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秘密の関係

(やはり、私が仕事以外で伯爵邸にいるのはおかしいわ……!!)


「リッカード様、私に興味が湧いたというのは、ご冗談ですよね?……」


私は恐る恐る、リッカード様聞いた。


「至って、僕は真剣に言ってるんだ。僕の内面を見てくれる人に会ったのは初めてだったんだ。今、僕は君にすごく興味がある」


「それは、肖像画家としてもだけど、それ以外の意味にも……」


そうリッカード様は付け加えて、含みを持った視線を私に向けた。


その視線に、私は本能的に背筋に冷や汗をかいた。


リッカード様の瞳は昨日見たものと違い、獲物を狙う狼さながらだ。


私は、冷静を取り戻すために笑顔を顔に貼り付けたまま、紅茶を一口飲んだ。

(このままでは、いけないわ。いち早く家に帰らないと)


私は狼に狙われるウサギのようにプルプルと震えながら、頭の中で考えを巡らせた。


「リッカード様、私は肖像画家です。仕事以外の場で次期伯爵様と会話は致しかねます。それに、一介の画家とリッカード様が二人で会っているなんて、噂が立ってしまっては華々しいご経歴に傷をつけることになります。なので、今日は帰していただけませんか?」


「ほう、”今日は”ということは明日や明後日でもいいのかい?」


リッカード様は私の本心を見透かしているかのように、イタズラな笑みをこちらに向けた。


出口の見えない会話に私は多少イラつき始めていた。


「リッカード様は私にどうして欲しいんでしょうか?」


「僕は君に多くのことを望んでいるわけではないんだ。ただ、近しい年の友達もおらず、僕の地位や外見で判断する周囲の目線に(はなは)だ嫌気が差していてね。だから、君には僕の友達になって欲しいってだけなんだ」


そう話すリッカードの視線はどこか人間離れしているかのように虚で、その奥に冷たさがあった。


(そういうことだったのね……昔から箱入り息子で育てられた故の悩みだわね。私だって、できることなら解決してあげたい。でも、次期伯爵と駆け出しの画家が友達というのはやっぱり何かおかしいわ。今の時代は身分や体裁というものを何よりも重視するんだもの。だから、一時の気の迷いで、リッカード様によからぬ噂を立てないようにしないと、それに噂が立って困るのは、リッカード様だけじゃなくて、私もなんだから)


「そう言うことでしたら、ルーカスという丁度いい話し相手になりそうなのがいるので、今度紹介します」


「ルーカスって、前の戦争で大きく手柄を立てたっていうルーカス・アバティーノのことか?」


「はい、彼でしたら人を見かけで判断するような人物ではありませんし、何より身分的にもリッカード様とお付き合いされてもおかしくないですから」


ルーカスは、英雄となったため下級騎士から大きく身分が上がるのは明白だ。面倒事を押し付けるようでルーカスには悪いが、将来を考えると次期伯爵と今から付き合っておくのも悪くないだろうという私なりの気遣いだった。


「やはり、君も身分や世間体を気にするんだな……」


リッカードはどんどんと表情が暗くなっていき、真っ黒なオーラを漂わせている。相変わらず綺麗な顔であるが、その顔には悲壮感が漂っていた。


(ああ、もうめんどくさい!!)


「分かりました!リッカード様、私たちお友達になりましょう」


「ふふ、そうこなくっちゃ」


リッカード様は先ほどの表情と打って変わってキラキラとした視線で私を見た。リッカード様の端正なお顔立ちが余計にキラキラを増幅させている。少し騙された気もするが、言ってしまったものは取り消せない。


「但し、私たちが友達という関係でいるのは秘密です!!絶対に他言無用と約束してください!!」


「ああ、わかった。私は口が硬いし、そもそもそのようなことを話す相手もいないのだから安心してくれ」


そう言って、お互い固い握手をした。


こうして世にも不思議な次期伯爵様との友人関係が始まった。



* * *


「はぁ」


私は深いため息をついた。


「ヴィオラ様、次期伯爵様のお宅から帰ってきてから息が止まりませんね。何があったのか、私にもお話してくれませんし、少し悲しいです……」


そう言って、エマはしょんぼりとした表情を浮かべた。


(ごめんなさい、エマ。それでもリッカード様との関係は絶対に話せないの)


エマになら話してもいいと思っていたのだが、エマに話すとルーカスにも関係がバレてしまってややこしいことになるかもしれないと考えた私はリッカード様とのやり取りを胸に秘めておくことにした。


「ヴィオラ、エマ、入るぞ〜」


唐突にルーカスが、まるで自分の家かのように入ってきた。私は、つい先ほどまでルーカスのことを考えていたため、本人が登場に必要以上に驚いた。


「ちゃんとノックしなさいよ」


私は、平然を務めていつものようにルーカスに接した。


「すまない……ただ、お前が次期伯爵の肖像画を描いたっていうのを聞いて、つい……」


私は、ルーカスの口から”次期伯爵”というワードが出た瞬間に飲んでいたお茶で盛大にむせた。


「コホッ、コホッ、コホッ……そ、そうなのね、久しぶりの大きな仕事だったわ」


「お前は静かにお茶も飲めないのか?」


ルーカスは呆れたように私に言ったが、私は内心ドキドキしていた。


「今朝の新聞に、お前が肖像画を描いたっていう記事が小さくだけど載ってたんだ、これでどんどん大きな依頼がくるんじゃないか??」


「ええ、そうね。色々な人から来るでしょうね」


「ん??どうした、今日のお前、なんだか元気ないな」


そう言ってルーカスは額を私の額に合わせた。


(どうして、ルーカスってこうも勘がいいの??って、今の心臓のドキドキは秘密がバレていないかのドキドキよね……??)

目は口ほどものをいうって言いますよね。

自分は鈍感なので、口で言ってもらわないと理解できないのですが……汗

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