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9.異なる世界(9)

本日からは一日二話更新となります。

12時10分と18時10分に投稿される予定です。

「そ、それが私にも少し掴めない所がありまして……とにかく読み取ったコウキさんの情報を説明していきますねっ。まず身体能力は平均よりも高めで冒険者としては悪くありません。そして問題の魔力なんですが、私もこんな人は初めて見たんですけど……コウキさんの魔力は、ゼロでした」


「……ぜ、ゼロぉ!? 少ないとかそういうのじゃなくて、無いってことですか!?」


「はい……」


 さすがに耳を疑うしかなかった。

 ゼロ、無、皆無。なんとこれっぽっちの魔力も存在していないらしい。まさか魔力の一片もないなんてこの場の誰が予想できていたであろうか。魔法がありふれているこの世界で本当にこんな事があっていいのか。


「続きですが……これもちょっとよく分からないんですよね……。情報を読み取る際、普通だとその人の適性魔法が分かるんですが……コウキさんの魔法は一切情報が出てこないんです。ただ情報の奥底に一瞬だけ光が見えただけで、それ以外は何も分かりませんでした」


「こ、魂環の故障じゃあ……?」


「ありえません。私も何度も確認し直しましたし、魂環はギルド創設以来たったの一度も誤情報を出した事はありませんでしたので」


 つまり故障ではないと断言された。

 であればだ。悲しい現実がワクワクしていた少年へ襲いかかることになる。


「う、嘘だろ……ここに来てそんな悲しい結末あるはずが……」


「うーん……そもそも魔力の話に戻りますが、魔法の才能がない人もいるにはいますけど魔力自体は必ずありますし、どんな魔法が使えるのかくらいは魂環を読み取れば分かります。普通に考えて魔力がないのはありえないはずなんですけどね……。人間や亜人族に魔物、それら全てに魔力が宿ってるのが普通なんですよ? 魔力の基となる魔素自体は空気中に漂っていて自然に体に取り込まれる仕組みになってるので、そうやって魔力を徐々に自然回復したりもしますし。生活する上でも魔力はほぼ必須なんですが……今までどうやって過ごしてきたんですか?」


「あばばぶえ~」


 少年はとうとう現実逃避しだした。

 ただ正気だとしても最後の質問でどう答えればいいかよく分からないからある意味不幸中の幸いではあるが。あまりにも見るに堪えなかったようで、受付嬢は質問の事をどっかに投げ捨ててとにかく読み取った情報から何かプラスになるヒントがないかを唸りながら考え出した。

 もう何でもいいから慰める要素が欲しかったのだろう。


 そしてそれは意外にもすぐだった。

 受付嬢が何かを思い出したような表情で顔を上げたのだ。


「そうだ……コウキさんの魔法の素質を読み取る時に見た情報の奥底。そこには一瞬だけど光が見えました……。いつもならそういった情報は文字として浮かんでくるんですが、コウキさんのは光が見えたという現象だけ。……これはあくまで私の推測に過ぎませんが、コウキさんの魔法は多分……世界で一二を争うほど貴重なものかもしれません」


「貴重な……?」


 ここに来てようやく希望的なワードが出てきた。

 もはや縋れるのはここくらいしかない。推測でも何でもいいから、とにかく異世界だからこそ使える特別な何かがほしい少年は半分涙目で受付嬢を見る。


 そして受付嬢は言った。


「コウキさんの魔法は……おそらく『光魔法』です」


「……光魔法?」


「はい……世界には様々な魔法がありますけど、その中でも最も有名で代表的なのが『火』『風』『土』『水』の『四大魔法』です。これらは四大元素を含まれてる事からそう分類されているのですが、実はもう二つ有名であり希少だからこそ分類されている魔法があるんです」


 さっきまで優しい顔をしていた受付嬢の表情が真剣なものへと変わっていた。

 まるで初めて見た未知なものに対して慎重に距離感を測っているかのように。


「それが『光魔法』と『闇魔法』。この二つは『二極魔法』と言われているんです」


「えっと、それってそんなに凄いこと……なんですか?」


「凄いなんてものじゃありません!! 私がここのギルドに務めるようになってから様々な冒険者の方々を視てきましたが、光魔法の方は一人もいませんでした。それに教本や文献にも過去に光魔法を扱えたのは歴代の勇者と呼ばれた方達のみと記されています。それくらい珍しい……いいえ、『二極魔法』はこの世界に一人か二人いるかいないかという、いわば伝説や神話級の魔法なんです!」


「っしゃおらぁ! やっぱそうなんじゃないかって思ってたんですよお! ここまで期待を突き落とされた俺はこういうのを待ってたんだよどうだリゼ見たかこの逆転劇ィ!! はーはっはっはっ! たとえ初級冒険者でもたった一つ秀でていればそれで這い上がれるのが転移者ってもんだ!!」


「私の励ましを返してよ! ちょっと気の毒だからさすがに女神として元気づけようとしてあげた私の気持ちどうしてくれるの!?」


「しかしコウキさんの魔法は本当に珍しいので凄いこ……あっ」


 手のひら返しが過ぎるほどの喚き散らし方をする高校生と悔しそうに文句を垂れる見習い女神。初めて来たギルドでこの騒ぎようである。

 当然元々いたギルド内の冒険者や酒場の女性店員達が訝し気な視線を送ってきていた。強面の冒険者に睨まれ普通にギョッとしたので言葉を慎むことにする。


 そこを会話に入るチャンスと捉えたのか、受付嬢はそのまま割って入るように口を開いた。


「あのう……喜んでいるところ大変申し訳ないんですが少しいいでしょうか……?」


「……何か?」


 あれだけ珍しい魔法と言っていた受付嬢さんがいつの間にか後ろめたさ全開の面持ちに変わっている。

 何やら一転嫌な予感がプンプンしてきた。この流れと表情を見るに多分良い話ではないと既に経験則で察してしまう真道幸輝。いっそ耳を塞いで聞かないようにしてやろうかと思ったが間に合わなかった。


