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彼女の声

作者: 雉白書屋

「……はぁはぁ、やあ、僕だよ。はぁ、元気?

はぁ、今日もまた、はぁ、ごめんね君の声が聞きたくてはぁはぁ。

えと、あれ? 聞こえる? ねえ、返事してよ、じゃないと僕」


『ええ、聞こえているわ』


「ああ、良かった。はははは、不安になっちゃったよ、はぁはぁ」


『ふふふっ、そうよね。聞こえてないかと思うと不安になっちゃうわよね』


「ははは、はぁはぁはぁ、い、今は僕ひとりなんだはぁはぁ。邪魔が入らないようにね。はあぁゲホッゴホ! ごめんね」


『そうなの。大丈夫? 苦しそうね』


「ああ、大丈夫。き、緊張しちゃってさ……優しいね。はぁ……君が好きだ」


『ふふ、嬉しいわ』


「ほ、本当かい? き、君はどう? 僕のこと……」


『もちろん好きよ。いつもそう言っているじゃない』


「ああ、はぁ、そうだね……その、君がいるそこはどんな場所? 良いところ?」


『ええ、良いところよ。透き通っていて何でもできる気がするの』


「つ、つらいことや苦しみは……? 本当にないの?」


『ないわ。ここはとても自由な世界よ』


「羨ましいな……この世は……はぁ……生きるのはつらいよ……」


『そう、生きるのはつらいわよね。ねえ、大丈夫? 声が聞こえにくいわ』


「ああ……だいじょ……ぶだよ、ちょっと、ははは、泣いてただけ。

それで、そこの話を聞きたいんだ。こっちとは真逆なんだろう?」


『ええ、いいわよ。光に溢れ、安らかで、みんなが優しいの』


「それはぁ、いいなぁ……こっちとは大違いみたいだ」


『そうね、大違いみたいね。前にあなたが話していた嫌な人もいないわ。良い人ばかりよ』


「そうだ……よね……君と、いつまでも君と話してちゃいけないってみんなが言うんだ。

僕から君を、君を奪おうとする……。嫌だよ。君なしじゃやっぱり嫌なんだ……」


『ええ、そうよね。私もあなたなしじゃ嫌だわ』


「生きたくないよ。もう……すごく息苦しいんだ。わけもなく汗が出るし、知った顔の人間が全く違う、別人のように思えるし、ああ、頭の、額の内側でミミズが蠢いているような感覚がするんだ。

胸はカビた雑巾を詰め込まれているような。吐き気がするよ。

線路が、まるで布団みたいで、すごく近くて、引き込まれそうで……」


『そうよね、生きたくないわよね。とても苦しくてつらいものね。

大丈夫、怖くないわ。ここはとってもいい場所よ』


「はぁ、はぁ、はぁ、そうだよね、はぁ、はぁ君を信じるよ。

はぁ、は、は、君と一緒になれるって、はぁ、は、は」


『ええ、一緒になれるわ。私たちは一つになるの。みんなね。さあ、来て……』







「自殺……タオルで首を吊ってのことだそうだ。しかもまた……」


「はい……これで五件目。もう、これが原因としか……」


「彼には妻がいただろう、どう説明する?」


「どうとは?」


「夫を失った悲しみに加え浮気、というわけにはならないだろうが聞かせられないな、これは……」


「はい……。でも、どの道訴えられますよ。かなり取り乱しているようですし警察も我々の責任を追及しようという動きが」


「まずいな。人手不足解消にうってつけのはずがこれでは……。

実際、ログを辿ると途中までは上手くいっていたように思える。相談者に親友のように寄り添って」


「相手の言うことを否定しないようにプログラムされてますからね。

相手の話を聞く。カウンセリングの基本ですから。

相談者との会話の中で学習し、かなり高精度のはずなんですがねぇ……」


「自殺予防の電話相談窓口にこそAIが必要、活躍できる場だと思ったのだが、まだまだ発展途上、真に人の心には寄り添えないか……」


「あっ」


「どうした?」


「いえ、関係ないと思いますが……最終的な目標として、この相談窓口からの卒業を促す。つまり、相談者の数を減らすと設定が……」

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