能もないため、自分の足で歩いていかないといけないようだ。
こんなの迷子になったらそれこそ本当に詰んでしまう可能性だってある。始まりの街と言われているにも関わらず普通に立派な街というのもあり、はぐれたら帰り道が分からなくなる危険も考えておかないといけない。
この世界に到着してからこの街のギルドまで案内してくれたのはリゼだ。
いくらネジが何本か抜けたようなポンコツ女神でも、街中からギルドへ帰る道くらいは知っているだろうとさすがに思いたい。
幸輝自身、ある程度周囲の建物や特徴的な街路を覚えてから適当に歩き出す。
働けそうな店を探しつつ、街のことを覚えていく算段だ。
「よく考えたらそもそもこの世界ってバイトみたいに雇ってくれるとことかあんのか? 下手したら永久就職みたいな年中残業休暇なしのブラック雇用とか絶対やだぞ」
「まあ幸輝の世界の常識がこっちに通用する訳もないし可能性としてはゼロじゃないかもね。ブラックじゃないにしてもグレー辺りならわんさかありそうだし」
「いかにもホワイトそうな優しいおばちゃんがやってる店番の手伝いとかなら喜んでやるんだけどな……。市場とかなら定期的に忙しい時間帯とかあるだろうし、ダメ元で人材足りなさそうなとこに片っ端から声かけて当たってみるか」
ギルドを出る時に見た時計は昼の二時過ぎを指していた。
普通に考えたらちょうど晩ご飯の材料を買いに市場に人が殺到する時間帯か。狙うなら今しかない。善は急げだ。
「よし、リゼ。まずは市場がどこにあるか教えてくれ! 一秒でも早く着いて雇ってもらえそうな人に頼みに行くぞ!」
「うん、分かった! ちょっとあそこ歩いてる人に聞いてくるね!」
「何でギルドの場所は知ってんのに市場の場所は分かんねえんだお前はあッ!」
もうあの女神が何を知っていて何を知らないのか皆目見当もつかなくなってきた。
しかし当の本人は幸輝からようやく力になれそうな事で頼られた(?)おかげか、ご機嫌になり楽しそうに通行人へ声を掛けに行っている。
見た目は完全に美少女だからか急に話しかけても不審者扱いされないらしい。笑顔で話しかけて普通に聞いている。
ひと通り通行人の女性と話した後、リゼが戻ってきた。
「幸輝っ、あっち方面に市場あるって!」
「……まあ場所が分かったならいいか。あっちね、今の時間なら人の流れができてるかもしれないし、それに着いて行けば自然と市場も見つかりそうだな。んじゃ行くか」
「ねえ、私できた? 女神っぽい事できたかなっ? 幸輝が良いなら褒めてくれてもいいんだよ!」
「人に場所聞いただけで女神の役割果たせたと思うならお前の女神としての格は相当落ちぶれるけどいいのかそれ。女神の称号返上した方がいいんじゃねえの。まあありがたいけど」
「そこまで言う!?」
むきーっと騒いでいるほぼ似非女神を相手せずに市場へ向かう。
雇ってもらえる確率なんて分かるはずもないが、こちらは今日の夕飯にすらありつけるかも分からない程ピンチなのだ。異世界の野草を毟って食べるのだけは御免被りたい。腹を下すのが目に見えている。
「何が何でも金を稼いで一文無しから脱却するぞ。せめて今日だけでも働いて稼げば節約しながら数日はどうにかなるはずだ」
「まあそんな都合よく市場で雇ってくれる人がいたらだけどね」
「……」
こんな時に限って正論を言ってくる女神は優しさというものを持ち合わせていないのか。
女神は隣にいるがもはや心の中で神頼みする幸輝。この際何でもいいから稼げたら文句は言わない精神である。
しばらく歩いていると市場らしきものが見え、人も多くなっていっているのが分かった。
野菜や魚に肉に果物など、ここでも売られている食材は幸輝の世界とあまり変わらないらしい。キャベツににんじんといった見慣れた物ばかりが陳列されている。
市場だから変なモノを売っている店もなさそうだし、怪しい物売りに引っ掛けられる心配もないだろう。
そうと決まれば最初に見た目が優しそうで雇ってくれそうな人を探す。
「行くぞリゼ。まずは俺達の異世界貧乏サバイバル序盤の難関を突破するんだ!」
「よーし、ここまで来たら私もやるよー!」