「とても言いづらいんですが……いくら光魔法の素質を持っていたとしてもコウキさんには魔力がないので、多分使うことはできない可能性が高い……と思われます……」


「……な、なんかこう、クエストの実戦とか修行で頑張れば使えるようになるみたいな未来とかって……?」


「な、なくはないと思うんですが……コウキさんの場合武器も碌に使えないので体術くらいしか選択肢はないんですけど、序盤だからって魔物相手に体術だけで挑むのも無謀としか……それに魔法を使うのにもまず体内で魔力を練るという初歩的なコツを掴むところから始まるので、魔力がなくそれすらできない状態だとおそらくはもう……」


 魔法を使う事すらできない、という言葉を彼女は飲み込んだように思えた。

 しかしあそこまで言われれば魔法に疎い少年でもその先の言葉くらいはすぐに分かる。引き攣った口角はヒクヒクと上下を繰り返していた。


 そして今日一番のボリュームで、


「一番最悪じゃねえかッ!!」


 あははと、苦笑い混じりで精一杯茶化そうとしてくれる優しい気遣いが余計真道幸輝の精神へクリティカルヒットする。

 たとえどれだけ凄い魔法の素質を持っていても魔力がなければ使えない。そしてその魔力を増やすための手段として可能性があるクエストを受けても一般人と何ら変わらない素手などを使っての戦闘しかなく、序盤であっても命の危険しか伴わない。


 何なら魔力が増える保証すらないのでリスクの方が明らかに大きかったりする。

 イチを二にするよりも、ゼロをイチにするのはとにかく困難を極める。元から何かあるのと元から何もないのでは難易度が段違いなのだ。


(……あれ、これもしかして詰んでないか?)


 元よりリゼには支援者(サポーター)として支援魔法を全般任せるつもりだった。その上で戦闘は自分だと思っていたばかりなのに出鼻を挫かれるなんてものじゃない。

 もはや何をしにこの異世界へやってきたのか分からないレベルだ。『光魔法』に関しては宝の持ち腐れ感が凄い。このままでは伝説(笑)になってしまうのは確定だろう。


「さっきから落ち込んでは元に戻ってまた落ち込んだりと忙しいね幸輝。調子に乗った罰かも」


 四つん這いで項垂れている幸輝にそう言ったのはもちろん女神リゼである。

 微妙な階級の支援者(サポーター)に戦闘では全く役に立たなそうな初級冒険者というコンビが確立されようとしているのに何を呑気に言っているのか。


「……ああ、そういえば」


 今からでも大女神と何とか交渉してせめて別の世界へ移動させてほしいと言っても間に合うだろうかと考えていた矢先。

 幸輝の冒険者カードを書き終えた受付嬢が声を上げた。


「コウキさん、これを見てください」


「……何すか、これ以上まだ俺のテンションが下がるような事でもあるんですか」


「いえ、実は魂環から読み取ったコウキさんの素質の中にもう一つ気になるものがありまして……おそらく魔法とは違う『能力』と思うんですけど」


 おそるおそる受付嬢が差し出してきた冒険者カードを見てみる。

 そこにはこう書かれていた。


「……『覚醒』?」


「はい。こういう仕事をしているとごく稀に魔法以外の能力(ちから)を持ってる方もいるんですが、『覚醒』という能力は初めて見ました。ですが魂環の情報には詳細の説明もなかったため効果は分かりません。……というより、こういった能力はある程度実戦で経験を積んできた冒険者がある日突然自覚したり発現できるようになったりするもので、魂環による再検査で後に判明するものなんです。ですから本来最初にこうした能力が視えること自体ありえないんですよ」


 しかしそのありえないを一つ既に魔力ゼロで証明してしまったのがこの少年である事を忘れてはならない。


(……もしかするとこれが俺の転移者特典ってやつか? 名前的には結構期待できそうだけど、効果が判明してないから実際はどうなのかすらまだ分からない、か……)


 一応隣の見習い女神にも聞いてみる事にした。


「リゼ、お前はこれがどういった効果か分かったりする?」


「ん〜ん、分かんない」


 聞くだけ無駄だった。ならサポート役としてどこまでこの世界の知識を授かってるんだこの女神。

 とにかく、下げては上げてまた下がるという自分の能力の微妙な具合のせいで素直に喜んでいいものか分からない。ただ一つ、確実に言えることはだ。


 この能力は幸輝だけが持っている特別な力であり、唯一与えられたかもしれない転移者特典という事。他の魔法が期待できない以上、この能力をどう扱うかがこれからの課題になってくる。


「……まあ、俺にも特別な力が一つだけあるのも分かったし、何も収穫ないよりはマシと思うしかないか。……ほんとに大丈夫なんだろうなこの先……」


「ちゃんと特典貰えててよかったね。私より階級低いけど」


「いちいち一言多いんだよ中途半端ポンコツ女神」


 またも二人の大騒ぎが始まったのだった。

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