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だれ?

「ルーカス様が帰ってきます。それも英雄となって」


「……」




「は!?」






ルーカス……ルーカス……ルーカス……ルーカス……ルーカス……ルーカス……ルー……


私は、理解が追いつけないまま、アトリエに向かった。


ルーカス……ルーカス……ルーカス……ルーカス……ルーカス……ルーカス……ルーカス……ルーカス……ルーカス……ルーカス……


「あの、ヴィオラ様……??」


部屋の中で右往左往している私にエマが驚いた顔でこちらを見ている。


(ルーカスって誰だったかしら……妙に聞き馴染みなる名前ね。私の知り合いで戦争英雄になり得そうな人は確かいなかったはず……というか、戦争英雄って普通は身分が高い上級騎士や高位貴族のようなやんごとなき人たちがなるものじゃない??しかも、最も戦争で貢献した人にしか与えられなかったはず……優れた身体的能力が高くなければなれないでしょ)



「エマ!!!!」


「はい!!!!」


エマの肩をぴくりと動いた




「ルーカスって誰??」




「はぁい??」

エマの頭の上に、はてなマークが並んでいるように見えた


「どうしちゃったんですか?ヴィオラ様!!ルーカス様ですよ!!幼馴染じゃないですか!小さい頃からよく遊んでいた方じゃないですか??いくら絵を描くだけしか友達がいないヴィオラ様でも、ルーカス様までは忘れていないはずです!」


(何やら、最後の方失礼だった気がするけど)

「って、思い出したわ!あのガリガリのルーカス??ってあのルーカス!?」


「そうです!あの、ルーカス様です!」


エマが鼻息荒く頷いた。


「何かの間違いじゃないの??だって、あんな身分も戦術的な能力もない、戦争経験もない、筋肉もない、取り柄といったらあの明るさ一辺倒のルーカスが活躍するはずないわ!!」


「いいえ。ルーカス様で間違いございませんでした。つい先程、ご本人から電報が届きましたが、確かに正真正銘ルーカス様です」


「なんてことなの」

私は頭を抱えた。



「私も最初は信じられませんでした。失礼ですけど、ルーカス様って、その、なんと言えばいいのか、あまり強くなさそうじゃないですか……」


「そうよ、だって、私もルーカスが戦争に行く前、恐らく戦争で野垂れ死ぬか、重症になって帰ってくると思っていたもの」


そう思うのも、今回の戦争は長期化されると予想されていたからだ。隣国の強国バルバ王国の侵略戦争で、広大な敷地と戦争経験をもつ武人がうじゃうじゃといる国と戦ったのだ。だから、アトゥーラ帝国の国中の若者たちが戦争に招集され、街から若い男性がいなくなったほどだ。

私が読んだ新聞では多くの若者が日夜戦いを繰り広げており、多くの死者を出していると書いてあった。


こんな状況で騎士の中でも下級騎士のルーカス(しかも、筋肉が皆無)なルーカスが生きて帰ってくる見込みはほとんどないと思っていた。

大切な親友だったが、だからこそ、ルーカスの訃報を聞いても悲しまないために、意図せずルーカスの存在を意識しないように、思い出さないように過ごしてきた。


「生きていたのねルーカス」


私はつぶやいた。


「はい、ヴィオラ様、ルーカス様は生きてらっしゃいました」


エマは堪えきれずに涙を流している。


私はそっとエマを抱きしめた。


エマにとってルーカスは兄のように思っていた存在だった。幼い頃から両親と兄弟を亡くしたエマにとって、ルーカスはかけがえの無い、家族だった。たとえ血が繋がっていなくても一緒に育ったルーカスが生きていたことにエマも安心したのだろう。




* * *



「帰還式が行われるみたいですよ」


ひとしきり泣き終わったエマはしゃっくりをしながら言った。


「帰還式って、戦争から帰ってきた人たちのパレードがあるのよね」


帰還式が行われる日は国民全員が休日となってそのパレードを見に行くのだ。そこで、生還した戦士たちを迎え入れて、国中がお祭り状態になる。


「ええ、そうです!今回は特に、大きな戦争だったため、きっと帰還式も大きく執り行われるはずです!そして、ルーカス様は何より国民の英雄ですから注目の的となることは間違いありません!!」


