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5年前の約束

アトゥーラ帝国の貴族たちは、自分の肖像画を何よりも大事にしていた。

貴族たちにとって、肖像画は、自身の勇姿、美貌、権力を表す証明であり、後世に残る史料ともされた。


美しい肖像画であるほど長く残り続け、歴史に名を刻み多くの人々を魅了する。


よって、貴族たちは、理想の肖像画を求めてありとあらゆる手段で画家を見つけることに大金を注ぎ込み、何枚もの肖像画を描かせていた。


そんな肖像画を巡り貴族たちが躍起になって画家を探している世の中で、社交界では令嬢たちを中心にこんな噂が流れ始めていた。



(たぐい)まれな感性を持ち、美しい色彩感覚と優れた技巧(ぎこう)を持っている少女がいるーー」



* * *


今から5年前


幼馴染のルーカスが絵の練習をしていた私に突然こう言ってきた。


「ヴィオラ!俺が戦争から戻ってきたら、俺の絵を描いてくれ」


はぁ。と私はため息をついた。いつも騒がしいルーカスが今日はいつにも増して生き生きとした声音だ。


「……ええ、いいわよ。幼馴染だから特別に描いてあげる。ただし!戦争で英雄になったら描いてあげる」


「げっ。そんな……」


ルーカスが珍しく肩を落としているのを私は面白がった。


「な〜に〜弱気なの?私の絵は一介の下級騎士を描くほど安くないのよ」


「わかったわかった。英雄になって帰ってきたら、俺の絵を描いてくれよ」


そう言って、ルーカスはキャンバスを遮って顔を覗かせてきた。


「邪魔しないでってば!っていうか、その前にもうちょっと筋肉つけなさいよ、き!ん!に!く!あのダビデ像様のようにしなやかな体でないと描く気になれないわよ」


私は彼の上腕二頭筋を掴んで、あまりの細さにがっかりした。

そう、ルーカスは昔から体の線が細いのだ。いくら食べても背丈だけが伸び続けて、一向に筋肉がついていない。

だから、私は彼が戦争に出向くことがとても心配であるのだ。なんだって、あの線の細いルーカスが戦争で戦い抜く筋力があるのかが疑問だからだ。


「はあ!これでも同じ世代の騎士団の中じゃトップクラスに鍛えてる方だぞ!?お前、ほんと筋肉バカだな」


ルーカスは私の手を振り解きながら強がるように言った。


「ええ、そうよ!当たり前じゃない!私は結婚するならダビデ像様のように美筋肉の方とじゃないと結婚できないわ!!あんたなんて論外中の論外ね」


私は突き放すようにルーカスに言った。


「ああ、そうかよ」とボソッとルーカスはつぶやいた。


「覚えとけよ!戦争から帰ってきたら俺の筋肉に惚れざるおえないくらいムキムキになって帰ってくるからな」


ルーカスは赤色の髪をかきあげながら私に向かって指を刺した。


「できるもならやってみなさいよ、まあ、どうせ無理でしょうけど」


宣戦布告を受け取るように私は、腕を組んだ。




* * *


現在


「ヴィオラ様!素晴らしいです!こんな美しい絵が描けるなんて!これまで、お見合い用の肖像画を何人もの画家に描かせてきましたが、ヴィオラ様の絵が一番ですわ」


子爵令嬢のエリーゼ様が目をキラキラさせながら私の絵に描かれた自分を眺めている。


今日は、エリーゼ様が見合い用の肖像が欲しいと子爵から注文が入った。


最近、このような令嬢のお見合い用の肖像画の注文が増えている。

ありがたいことだが、個人的にはもっと筋肉質な殿方のデッサンをしたいと思っている。


 「ありがとうございます。エリーゼ様。しかし、そんなにお褒め頂けましても、エリーゼ様の美しさをそのままキャンバスに描いたまでですから・・・・・・」


あまりにも、彼女が嬉しそうだから、無意識に頬をかいていた。


「なんと、まあ。ヴィオラ様ったら、そんなことおっしゃらないで……照れてしまします」


彼女は頬を真っ赤に染めていた。


「あら、そうだったわ、ヴィオラ様、こちら報酬です」


彼女は突然、思い出したかのように重みのある巾着を私の手のひらに乗せた。


「!?」


(この重厚感……さすが、子爵令嬢……お金持ちだわ。これで、筋肉デッサンのモデル呼び放題だわ〜)


「ヴィオラ様……??」


(しまった……うっかり、筋肉に思いを馳せてしまった。)


「ああ、エリーゼ様、ありがたく頂戴いたします」



* * *


「それでは、失礼致しますね。またのご注文お待ちしております、エリーゼ様」


「ええ、次、もし注文することがあるならヴィオラ様に頼みますわ」


私は、エリーゼ様に(うやうや)しくお辞儀をして、その場を後にした。




(やーーーーったーーーーーーーー!!!!!これで思う存分筋肉描くぞーーーーーーー!!!!!)


私は心の中だけ、否、口角も上がりっぱなしのまま、自身のアトリエへ足早に帰った。


「たっだいまーーエマいる?」


「おかえりなさいませ、ヴィオラ様!!」


私のアシスタントをしているエマがいつもと違った様子で玄関に現れた。

いつもだったら、まるで小動物かのようにぴょんっと現れるエマが、今日は獲物を見つけたチーターのような勢いで迎えてきたため、驚いた。


「どうしたの!?そんなに興奮した様子で……。あ、まさか、今日の報酬を期待してるの??」


私は、恐らくニヤニヤとした顔だっただろう。

エマは私がかなりお金に執着しているのを知っているから、なおさら、今日の報酬料が気になると思っていた。


「そんなことじゃないんです!!!落ち着いて聞いてくださいね」


「な、何よ」


私は、普段と違うエマの形相にかなり焦って、生唾をごくりと飲んだ。


「ルーカス様が帰ってきます。それも英雄となって」


「……」





「は!?」

祝!初作品。温かい目で見守っていただけますと幸いです。

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