エマは圧のある目で言った。


「そ、そうね……でも、行きたく無いなぁ。帰還式って国民が休みになるけど、大通りにみんな一同に集まるじゃない?休みなんて貴重なんだから、家でゆっくり休みたいわ」


「そんなぁ……一緒にいきましょうよ!ルーカス様と5年ぶりの再会ですよ!数少ないご友人の勇姿を見届けるなんて2度とこない機会ですよ!」


「友達少ないいじりはしなくていいの」


私はエマの頬を軽くつねった。


「離してください〜!」


私はエマの頬から手を離した。


「ヴィオラ様、せっかくなんですから、行きましょうよ〜。帰還式なんて久しぶりですし、それに……」


エマは私に耳打ちをした。


「あの、大戦争で鍛え抜かれた屈強な筋肉も見られますよ」


「確かに、そうね!!街から筋肉を持った人がみんな戦争に行っちゃったから久しぶりに見られるわね!!絶対に行かなきゃ!!」


現金な私は、エマの一声で帰還式のパレードを見に行くことにした。



* * *



2週間後


「いやーついに帰還式ですね!ヴィオラ様!!英雄のルーカス様はきっと先頭にいるはずです!」


「ルーカスなんてどうでもいいわ、それより筋肉を、筋肉を見なければ!余裕があれば、デッサンを描かせてくれるモデルでもスカウトしようかしら」


私は、待ち焦がれた筋肉欲を発散する日が来てかなり興奮している。


「もう……ヴィオラ様ったら。ルーカス様に興味ないんですか?」


「ルーカスなんて、筋肉たちのついでよ、ついで。休日にわざわざ外に出てルーカスを見にきてやったんだから、それだけであいつに向けた祝福よ」


「パレードが始まるぞ〜!」

遠くから、ちびっ子たちが興奮した様子で大声をあげて呼びかけている。戦争を終えた戦士たちを一目見るべく子供から大人までパレードが行われる大通りに集まってきた。


「ついに……」


ごくりと私は唾を飲んだ。と同時に、屈強な若者たちが歩いてきた。




(はあ。なんてことなの!!!あら、この方、鍛え抜かれた大胸筋の膨らみが素晴らしいわ!あちらの方の背筋も素晴らしい、服の上からでもわかるわ。あらあら。あちらの方は僧帽筋が美しいは。久しぶりに箱入りの令嬢たちからは見られない、屈強な筋肉が次から次へとくるわ。なんてことかしら……)


私は久しぶりの筋肉に興奮して、目眩がした。


「あの、ヴィオラ様……」


そんな私をよそにエマは望遠鏡を片手に深刻な面持ちでこちらに声をかけた。


「どうしたの、エマ。もしかして、筋肉の魅力に圧倒されてるの??」


私は嬉々としながらエマに応答した。


「いいえ」


エマが低い声で返答した。


「言いにくのですが、ルーカス様がいらっしゃりません」


悲しい声でエマは言った。


もうパレードも後半だ。エマが言っていたルーカスが戦争英雄になったという情報が本当だったら、すでに現れているはずである。


「ん〜しょうがないわ。こんなに人がいるのだもの。ルーカスだったら、私たちのアトリエを訪れてくるはずよ。その時を待ちましょう」


「それより!!今は筋肉を楽しみましょ!!」


私は落胆しているエマを励ますべく明るく声をかけた。




* * *


パレードが終わり、私のアトリエでエマと夕食の準備をしていた。


「結局、会えませんでしたね。ルーカス様と……」


私たちはそのまま、ルーカスと会えないまま帰路に着いたのだ。


「ええ、そうね、でもたくさんの筋肉と出会えてよかったわ。素敵な筋肉を持つ殿方にスカウトできたし大満足の1日ね」


私は、机に手をつきながら、今日の記憶、もとい筋肉を思い出した。




コンコン


私の回想を遮るようにドアを誰かが叩いた。


「私が見てきますね」


エマがテキパキと玄関に向かったと思ったら、「きゃーーーー」とした声が部屋中に響いた。


「どうしたの!?」


私は慌てて、玄関に向かった。玄関ではいつもと違う様子のエマが呆然と直立していた。


「エマ!!一体、誰が……」








「久しぶり、ヴィオラ。そしてただいま」


目の前には、見慣れた赤髪、翠の目をした、背丈がドアよりも高く、そして、何よりも服がはち切れそうなほどの胸筋を持ったがたいのいい男が立っていた。









「誰??」


好きな筋肉はヒラメ筋です。

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